2 隆司の戦術(2)
隆司の話に、横の項越が真っ赤な顔で怒りをあらわにし。
「貴様は耳が聞こえないのか、話の分からない大馬鹿か! シオン将軍はわれらの最後の望みなのだ、話にならん! 」
隆司は怒鳴られるように言われて、肩をすくめて閉口したが、黄帝が苦笑いしながら。
「まあ、項越、ここは隆司殿の話を聞こうではないか。隆司殿、項越の言う通りシオンは最後の望みなのだ、それを反転させるとはどういうことだ」
穏やかな口調の黄帝に促され、隆司は気を取り直し話を続けた
「援軍が来るまでには、まだ十日以上かかります。敵は援軍が近づくことを知ればより早く我々を討って援軍を迎え撃つ支度を考えるでしょう。これでは、我々は全滅し、長旅をした援軍も危機に陥ります」
「あたりまえではないか! 」
武将の中から怒声が聞こえる。
「そこで、こちらに向かっているシオン将軍を反転して、敵の本国に向わせるのです。敵は、黄帝陛下を討ち取るべく三万もの軍を派遣した以上、本国の守りは手薄のはず。攻めるのは容易でしょう。敵にすれば、包囲をといて引き返すか、できる限り短時間で我々を攻め落として引き返すか、軍を二手に分けて一方を本国に返すかです」
隆司の策略に、ざわめく議場が静まった
すると、横の春信君が答える
「敵も決死の我々をそう簡単に討てるとは思えない。となると、現状を支える軍を残して、とりあえず残りを本国救援に差し向けるだろう。黄帝陛下を討つ機会は今後もあるでしょうから」
「私もそう思います。そこで本国に向かうとみせかけた援軍を、再び反転させ、我々と挟撃するのです」
すると武将の一人が
「しかし、この戦法をどうやって、シオン将軍に伝えるのだ。我々は袋のネズミ、伝令は直ぐに捕まるぞ」
それには
「隠密の伝令、伝書鳩など多数の方法で伝えください、どれか一つは届くでしょう」
「何をいい加減な、それでは敵にバレるではないか」
すると隆司はニヤリと笑い
「それで良いのです。相手に知らしめた方が」
「なぜだ! 」
「相手の立場になれば、分かりますよ」
答えをもったいぶる隆司だが、それは戦術をあまりひけらかすのは危険と思ってのことで、ここに間者がいないとも限らない。
それを察した黄帝はすぐに判断を下した。
「確かに、隆司殿の言うとおりだ。このまま戦っても負けるのは明白だ、援軍が到着するころには我々は影も形もないであろう、そうなれば、遠征してきた援軍自体も危うい。万一、敵が隆司殿の策に乗らなくても、敵の本国はシオン将軍により壊滅的な状況になろう、さすれば我らの敗北も無駄にならぬ! 」
そのまま話は進むと思ったが、向かいに座している春信君が突然立ち上がり
「援軍を反転するなど、新参の子供の意見で黄帝様を
事実上、春信君はこの軍を離脱するということだ。
座が凍りついた。
無論、黄帝は逃るつもりはなく静かな口調で
「よかろう、この作戦は隆司殿の策だが余は賛同した。異論のあるものは、ここから立ち去るがよい」
隆司は青ざめた、今は味方の結束が重要だ。
しかも一大将軍が抜けると、作戦の成功は難しくなる。隆司はこのような事態を生み出した自分の言動に後悔した。
横の項越が真っ赤顔で怒りの表情だ。ただし、項越将軍は隆司にではなく春信君に向かい
「命を惜しむのか春信君! 陛下を見捨てるというのか」
怒鳴る項越に、春信君は冷静な表情で
「黄帝様は、異論のあるものは去れと仰せになられた。私は、兼ねてから黄帝様だけを脱出させることを望んでいる。たとえ命をかけても陛下に何かあっては意味がない。黄帝様が生きておられればこそ、命を賭す価値があるのだ」
「貴様、それでしっぽを巻いて逃げるのか。やはり外様の将軍は、宛てにならぬ!」
項越が真っ赤な顔で叫ぶと、
「項越ひかえよ! 」
黄帝は項越の言を制した。
隆司の作戦は速くも大きな誤算を生み出した。隆司は血が凍る思いで言葉がでず呆然とした。
譲らない黄帝の決定に周囲は沈黙する。
まだ若造の隆司の策を採用した黄帝に納得いかない武将もいるようだが、黄帝の言葉に引き下がらずを得ない。
軍議は、そのまま後味悪く終了し。
武将たちは納得のいかぬまま退席した。
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