第44話 封印の解放

 世界樹の封印の黒半球。

 前に折れた剣の時の記憶が蘇る。

 大丈夫だろうか。

 銀白色の妖精王の剣身を見つめる。


 しかし、どちらにせよトライしなければ前に進まないのだ。

 俺は覚悟を決める。よし!


 前と同じように剣を上段から振りかぶり、世界樹を覆っている黒半球のドームに斬りつける。

 すると斬りつけた箇所からその結界は波及するようにまたたく間に消滅していく。

 小山程度の大きさがあった巨大な黒半球のドームはあっという間に消滅した。


「すごい……」


 ミミとソーニャもその様に目を丸くして驚いているようだ。

 これが聖剣、妖精王の剣の聖なる力か。


 闇結界が解かれた事により明らかになった世界樹のその姿。

 小さな小山ほどもある大きさだが、その無数の枝には青葉はなく枯れている。

 封印されているからかその巨体からは生気のようなものも感じられなかった。


 俺たちはその世界樹の懐、幹の位置まで進もうとするが早速魔物たちが現れる。

 魔物はオークにトリプルヘッドウルフ/三頭狼だ。


 トリプルヘッドウルフが俺に飛びかかってきた所で戦闘開始となった。


 俺たちは次々と襲いかかってくる魔物たちを打ち倒しながら奥に進んでいく。

 Aランク以上、下手したらSランクの強敵も雑魚敵にいるのかと想定していたが、今の所は精々Bランクだ。

 ミミとソーニャも危なげなく魔物たちを倒していっているが、ソーニャが暗黒世界になる前より動きがよくなっているように見えるのは俺の気の所為だろうか。


 幹の手前まで進むと幹の前に鎮座している巨体のオークと、世界樹の幹を円形に囲んでいる黒い帯のようなものが視界に入る。


 巨体のオークは豚の頭に小さな二本の角とその口からは二本の大きな牙を生やしている。

 体は脂肪に覆われ、体長も2メートルを有に超えているが横幅も2メートル近くあるのではないかと思われるほどの巨漢だ。

 通常のオークは人間の肌色を少し濃くしたような肌の色をしているが、こいつは全身が黒色となっていた。

 黒色の軽装な鎧を着込み、マントを纏って、その片手には巨大な黒斧が握られている。


 圧倒的なその存在感と威圧感……こいつがダーク・トロールロードだろう。


「よくここまで来たな人間どもよ。わざわざ我に食われにご苦労な事だ。お前らの悲鳴と叫び声をスパイスにゆっくりと味わってやるわ」


 トロールロードは鎮座していた椅子から下卑びた笑い顔を浮かべながら立ち上がるとそう言った。


 魔物の中でも人を食うタイプの魔物については一部の竜やウルフ系、そしてこのトロール系が有名だ。

 トロールは大食いの雑食で基本何でも食べる。

 わざわざ食べる為に人間を飼育していたなんてのも、過去にはあったらしいのでそういう意味では、ゴブリンたちよりもたちが悪い種族だ。


 目についた雑魚はあらかた片付けたから残る敵はこいつだけのはずだ。

 だが事前情報ではダーク・トロールロードは絶対防御を有しているはず。

 まずは世界樹の封印を解いて絶対防御を弱めなければならない。


 封印は……世界樹を覆っているあの黒い帯だろう。

 先程の結界と同じように一撃で解ければいいが。

 そのためにまずはミミとソーニャで、少しの間なんとか時間を稼いでもらうしかない。

 できればソーニャの聖魔法でなんとか打開策を見つけて欲しい。


「ミミ、ソーニャ、悪いけどちょっとの間、あいつの事任せていいか? 俺は世界樹のあの黒い帯の封印を急いで解いてくる」

「「了解です!」」


 俺はそう頼むと世界樹を囲むその黒い帯へと駆け寄る。

 それと同時にミミとソーニャがダーク・トロールロードに踊りかかった。


 俺は黒帯へ聖剣を振り下ろした。

 その瞬間、帯を構成している黒の粒子が火花のように飛び散る。

 聖剣と黒帯の接触面では絶えずその黒の粒子が飛び散って、少しずつその黒帯は切断されていっているようだ。

 だが、その速度は遅い。

 これでは黒帯の封印を解除できるのは、少し時間がかかりそうだ。


 ミミとソーニャの連撃をトロールロードはその巨体からは信じられないようなスピードでかわしている。

 あの連撃は…………俺でも瞬神しゅんしんを使わないとかわせないだろう。

 見た目によらずパワーだけでなくスピードにも優れているようた。


 その連撃の繋ぎ目のほんの一瞬のすきをついた、トロールロードが繰り出した裏拳によってソーニャは殴り飛ばされる。

 鼻血であろう鮮血を宙に撒き散らしながら、10メートルほどふっ飛ばされ地面を少し滑りながら倒れ込んだ後、ソーニャは動かなくなった。

 たったの一撃で気絶させられてしまったようだ。


「すぐに殺してしまってはつまらないからな。まずは素手で少しずつ、いたぶってから食してやる」


 ダーク・トロールロードは鮮血が飛び散った自身の手の甲を舐めながらそういった。

 後はミミに踏ん張ってもらうしかない。


「はあああああああッ!!」


 ミミはその闘気を目に見えるほどの強さで全身に行き渡らせる。

 本気だ。ソーニャがやられてもう後がない。


『百烈闘拳』


 ミミは正拳突きと闘気とを合わせた必殺の連撃を繰り出す。

 一撃一撃が大岩でも粉砕するような威力のその攻撃は直撃しているが……。

 その分厚い脂肪と絶対防御の力だろうか、トロールロードはミミの攻撃の最中にも関わらず、ポリポリと頭を少し掻いた後に――


「マッサージでもしてくれてるのか? 効かんなあ」


 そうして悪魔のような笑みを浮かべると――


 ズドーーーーンッ!!


 ミミを殴りつけたその衝撃音は周辺に響き渡った。


 ミミはその顔面への攻撃を両手クロスして防御していたが、それでも鼻からは血が滴りダメージを負ったようであった。


「お前は少し頑丈そうだから強めに折檻してやる」


 そういうとダーク・トロールロードは片手に持っていた黒斧を近くに投げ捨て、両手でミミに対して殴りの攻撃を入れ始める。

 連続する打撃音。その嫌な音が辺りに鳴り響いている。

 攻撃しても効かない以上、ミミは防戦一方になってしまっている。


「くははははははーーーはぁッ!!」


 加虐へのその愉悦からダーク・トロールロードは大きな笑い声を上げる。


 まずい……封印の解除を止めて加勢にいったほうがいいだろうか?

 このままではミミはもたない……俺は自問自答する。


 数秒の思考、そこで俺の頭にパッとひらめきが訪れた。

 そういえば…………自分には切り札があったんだ!


 そして俺はそのマントラを唱える。

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