第11話 張力一杯?!  の日本酒・約1合

 本来の「張力」という言葉とは少し違った使い方だとは思われるが、ここで飲める日本酒は、特に客からの希望がない限り、こんな風に注がれます。


 とにかく、コップ一杯!

 こぼれる寸前まで、ぴたっと、一杯!

 日本酒が何とか、そのグラスにとどまっていられるような状態ね。

 この女性店主様の技はまさに、神技レベルなのです。

 もちろんここには、グラスの下に升があるなんてことは、ありません。

 ~洗い物が増えるようなことは、されないのね。


 で、そのグラス一杯、おおむね1合の酒を、どう飲むか、って話になりますよね。

 そこはまず、手に持って運んだら危ないので、まずは、カウンターのテーブルに人間様が自ら顔を出張らせて、張り詰めた透明の液体をすすります。

 夏場であれ冬場の熱燗? であれ、そこは同じ。

 そしてこれが、この店の、「文化」なのですよ。


 張力一杯、おおむね1合、グラスの限界まで注がれた清酒。

 それを、まずはテーブルですする。

 そのあとは、普通にグラスを持って酒を飲みます。


 この店は、原則、どんな酒でも2杯まで。

 その後は、どこなりと行って、あるいは自宅に戻って、それから、しっかり飲み食いしてくださいね、ってことなのです。


 まさにこの「張力一杯の清酒」、客と店のせめぎあいの、ちょうどその境界性を示しているものと、言えましょう。


 1杯、ないし2杯。

 つまみはあるかないかは、その人、その時の流れ。

 それが終われば、またの機会に。

 さっと飲んで、さっと帰る。

 これが、この店のしたきりでもあり、文化でもあるのです。

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