第49話 選抜試験
村の広場に集まった人数は大体200名ほどであろうか。
単体の冒険者もいれば、パーティでの参加冒険者もいる。
傭兵についても募集をかけていたがそれは集まらなかったようだ。
「皆の者、よく来てくれた! これから地方都市ブルックスの魔物の巣の討伐試験の選定を行う! 詳細はこのリバーシが説明を行う故、しっかりと聞くように! 今回の依頼は報酬も破格だが、希望があれば貴族に取り立ててやってもいい。まあ、その場合は犯罪歴がないなどの条件は発生するが。ラゼール帝国、王子フィルドの名において、これらの成功報酬を保証する! 以上だ!」
王子フィルドがそこまで話すと、側近のリバーシが引き取り前に進み出る。
「それでは試験内容を発表いたします。試験は…………これから村近くの比較的広い場所に移動して頂いて、バトルロワイヤルをして頂きます」
ざわざわと集まった冒険者たちからざわめきが起こる。
「今回の討伐に必要なのは武力。よって単純に武力を査定する最も良い方法は戦闘になります。バトルロワイヤルで残った者の中で、更に我々の眼鏡にかなう者が今回の試験の合格者となります。但し……戦闘の注意事項として殺しは失格になりますのでご注意ください。我々が求めているのは圧倒的強者です。バトルロワイヤルに残る自信がある方のみ、会場へ移動ください。それでは、会場までご案内します」
不平を言う者、黙ってついていくもの、会場とは逆方向に進み離脱するもの。
冒険者たちの反応は様々でった。
会場……といっても雑草などが生えた、村に近い平地まで移動し、
「大体50名くらいか残ったのは。とりあえずは4分の1程度の腕に自信がある人間に絞られた訳だな」
「はい、これからバトルロワイヤルに移り、そこからの更にの選定ですね。我々の眼鏡にかなう人間がいればいいですが……」
「すいません」
そこに一人の男が冒険者の集団から進み出て、王子とリバーシに質問する。
王子の護衛についている親衛隊は念の為、剣の柄に手をかける。
「はい、なんでしょう」
「私は勇者です」
「……勇者様……ですか」
「はい、なので試験は免除して頂けないでしょうか? 我々の勇者パーティー全員」
王子とリバーシは顔を見合わせる。
王子はその顔に手を置き、少し考えた後。
「ダメだ。勇者であろうとルールはルール。バトルロワイヤルには参加してもらう」
「そ、そんな! 俺は勇者ですよ! こんな有象無象の冒険者たちとは違って!」
勇者アベルは他の冒険者たちを指差しながら言う。
「申し訳ございませんが、先程王子様からありましたように例え勇者様だと言えど、ルールはルールでございます。バトルロワイヤルの参加が難しければ、帰って頂くしかないかと」
「じゃ、じゃあ、しょうがない。勢い余って怪我させても文句言うなよ」
そういうとアベルは冒険者たちの集団の中にいる、自パーティーの方へ戻っていった。
「どう見る? 自称勇者とやら」
「ほらを吹いているのであれば大した度胸の持ち主か、はたまた大馬鹿者かと」
「お前の目から見て、実力の程はどうだ?」
側近のリバーシは元々帝国騎士団長を、かつて務めた事もあるほどの強者。
白髪頭になった今はかつて程の武力は有していないが、人を見る目には確かなものがあった。
「おそらく、剣術、体術ならば精々Bランクといった所でしょうか。弱くはありませんが、我々が求めている人材ではないという印象。ただ正に勇者様であるのなら、特別な力を有しているはず。それ次第といった所でしょうか」
リバーシはその鋭い眼光を輝かせながらそう言った。
「なるほどな、じゃあ自称勇者は少し期待か。それ以外で特に目につく奴はいるか?」
「いえ、ぱっと見では特には……」
「そうか、今の所はお前の眼鏡にかなうものはいないか……」
「はい、それではそろそろ全員移動も完了したようなので、始めます」
「ふむ」
リバーシはそういうと冒険者たちの方へ少し歩み寄る。
「会場までの移動ご苦労さまです。念の為、ルールとしては殺人は即時失格になりますので再度ご留意を。逆に殺し以外であれば特に制限はありません。最後まで……何人残るまで戦って頂くかはこちらの判断になりますが、バトルロワイヤルが終了の場合は私が『終了!』といいますのでそれに従ってください。質問がある方はいますか?」
そういってリバーシは冒険者たちを見渡す。
彼らから特に手が挙がる事はなかった。
「それでは………………」
独特の緊張感。殺し合いではないが、いや、殺す気で来るものもいるだろう。
リバーシは現役だった頃の血が騒ぐのか、その口元をニヤリとさせながら――
「――――開始!!」
その合図により戦いの火蓋は切って落とされた。
ドサッ、ドサッ。
リバーシの開始の合図と当時に一人、二人と冒険者が連続で倒れた。
何が起こっているのか分からない。
ドサッ、ドサッ。
その後も引き続き冒険者は倒れていく。
見た感じ死んでいる訳ではなさそうだ。
「睡眠魔法か?」
「……その可能性が高いですが、魔法発動時の兆しが全く感じられませんね……」
同じように魔法攻撃の可能性に思い至った、何人かの魔術師は自身の周りにバリアを形成する。
最も状態異常系魔法は、通常物理攻撃を防ぐバリアでは防ぐ事はできないが。
ドサッ、ドサッ。
バリアを構成していたはずの魔術師も倒れる。
「お、おい、なんだ! これは!」
「う、うわぁーーー!」
攻撃者が確認できないその事態に恐怖に苛まれ、冷静さを失う冒険者などもでてきた。
「……かすかに……ですが」
「なんだ?」
「もしかしたら凄まじいスピードで、物理攻撃をしている者がいるのかもしれません。打撃攻撃の残滓のようなものを感じます……」
それはかつて王国騎士団長を務めた、リバーシだからこそ感じられるものなのか。
王子フィルドには全く分からない感覚であった。
もし仮にそうだとしても、リバーシの目にも止まらぬ速さの攻撃なんか、人間に繰り出す事が可能なのか?
王子フィルドは訝しながらも、次々と冒険者たちが倒れていくその光景を刮目している。
50名ほどいた冒険者の内、倒れていない冒険者がその半数ほどになったその時――
ガァキィイーーーーーンッ!!
会場に武器と武器が弾き合う大きな音が鳴り響いた。
その音を響かせたるは、二刀を十字に攻撃を防ぐ男と、剣を鞘に入れたまま攻撃を加える男。
二刀使いの方は顔に髭を蓄え長髪を後ろで止めている。
年の頃は30代くらいだろうか。ベテランの冒険者というのが雰囲気から滲み出ている。
もう一方の剣を鞘に入れたまま攻撃をした男は、見る限りまだ少年のようにも見受けられる。
「ひゃー、よく防いだね。すごいなあ、見えてたの?」
「いや、見えてはおらん。しかし、何者かが凄まじいスピードで攻撃をしている事は分かったが、それは目では追えない人外のスピード。故に見ようとせずに感覚を研ぎ澄ませて、我の間合いに来たものの攻撃を条件反射で防いだだけの事」
「へーそんな防御の仕方もあるんだ。すごいなあ」
「坊主、お前のその人外のスピード、固有スキルだな」
「う、うん、まあ、そうだけどよく分かるね」
二人のやり取りを聞いていた、他の冒険者たちがざわざわとざわめきをたてる。
「固有スキルであのスピードだって? 化け物じゃないか」
「見えないものなんかどうやって防ぐんだよ。勝ち目ねーだろ」
そのベテランの冒険者以外の者たちは、明らかに少年に対して腰が引けていた。
「お前の見立てではどうだ、リバーシ」
「……にわかには信じがたいですが、しかし、あの二刀の男、よく見ると思い出しました。確か名前は……そう、二刀のグレース」
「二刀のグレース……確か諸国を廻って剣の修行をしているという男か。少なく見積もってもSランクぐらいの実力だったか?」
「ええ、彼は合格ですね。にしてもグレースをもってして目視で追えない少年とは一体……」
残った冒険者たちの一部が走って会場から離れていく。
ある程度の実力を有する者たちが集まっているが故の、的確な彼我の戦力分析による試験脱落だった。
残った戦意を残した者たちをランスがまた
大方片付いた所でその様子を見た、勇者アベルは少年を指差して言った。
「ああ! 分かったぞ! お前、透明化魔法を使ってるな。それを髭面のおっさんが演技して防いだふりして……みんな騙されたようだが、この勇者アベル様は騙せんぞ!」
ヒューーっと隙間風が吹いている。
「あ、あの、アベルは勇者でよかったよね。勇者でも今の俺の動きって見えなかった?」
「そりゃあ、見えんよ、透明化魔法なんて使われたらな。うまい事やったな少年!」
「そのー、固有スキルとか使っても、ダメかな? スピード系のやつとか……」
「スピード系の固有スキル? そんなものは無いが?」
少年は彼の仲間たちと顔を見合わせている。
「ランス、こいつたぶん嘘つき。ランスと同じゆうし……うーーーっ!」
少年はランスというようだ。
エルフの少女が話していたが、何かまずい事があるのか、少年は途中でその口を手で塞いだ。
「いやー、ははは。まあ固有スキルが特に無いなら別にいいんだけど。じゃあ、続きをやりますか」
そういうとランスは勇者パーティたちと対峙する。
「リバーシ」
「はっ!」
リバーシは王子フィルドのその意図を汲み取り、前に進み出て。
「そこまで!」
ランスが一歩踏み込もうとしたその時、戦闘終了の合図がなされた。
王子フィルドは座っていた椅子から立ち上がり、リバーシの隣に並び立つと――
「皆のものご苦労であった! 試験はこれまで! 合格者は今、この会場に残っているものたちとする! 合格者への討伐作戦への予定は、追って冒険者ギルドを通じて通達する! 本日はご苦労であった!」
フィルドはそういうとマントを翻して、村の方角へ歩を進める。
その斜め後方にリバーシ、そしてその両サイドを護衛の親衛隊が固めて彼らは村へと帰っていく。
「あの少年たちとグレースは合格でいいでしょうが……、あの自称勇者の男たちまで宜しかったのですか?」
「ああ、奴らを残したのはな…………面白いからだ! 曲がりなりにも王族の俺に対して勇者だと偽れるか? 結果、嘘であっても真実であっても面白い! 少し楽しませろ!」
「……まあ、確かに殿下は面白いかもしれませんが…………死にますよ、彼ら?」
「そうなれば完全に自業自得だろう。まあもし偽だとしても、案外ああいう奴らはしぶといもんだ。にしても戦力は集まった! これで討伐にトライしてみるぞリバーシ、準備を進めろ」
「御意に」
さて、今回の募集だが王子フィルドは、側近のリバーシにも明かしていない本意があった。
ずっと探していた逆襲の機会。計画通りに事が進んでいる事に、フィルドはニヤリとその顔に笑みを浮かべた。
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