第七話:ONE DAY

 今日は日曜日。快晴・気温、15度。

 つまり、絶好のボード日和だ。

 やはり曇っているより、晴れている方が断然気持ちがいい。

 まだみんなが起き出して欠伸をしている頃、俺は勢いよくボードで飛び出した。

「ひゃっほう!最高っ!」

 ボードを始めた頃は、滑ることさえままならなかったのに、今じゃどんな技も朝飯前。すまない、ちょっと盛ったかもしれない。でも、オーリーも、ターンもできず、なんのトリックも盛ってなかった頃に比べれば、大したものだと自分を褒めてやりたい。途中で諦めないでほんとよかった。

 もし俺にボードがなかったら、きっとつまらない人間だっただろう。相変わらず学校じゃ友達もできなかっただろうし、毎日そのことに不貞腐れて過ごしていたに違いない。今少しの自尊心を保てているのは、これのおかげだと思う。

 もしかして、ダンもこんな風にバイオリンが好きなんだろうか。俺はふと思った。

 はっきり言ってダンは、俺とは人種が違う。文字通りの人種ってわけじゃなく、違う。運動神経はよくなさそうだし、勉強ばっかりしてそうだ。でも俺は勉強はからっきしでボードばかりやっている。なんでそんな俺たちが今みたいに話せるようになったんだって聞かれてもそんなの分からない。でも不思議と馬が合うというか、なんていうか。

 世界はありきたりじゃないのかも。不思議なことだらけだ。

「おい、何にやついてんだよ。女か?ふん、ガキのくせに生意気な」

 いきなり脇から声がした。そっちを見なくたってわかる。

「…イアン」

「んだよその顔は?久々に会って挨拶もなしかよ」

 それはそっちもそうだろう。

「…久しぶり」

 感情のない声で俺は言ってみた。

「…そしてにやけてなんかないけど」

「はっ、そのあほ顔で何言ってんだ」

「…」

 俺はため息をついた。イアンはいつもこんな調子。ネガティブで卑屈で。人の批評ばっかしてる。ほんとに腹が立つ人なんだけど、一応、俺より4つ上。そして、俺にボードを教えてくれた人。

「そういや、お前、あれできるようになったのか、ヒール」

 イアンは急に真剣な顔になる。この人はボードとなると人格が変わるのだ。

「ああ、できるようになった」

「よし、見せてみろ」

 イアンに言われて、俺はボードに乗る。体をくいっと前に動かすとボードが滑り出す。何メートルか滑った後、俺はデッキを強く蹴った。そしてジャンプしてボードを回転させ、着地した。

 よし!決まった!

「NO WAY!」

 どうだとばかりに振り返ったら、罵声が飛んできた。イアンが腕組みして俺を睨んでいる。

「高さが足りないね。足が慌ててて、みっともない」

「…」

 容赦ないな。反論したいけど、できない。そんなことしたら、ものの数秒後に地面に倒れているだろう。ボードのこととなるとほんと熱くなるんだから…。

「お前さあ、脚力も大事だけど、トラック変えた方がいいんじゃねえか?

 トラックというのは、ボードのデッキとウィール、つまりタイヤを繋ぐための金属のパーツのことだ。どんなトラックを選ぶかで乗りやすさも、トリックのしやすさも違ってくる。

「テクもいいけどよ。道具も大事だぜ。まあ、買っといた方がいいぜ。付け替えるのが面倒なら、ボード買えやいいだろ」

「…そんなお金ないよ」

 俺は肩を落として言った。

「…ぶ」

「?」

「ブッあはははは!!」

 イアンが馬鹿みたいに大口開けて笑い出した。

「な、なんで笑うんだよ」

「いやだってさ、お前クールなくせに、やっぱ親のケツかじって生きてるガキなんだよなぁ、笑える」

「………」

 ほんとにこの人は…。俺は再びため息をついた。

「悪い悪い、ま、いい店紹介してやるから今度行こうぜ」

 ほんとに反省してるのかよ。

「はあ…」

 俺はもう一度ため息をついて、お金をどう工面しようか考え始めた。

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