第6話 殺人鬼に襲われたい?

 「無限って何でしょうか? 未来永劫のこと? 例えば、が無限だとして、私が死ぬ、もしくは始めからいなかったという世界も、無限の可能性の中にはあるんでしょうか?」


 死猫は独り言を言いながら超能力ちからの発散相手を探していた。


 理由もなくレンタルショップへ入る。


 某ホラー映画のDVDを手に取りながらブツブツ独り言を言う男を発見。


「現実世界もこんなふうにパニックになればいいのに……」


 男が店を出て行ったので、ついていく。途中で透明猫になり、男の自宅に侵入。男の部屋には、ホラーDVDがずらり。


 男はDVDを鑑賞しながら適当に食事を済ませ、寝てしまった。


 死猫は考える。

 この男の望みを叶えたいが、非現実的な現象を現実に起こすわけにもいかないし、映画ほど派手な事件を起こす可能性のある人物も近くにいない。

 そのため、男に夢を見せることにした。


 男はこんな夢を見た。


 気づくと百人くらいが椅子に拘束されている。動けないまま何日も過ぎるが、眠ってはいけない。眠ったら、殺人鬼が襲ってきて人々をあらゆる方法で痛めつけていく。目が覚めると、何も起きていない。椅子に縛りつけられているというだけだ。それが何度も繰り返され、運が悪ければ自分が被害に遭った。夢の中でどれだけ傷ついても目を覚ますと怪我一つない。死ぬことも逃げることもできない。

 そして、殺人鬼が、「この生活、いつまで続くと思う? もしも未来永劫このままだったらどうする?」と聞いてくる。


 そんな夢を。


「無限の可能性の中には、そんな世界もあるかもしれないと思いませんか? もしあったらどうしますか?」


 死猫は夢の中の男に訊いてみた。


 男は翌日午後二時頃に目を覚ますと、本棚にびっしりとあったDVDを見るなり、ぎゃあああ、と叫んだ。怖いものが苦手になってしまったのだ。


 やりすぎただろうか。


 死猫は、これから男が、ただの夢だったのだからと、恐怖を忘れてまたホラーの世界を楽しむようになるのか、怖がりになったのか、どちらなのか気になったが、まあどうでもいいかと考え直し、楽になった身体で一週間ほどのんびりしようと、男の部屋を出て行った。

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