第45話 魔神召喚
『ルドラ・ルシャーテ』
そのマントラを唱えると光の柱が天上から降り落ちる。
その光の柱が構成されて5秒程度経った頃だろうか。
「呼ばれて飛び出てじゃんじゃじゃーーん!」
天に人差し指を指差し、腰に手を当てたポーズをした魔神エヴァが現れた。
前もこんな感じで現れたような……この人はいつもこんな感じで現れるのだろうか……。
「久しぶりだなランス! っていうかもっと私を呼んでよ! 寂しかったぞ!」
「ごめん、わすれ……いや、エヴァを呼ぶような強敵がいなくてね。今、あそこにいるダーク・トロールロードに苦戦してるんだけど力貸してくれる?」
「ん?」
エヴァはダーク・トロールロードの方に目線を向ける。
「おおー! ミミがボロボロにやられてるじゃないか。ソーニャは倒れてるし大丈夫か? よし、任せろ! おい、豚野郎!!」
「ああんッ!」
エヴァがダーク・トロールロードに大声で呼びかけ、それにダーク・トロールロードが応える。
すると一瞬でエヴァは、ダーク・トロールロードの近くまで移動する。はやい。
そしてエヴァはちょっと飛び上がり、上空からダーク・トロールロードに拳を振り下ろして殴りつけた。
エヴァが殴ったその衝撃で直径10メートルくらいのクレーターが作られる。
まるで小さな隕石でも堕ちたかのようなクレーターだ。なんちゅう威力だ。
「ぐぬぬぬぬーーーッ、何だ! お前は」
ダーク・トロールロードは、その中央部に埋め込まれているようになっていたが、その体を起こしてクレーターから這い上がってきた。
「ほほうー、今ので死なないか、じゃあ、これならどうだ!?」
エヴァはダーク・トロールロードに手をかざす。
その手から閃光と同時に凄まじい衝撃波が発せられる。
その衝撃波はエヴァを起点に森の木々をハの字の形に数百メートルに渡ってなぎ倒している。
俺はその光景を呆然として見つめる。
彼女が本気になったらこの世界ごと破壊されてしまうかもしれない。
てか彼女がいればもうなんでも大丈夫じゃないかな。
もっと早く呼んでおけばよかった。
エヴァが放った衝撃波の土煙が晴れて、ダーク・トロールロードの攻撃後の姿が明らかになる。
「はぁ!?」
エヴァが驚きの声を上げる。
そんなエヴァの攻撃に対しても、ダーク・トロールロードはダメージを負った様子はなかった。
「なんだ貴様は? その魔力……せいぜい魔王レベルだろう。それが私の今の攻撃で死なないだと?」
とその時、辺りにいきなり複数の黒雷が激しい音を鳴り響かせて落ちた。
「こらぁ! エヴァ!」
どこからかエヴァを呼ぶ大声が聞こえてきた。
「お、お父様……」
エヴァが応える。お父様?
「お前、人間界で神の力をふるってはいかんと言っとるだろうが! 今後人間界でのお前の力は制限する。後、ちょっとこっちにこい! 何百年も音沙汰なしかと思っていたらこれか! 説教だ!」
「ああー、お父様ゆるしてぇー。ごめんランス、お父様に……」
そこまで言うとエヴァはヒュンッとその姿を消した。
冥界に召喚されたのだろう。
エヴァのお父さんか……一体だれなんだろう。
にしてもエヴァが消えた事でまた形成は不利になってしまった。
「なぜ闇側の神が……まあいいわ、お楽しみを続けるとするか」
そう言うとダーク・トロールロードはまたミミに攻撃を加え始めた。
ミミはそのダーク・トロールロードのパワー、スピードに対応できていない。
ミミが一方的にやられる嫌な打撃音が周囲に響いている。
封印の黒い帯は後もう少しだ。
俺は今すぐに加勢にいきたい気持ちを必死に抑える。
ミミはいつしか抵抗すらできずに一方的に殴られるだけになり、遂には力尽きて倒れてしまった。
「うん? そろそろ壊れてしまったかこの玩具は」
その時、封印の黒帯は妖精王の剣によって切断され――
それと同時に生気のなかった世界樹が突如として光を発し始める。
光を発する世界樹はどんどんその枝を天高く伸ばしていき、大空へその枝を見えなくなるまで伸ばし続ける。
黒雲の一部は徐々に晴れていき、遂に太陽がその姿を現した。
「太陽だ……」
久しぶりにその温かな光を全身で浴びる。
すべての黒雲が消え去ったわけではないが、世界樹の封印が解けたことによって一部の黒雲は消え去った。
「グルルルルルルルルッ」
先程の世界樹からの強い光の影響だろうか。
ダーク・トロールロードの方はその体から黒い粒子が少しずつにじみ出ているように見えた。
俺は倒れてしまっているミミの元へと駆け寄った。
「……いかせ……ない…………ララの元へは……お父さんとお母さんの元へは……ミミが……守る……大切な……今度は……守る……」
ミミは朦朧とする意識の中で呟いている。
顔はひどく腫れ上がり原型をとどめていない。
全身もどれだけ折れているのかも分からないほどに、青く変色して腫れ上がっている箇所が多く、見るのも痛々しい。
ミミは正に命をかけて、最後には気力だけになりながらも、その意識の中でまだ戦っている――
彼女の妹とそして両親の為に。
色々あったようだが、彼女も久しぶりの再会で色々と思うことがあったのだろう。
俺は胸に去来する熱いものをぐっとそれを堪え、ダーク・トロールロードに対峙するよう向き直る。
「知っているか? 人系の者の肉は殴る事でうまくなるのだ。そのエルフは頑丈だからたくさん殴れた。食すのが楽しみだ」
そう言うとニヤリと邪悪な笑みをあげて、ダーク・トロールロードは先程放っていた巨大な斧を手に取った。
「………………」
俺の中で見えない何かが音をたてて切れた。
妖精王の剣と自身の体に強力な身体強化を行き渡らせる。
そして剣を天高く掲げ――
その剣に凄まじい雷撃が天から降り落ちる。
俺はその雷撃を剣を中心に留まらせる。
それとは別にどうしても身体中を走る電流。
その激しい痛みに耐えながら――
俺は自身が持つ剣技の中でも最大級のダメージを誇る技を放つ!
『ライトニングブレード!!』
周囲に電流をちらしてチリチリという音をたてながら、雷撃の疾さでダーク・トロールロードの右肩から入ったその剣は、そのまま地面までその体を真っ二つにして振り下ろされた。
二分されたダーク・トロールロードのその体は、剣撃の最中に放出された雷撃によって一瞬のうちに凄まじい音をたてて、消し炭へと変化していく。
「焼豚の出来上がりだクソ野郎」
そう言うと俺は雷撃によって負った痛みで少しその場に座り込むが…………すぐに立ち上がって倒れているミミとソーニャの所へ駆け寄った。
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