3 砂塵の谷の攻防(3)

 気がつくと、隆司は天幕の中で寝ていた。


 そばには、春信君がいる。

「どうやら、気がついたようだな」


 少し朦朧としているが

「ぼくは……それに戦況は……」

「ハハハ、われらの大勝だ」


 笑顔の春信君に、隆司はほっとして

「そうですか………ところで桜花様がいたような」


「ああ、疲れて寝込んでおられる。しかし、隆司殿の受けた怪我が軽傷でよかった、桜花姫が隆司殿の止血をしたのだ」

 あのとき、隆司は動脈を切られ、とても軽傷とは言えなかった。


 そういえば初めて病室で会ったときも桜花は自分に何かしていたようだった。考えこむ隆司を見た春信君が


「まあ、桜花姫にはあとで礼を言っておくのだな。それよりイザルが隆司殿のことを見抜いていたとは敵ながら有能な武将だ。三大将軍である我より、隆司殿を討つことを考えた。しかし、イザルも哀れな将軍だ」

「哀れとは」


「この将軍も好きでこの戦線にきたのではなかろう、あの蛮族に脅されて、やむなく参戦したにすぎない」

 隆司はこの世界の情勢を知りたいこともあり、なぜ、敵将がやむなく参戦していたのかを聞いた。

 春信君は少し曇った表情で


「かつての創聖神界は、小国が集まり平和にくらしていたのだが、突然、蛮族がこの創聖神界を侵略してきた。侵略された国は属国となり、国は多くの貢物や人民を奴隷として差出し。さらに、イザルのように、同じ創聖神界の仲間と言ってよい国同士を戦わせている。そんな中、この麗欄と隣国のランバルだけは、なんとか侵略から持ちこたえているのだ」

 春信君の表情に深い憤りがうかがえる。


「そうですか………その蛮族とはいったい」

「もともと、北に住む魔導師とそれらが使役する霊獣や魔物で、それを総称して蛮族と呼んでいる。その魔導師を中心とする蛮族が霊獣や魔物を大量に野に放ち、創聖神界を混乱させ次々と周囲の国を占領しているのだ」


 隆司は、人を乗せる怪鳥や、大トカゲに、さらに魔物となると、ファンタジーの世界としか言い様がない。しかし、実感があり夢の世界とは思えない。


「これで隆司殿もわかったであろう、御身の在り方が。たとえ数百の兵や、我ら将軍を犠牲にしても自分が生き伸びることを考えてもらいたい」

 隆司は春信君の言葉が胸に突き刺さった。こんなお荷物な命が、数百人の命より重いとは、とても思えない。

 隆司は気のない返事をするだけだった。


「ところで、あの時は騙してすまぬ」

「いえ、春真君のお考えは黄帝様もわかっていたのでしょう、さすがです。私の知恵の浅はかさを思い知らされました」


 春信君は笑顔で首を横にふった。その時、隆司は思い出したように、

「あのー………春信君様に………お願いが……」

 相変わらず、しどろもどろの隆司に春信君は

「なんだ、はっきり言え。もう、私はお前を仲間と思っている」

 仲間………最近そんなことを言われたことがない、


「仲間だなんて、もったいないお言葉」

 隆司は、どこかこみあげてくるもがある。

「何を言ってる、それより願いとは」

 隆司は小さな手紙を取りだし


「飛雄馬で、この書簡を急ぎシオン将軍に届けてほしいのです」

「ほう、何だ」


「シオン将軍への首都攻略の戦術です、この三日の間考えていました。おそらく、イザルを倒したあと、シオン将軍は首都に向かっていることでしょう。シオン将軍にはご不要かと思いますが、ご挨拶を兼ね参考までにと書き留めたものです」


「わかった、届けよう」

 すると、春信君は自ら飛雄馬に向かっていく。


「ああ………将軍自らが」

「シオン将軍は難しいやつだ。伝令ごときが届けた、新参者の書簡をやすやす鵜呑みにする者ではない。ここは私が行って渡そう。それに、貴君の戦術にも興味ある」

 隆司は、照れくさそうに


「その、あくまで参考までにと」

「わかった、まかせておけ」

 そういうと、茜に染まった地平線に向かって。数騎の飛雄馬で飛び去っていった。

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