第8話 死にたいです

「あの白い猫ちゃん、今頃安らかに夢も見ずに眠ってるのかなー。いや、眠ってるなんておかしいか。消えることができたのだから」


 死猫はあの猫のことが忘れられなかった。


「いいなー、あの猫ちゃん。あの猫ちゃんに生まれ変われたらな。いや、生まれ変わるなんておかしいか。生まれ変わるじゃなくて……"なる"、かな。あの猫ちゃんになりたいな。いや、それも変か? もう消えたのだから……あの猫ちゃんみたいに消えたいな、かな。うん、それだな」


 死猫はあることを計画していた。

 自殺の計画だ。


 飛び込み自殺や焼身自殺など、自分で実行する方法は、無意識に超能力を使い助かってしまう。そこで、人に殺してもらえばいいんじゃないかと考えた。


 よく、立てこもり事件の犯人が警官に射殺されている。

 死猫はそれをやろうと思った。


 ………………が。死猫が変身できる人間は、13歳くらいの子供である。それでは、よほど酷いことをしない限り、射殺してもらえないかもしれない。


 なので、現在起こっている、立てこもり事件の現場へ出向いて、そこの犯人に殺してもらうことにした。


 猫の姿で某国の住宅街を歩き回っていた時、窓から見えたテレビのニュース。


 銀行に男が立てこもり中、5人死亡。


 早速現場に出向く。物陰で姿を消し、透明人間となり内部に侵入。


 犯人から見える所で、わざと、こっそりとトイレに行く途中かのように移動して見せる。


 「お前、どこにいくつもりだ!」


 犯人が気づくと、死猫は持参したナイフで、威嚇してみる。犯人に向かって走っていく。


 その時、一発食らうことに成功。

 いいぞ、いい感じだ。このまま何発も発射してくれ。そう思い、死猫は犯人を刺しに行く。


 犯人を二回刺すことに成功した時、死猫は十発ほど撃たれていたが、まだ意識などに変化はない。


 犯人は興奮状態で、あまり、死猫の超人的な肉体の頑丈さには気がついていないようだった。刺されまいと、何発も撃ち続ける犯人。


 死猫は、自身のあまりの頑丈さに、心が折れていた。


 無意識に超能力を使い、怪我を治してしまいそうになる。


 こんな人に注目されているところで、それはまずい。死猫は超能力を知られたくなかったし、面倒なことになりたくないので、自身の存在は隠しておきたかったのである。


 ……こんなに人の注目しているところで、こんなに死なないというのもまずかったかもしれないが。


 結果的に死猫が犯人の気を逸らすこととなり、その隙に警官が侵入、犯人を捕らえた。


「君、大丈夫!?」


 警官に心配されてしまった。病院などへ連れて行かれる前に、早く退場しなくては。


「あ、ちょっとすみません」


 そう言い、走って銀行を抜け出す。

 人混みに混ざり、猫になった。


 自殺作戦は、またも失敗してしまったわけである。

 自分の意思とは関係なく、間髪入れずダメージを受けられれば、回復しきれずに死ねるかと思ったが、そもそも人間よりも頑丈に出来ていたようだ。


 他に死ぬ方法があるだろうか。どうしよう。


 そんなことを思いながら、死猫は一旦諦めた。

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