第48話 勇者パーティー
「おお、これがラゼール帝国か」
山の峠の関所をすぎて、外界が一望できる位置まで来た所でエヴァが言う。
巨大な帝都、世界最大級の都市。
天高くそびえる城壁の高さは3メートル以上はあるだろうか。
遠すぎて人間の姿は確認できないがあまりに巨大過ぎてその姿からは若干現実感が感じられなかった。
「あれが帝都で……私たちの目的地は……うーん、ちょっとまだ見えないですかね」
ソーニャが言う。
目的地の地方都市ブルックスは帝都から北東方向にある。
帝都から馬で1〜2時間という事だからそこまで遠くないだろう。
ただ地方都市ブルックスは今は魔物の巣になっているらしいので、近隣の村に荷物などを一旦置いて休むつもりだ。
「やれやれ、やっとこれでベットで寝れるな」
「エヴァは別にビューンって、飛んでいってもよかったのに」
「なっ、ランス、お前はロマンという物を分かっておらんな。私がこんな冒険にどんなに憧れていたか。ユルミア戦記を知らんのか?」
「ユルミア戦記はミミのバイブル……」
「おお! 分かっとるなミミ!」
エルフの里を出発して20日くらい経っている。
途中、ちゃんとした宿に泊まれたのは5日ぐらいだろうか。
現在は確か4日連続で野宿だったはずだ。
「えーと、ブルックスに近そうな集落は……セロンという村がありますね。ただスタンピードで無事かどうかは分かりませんが」
「潰されてなければいいがなあー。今日も野宿は勘弁だ」
地図を片手にソーニャが話す。
ミミ、ソーニャ、エヴァの3人は馬車の荷台に、運転手は俺という構成だ。
「じゃあ、そのセロンという村を目指していこう。ソーニャ、ナビお願いね」
「了解です」
俺は下り坂で慎重に馬と馬車を操りながらソーニャにお願いした。
まだ昼すぎだ。セロンがダメでもエヴァ希望のべットのある寝床までは、最悪今日中にはたどり着けるだろう。
「セロンって村でよかったよね……」
「はい、そのはずですが……」
簡易的に建てられた小屋のような住居も多いが、その数は村という規模を超えているように思われた。
それに武装した人間、おそらく冒険者ではなく軍人と思われる人間が多く見られる。
軍の訓練施設か、または、駐屯地にでもなっているのか。
ちょっと嫌な予感がしながらも俺たちは宿屋へと向かう。
「えっ! 満杯ですか?」
「ええ、ごめんなさいねえ。軍人さんと後、討伐募集に集まってきている冒険者たちで、もう全ての部屋は埋まってるのよ」
宿屋の女将さんは申し訳無さそうに言う。
チラリとエヴァを確認すると口と目を大きく開いていた。
「討伐募集ってなんか大々的な討伐があるのんですか?」
「あら、あなたたち、ブルックスの魔物の巣の討伐募集でやってきたんじゃないの?」
「いえ、違います。あれ? 魔物の巣の討伐募集がされてるんですね!」
その情報は僥倖だった。
まずはほとんどエヴァ任せで、当たって砕けろ、砕けたら逃げよう作戦で当たろうと思っていたが、共闘できるのであればありがたい。
俺は女将さんに挨拶して宿を出る。
エヴァは肩を落として下を向いている。
ミミとソーニャは野宿に対しての不満は今の所、聞いたことがない。
エヴァは案外繊細なのかもしれないな。
うーん、馬も休ませる必要もあるし、馬小屋の飼葉をべットに泊まらせてもらえないか交渉してみるか。
屋根と柔らかいべットがあれば気分も違うだろうし。
その後、馬小屋に馬を預けて、宿泊交渉してみたがすでに先約がいた。
同じような事を考える者はいるもんだ。
また野宿になってしまうがしょうがない。
その後、食事を取った後に冒険者ギルドへ行く。
冒険者ギルドは村のギルドとは思えない程、満杯の冒険者たちでゴッタ返している。
おそらく俺たちも含めてよそ者ばかりなんだろう。
こういう状況の時はよく喧嘩が発生するから気をつけないといけない。
依頼ボードを確認するとブルックスの討伐依頼の紙が貼ってある。
依頼ランクは……明記されていないな。
請負条件は選抜試験制となっている。
最低ランクは明記されていないから誰でも試験は受けられるできるはずだ。
成功報酬は……白金貨10枚!?
これ成功したらもう引退して遊んで暮らせるじゃないか……。
こんな成功報酬、試験合格させるつもりあるんだろうか。
「ガシャーンッ!!」
突然ギルド内に大きな音が鳴り響く。
ああ、バカが喧嘩を始めたな、と思って振り返ってみてるとそこにはエヴァと、おそらくエヴァに殴られたであろう地面に横たわって、鼻血を垂れ流している男がいた。
いや、お前か。
「何しやがるこの野郎!」
エヴァはそう啖呵を切る男に対して一睨みを入れ。
「今すぐそこにひれ伏し土下座しろ。そうすれば命は助けてやる」
仁王立ちで偉そうにそう言い放った。
その男は見る見るうちにその顔を真っ赤に変色させ青筋をたてる。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
俺はそこに割り込む。
このままの流れでいけば男は殺される。
「そこの奴らが私に対して無礼な口を!」
「ちょっと冗談でからかっただけだろうが! 俺らは勇者パーティーだぞ!」
「「「勇者パーティー!?」」」
倒れている男と口論している奴。
それに杖をもった女に同じく杖を持った男が一人。
4人パーティーかな。
じゃあ今、口論してる戦士っぽい奴が勇者かな?
「あんたが勇者か?」
「ああ、そうだ。俺の名は勇者アベル!」
エヴァがアベルに近づきジロジロと見やる。
そして口に手を置き、しかめっ面をしながら。
「お前が勇者だとぉ? 今まで何人か勇者は見てきたがこんなに弱くて素養がないのは始めて見たぞ」
「……お前、さっきから喧嘩売ってるのか?」
ワナワナと体を小刻みに震わせながらアベルが言った。
「まあまあ、ちょっとこの子はおかしいので」
「なっ、ランス! 私のどこがおかしいのだ!」
俺はミミとソーニャに目配せをして。
「エヴァ、ちょっと外にいこう」
「そうですわ、夜風に当たって頭を冷やして方がいいです」
「ちょ、離せ! まだ話は終わってないー!」
ふーやれやれ。
ミミも気が短いがエヴァはそれ以上だ。
今後、気をつけなければ。
「それでどうするんだ?」
「……どうするとは?」
「こっちは一人殴られているんだ。然るべき……」
「ああ、どうもすいませんでした。うちの子が」
「なっ……」
俺は面倒くさいのですぐに謝る。
エヴァはたぶん一言くらいからかいの言葉受けて、すぐにぶん殴ったんだろうしな。
どっちかと言えば悪いのはこっちだ。
「まあいい。いや、良くはないが! 勇者の慈悲を与えてやるよ」
「……はあ、それじゃあ」
勇者の慈悲ってなんだよ、と思いながら俺はその場から立ち去った。
勇者パーティーが討伐にいるなら心強い。
まあまだ俺達も選抜試験に合格した訳じゃないが。
あっ、でも勇者なんだったら
ダブル
俺はそんな事を考えながら、外でギャーギャーと騒いでいるエヴァたちと合流した。
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