第41話 姉妹の再会
「ああ、あれだな」
森の先に見える開けた光景。
それぞれの家は大木をそのまま中をくり抜いて家にしているようだ。
それらの大木は通常ではありえないほど、直径が大きかった。
何か特殊な魔法でも使って育てたのだろうか。
流石森の民エルフだな。
傍らのミミをちらりと見やる。
旅立ちからずっと、エルフの里に近づくにつれて寡黙になり、ボーッとしている事も多くなった。
何か思い悩んでいるようだが、たぶん実家に関係する何かなんじゃないかと思っている。
エルフの里の入り口まで近づくと分かったが、何やらエルフの里周辺に結界がはられていた。
「ミミ、なんか、結界あるけど大丈夫これ?」
「うーん、前はなかったけど、たぶん大丈夫」
ミミはそう言って結界の先に進むと――
問題なく通れたようだった。
俺たちも恐る恐る進んでみるが――
問題なく通れる。
なんだろう?
特定の外敵が通れないようにしているのだろうか。
里の中は当然だがエルフだらけだ。
外来してくるものが物珍しいのか里の連中はジロジロと俺たちを見てくる。
「あれ、もしかして、ミミ様ですか?」
エルフの中の一人がミミに尋ねる。
「「ミミ様!?」」
俺とソーニャは驚いて言った。
「ミミ、実はエルフの里の王族……だった、今はもう除籍されてるかもしれないけど」
ミミは少し恥ずかしそうに口を尖らせていつもより小さい声で言う。
何か事情があるのだろうとは思ってたがまさか王族とは。
悪いがミミが高貴な出なんて全く想像がつかなかった。
ミミを確認したエルフの一人が里の奥の方へ急いで走っていった。
だれかに報告をしに行ったのだろうか?
「ミミ、宿屋どこ?」
「ん、あそこ」
宿屋は複数の大木が結合して出来ていた。
幹につけられている扉を開き、中に入る。
そうして宿泊の手続きをしていていると先程のエルフの人が息を切らさせながらやってきた。
「ミミ様、女王ララ様が王居でお待ちです。お会いしたいとの事。というか絶対に連れてきて欲しいとの事です」
「……分かった……ご主人様とソーニャも妹に紹介する」
宿屋に荷物を預けた後はミミについて王居へ向かう。
またちらりとミミを見やる。
何やら深刻そうな顔。今まで一緒にいて見た事がない顔だ。
やはり家族との間で何かあるのだろうと予測する。
王居は他の大木の住居とは打って変わってシンプルな石造りの造りとなっている。
扉は木で作られており、それをミミはノックした。
「ミミ様……おかえりなさいませ。お連れの方もようこそいらっしゃいました。王女は2階の寝室にいらっしゃいます。それではこちらへ」
王居だから内部は絢爛豪華で、という事は全くなく、床には木板が敷き詰められ壁は白の漆喰が塗られた石壁。
シンプルだが良い素材を使っているというのはひと目で分かり、そのシンプルさから一つの様式としての美を感じた。
「こちらで女王様がお待ちになります」
2階の目的の部屋の前まで着く。
ミミは緊張した顔をしている。
たぶん先程のエルフや従者の様子からミミはエルフの里に久しぶりに帰ったのだろう。
という事はミミは王族らしいので家族との久しぶりの再会という事だ。
この旅が始まってからいつもと違ったミミの様子。
家族との間に何かあるのかもしれない。
俺たちに気兼ねなくまずはミミだけで再会してもらった方がいいだろう。
「ミミ、俺たちは一旦外で待ってるから、まずは二人で再会しなよ」
-- ミミ視点 --
ランスはそう言ってくれた。
家族の事は特に何も伝えてないはずだが、私の様子から何かを感じとってくれたのだろうか。
扉を開き、中へ歩みを進める。
見慣れたベットの上に……妹のその姿があった。
妹のその体に、腕に……何か黒い斑点のような物ができている。
それは水竜の表皮に出ていたのと同じような黒い斑点だった。
妹と目が合うと……ララは嬉しそうに……そしてほっと安心するような表情をした。
長い間、離れていた二人。
どうなるかと思っていたが、その表情に昔の面影を見て取り、一瞬で二人の心が通じ合ったのが分かった。
「お姉ちゃんひどいよ、いきなりいなくなって……」
ララは嬉しそうなその顔から、今度は一転悲しそうに顔を歪ませながらそう訴えた。
「…………ごめん…………ララ、その体の黒い斑点どうした?」
「これは森と世界樹が闇で穢されたから……それと繋がってる私もそれに侵食されてるの」
そうだった。エルフの女王の役目。森と世界樹の仲介者。
暗黒世界になり、更に世界樹が闇に侵食されているのならララにもその影響は及ぶはず。
痛々しいその黒の闇の侵食跡。代われるものなら代わってやりたい。
このまま闇の侵食が進めば命が危ないだろう。
「私、頑張ったんだよ。お姉ちゃんが突然いなくなって……、寂しくて辛かったけど……頑張ったんだよ……」
「…………」
今のララのその表情が幼い頃の彼女と重なる。
私に甘えたくても甘えられなかったのだろう。
私に頼りたくても頼れなかったのだろう。
姉妹だ。妹のその表情で分かった。
王宮に来る前に決めていた。
泣かないと決めていた。
それは私の意地だった。
唇を噛み締め、両手を握りしめる。
「お姉ちゃんは私の事……嫌ってるかもしれないけど……、私はお姉ちゃんが大好きで……ずっとそばにいて欲しかった……」
「…………」
私は……妹がこんな思いをしてるのに……女王として責務を果たしボロボロになりながらも頑張っているのに……。
「でも……無事で良かった……もしかしたらと……また会えて……」
「…………」
そこにはエルフの女王としてではなく、ミミのたった一人の妹、ララの泣き顔があった。
ララはその痛々しく闇に侵食されたその腕を私の背中に回して抱きしめる。
「ごめんララ……ごめんね……ごめん……」
決めていた。
泣かないと決めていた。
ララのその背中に手を回して抱きしめる。
「おねえぢゃん、よがっだぁーー」
堰き止めていた感情の濁流。
妹のそのぬくもりと温かみ、そしてその心に触れる事によりそれは決壊した。
「ほんどは…………さびしがっだ…………あいだがっだ…………つらがっだ…………ララと……お父さんと……お母さんにあいだがったぁーー」
隠していた胸の内が濁流のように吐露される。
愛しい妹。
大切な妹。
本当は寂しかった。
本当は会いたかった。
本当は手助けしてあげたかった。
だけど自分の意地のせいでそれは叶わなかった。
申し訳ない。
申し訳ない……
「ごめんね……ララ……そんなになるまで……辛かったよね……ごめんね……ごめんね……」
ララのミミを抱きしめるその腕の力が徐々に強くなる。
「ぐすっ」
そして部屋の外にいてそのやり取りを聞いていたランスとソーニャ。
彼らもまた姉妹のその再会によって涙腺を刺激された事は言うまでもない。
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