第42話 妖精界へと

「わざわざ遠くよりお越し頂き、誠にありがとうございます。女神様より世界樹へと指示を受けたと姉のミミより伺っております」


 痛々しいその闇の侵食跡を体に刻んだ女王ララ。

 俺たちはミミから紹介を受けて、お互いに簡単な自己紹介を済ませた。


 ミミは姉妹と仲間とシチュエーションが慣れないのかちょっと恥ずかしそうにしている。

 またエルフの里に最初来たときよりは、ミミの顔にあった影のようなものが少し薄れている気がした。


「それでは早速なんですが、世界樹の暗黒世界になってから今の状況についてお聞かせ願えますか?」

「はい、世界樹の方ですが現在魔物たちに支配されて闇の力に侵食されて、世界樹の光の力が世界に及ばないように封印されてしまっている状況になります。それを打破しようと我々エルフも戦いを挑みましたが、全く歯が立たずで……」


 エルフと言えば魔法に長けた種族。

 その彼らが全く歯が立たないというのは相当な強敵という事だろうか。

 または魔法が効かないなどの特性のある敵か。


「現在エルフの里は結界がはられて、なんとかその闇の侵食と魔物たちの進行を防いでいる状況です。そしてその結界は妖精界の妖精女王の力によってされており、一部のエルフは、私の両親もそうですが、結界を張るための魔力の一部を供給するために妖精界に赴いています」


 そう言うと女王のララはミミの方をちらっと一瞥する。


「エルフをしても全く歯が立たないというのは相当な強敵ですよね。一体、どんな魔物なのですか?」

「魔物たちのボスがダーク・トロールロードになっています。トロールロードはゴブリンのように形態変化をさせる形態の中での最上位、王のキングの次階級で皇帝のロードとなります。トロールロードはその状態でも討伐Sランクの個体ですが、それに闇の力が加わり更にダーク・トロールロードと形態変化する事でSSランク以上の魔王に匹敵するかのような化け物となりました」


 ゴブリンキングがあの強さだ。

 あれから更に二段階くらい上の強さ。

 確かにかなりの強敵だろう。


「ただそれだけであれば我々エルフでもなんとか戦えたと思います。やっかいなのはダーク・トロールロードが固有スキルとして絶対防御を有している点です。この絶対防御ですが物理攻撃、魔法攻撃の攻撃のダメージを一切受け付けないという、とんでもないものです」

「一切受け付けないって……それは倒しようがないんじゃ?」

「その通りです。元々表皮が固く、ぶよぶよのその肉体は攻撃耐性にかなり優れていましたが、それに闇の力が加わる事で絶対防御というスキルが発現してしまったようなのです」


 それでいて防御以外の戦闘能力はSSランク以上のものがあると。

 はっきり言ってチートだし、そんなの倒しようがないんじゃ。

 闇属性からの固有スキルという事で、聖属性からの攻撃はもしかしたら通るかもしれない。

 ただ聖属性の魔法はエルフも当然試しているだろう。


「うーん、その絶対防御ですが、何も弱点はないのでしょうか?」

「今の所は残念ながら見つかっておりません」


 魔法剣など片っ端から試してみるか。

 瞬神しゅんしんプラスのスピードで攻撃力を最大限上げてみるとか。

 それぐらいしか現状では思いつかない。


「それに現在世界樹は周りに闇結界が貼られており、世界樹に近づく事もできません」

「その闇結界は破れないのですか?」

「我々の魔法では破れませんでした」

「物理攻撃では?」

「それは試せてはいませんが、おそらく厳しいかと」


 試しに俺の魔法剣で破れないかやってみようか。

 もし結界が破れるようならそこからは俺一人でダーク・トロールロードの所まで瞬神しゅんしんで行ってみよう。

 そして戦ってみて絶対防御の突破口が見つからないようであれば瞬神しゅんしんで逃げればいいし。

 そうやってトライアンドエラーで可能性を探っていくしかないかな。


「じゃあ、とりあえず俺の魔法剣でその闇結界を破れるか試してみようと思います」

「……そうですか、分かりました。くれぐれも無理はなさらないようにお気をつけて下さい」


 俺たちは女王の居室を出ると早速、ミミの案内で世界樹へと向かった。




 真っ黒の半球上のドームが世界樹があるであろうエリアをすっぽり覆っている。

 その大きさはちょっとした小山くらいはあるだろうか。

 そのような巨大な黒の半球ドームというは非常に異様に見える。

 まるでここだけまるで異なる世界に来たかのような。


 素手でそれに触れてみるが、それ自体は特に熱を持たず、反発するという事もなく硬質な無機質な物体という感じがした。


「まずミミ試したい」


 同じようにそのドームに触れていた、ミミはそう言うとその利き手の右の拳に闘気をふんだんに乗せて正拳突きを構える。

 俺たちの目視でその拳に闘気が大量に乗った事が分かる状態になると。


「はあッ!」


 気合一閃ミミはドームに向けてその拳を思いっきりぶつけた。

 拳とそのドームの接触時になんらかの衝撃音が発生するかと思っていたが、なんの音もしない。

 ミミは疑問そうに首を傾けて。


「拳に全然衝撃がない。なんか衝撃が吸収されたみたい」


 打撃系はその衝撃が吸収される構造になっているのだろうか?


「次は俺が試してみる」


 俺は腰から剣を抜き、その剣に火・雷・風、複数の属性を宿らせる。


三色共鳴剣みしききょうめいけん


 キィイイイイーーーンッ!!


 共鳴音が鳴り響くその剣を俺は上段に構え。

 瞬神しゅんしんも使用して闇結界に向けて振り下ろす。


 バァキイイイーーーーーンッ!!


 折れてしまった剣が後方へとその鈍色の輝きを煌めかせながらクルクルと飛んでいき、地面に突き刺さった。

 闇結界はその剣撃を加えた範囲2数メートルくらいは破れた。

 しかし、それはすぐに自己修復していき、元の漆黒の半球上のドームへとその姿を戻した。


「ああ」


 剣の折れた部分を確認して思わず声が溢れる。

 もちろん剣にも身体強化をいき渡らせていたが、剣の限界だったようだ。

 また新たに剣を買わないといけない。

 魔法使いの里、エルフの里に果たしていい剣を売っている武器屋があるのだろうか。



 そんな事を考えていると俺たちの目の前に半透明の女性が現れた。


「ランス、お久しぶりです」


 一瞬の呼びかけに誰かと驚いた……が、それはよく見ると女神アテネだった。

 どうしたんだろうか。


「この闇結界、及び、世界樹の闇の力による封印。それらを打ち破るには聖剣の力が必要です。また世界樹がその光の力を取り戻せば、ダーク・トロールロードの絶対防御も弱まるはずです」

「聖剣の力……と言われてもその聖剣は一体どこに?」

「エルフの里より通じる裏世界。妖精界の妖精女王が聖剣を持っているはずです。聖剣を手に入れ、闇を打ち倒して世界樹を解放させてください。そうすれば世界に光が……」


 そこまで言うと女神の半透明だったその姿は徐々に透明化していき見えなくなった。


「今のが女神様……それに妖精女王様……」

「ああ、女神様、お導き感謝いたします」


 ミミとソーニャ、二人とも女神とは初対面で驚いたようだった。


「ミミ、今、エルフの里より通じる裏世界の妖精界って言ってたけど行き方知ってる?」

「ううん、ミミ知らない。でも女王になった妹のララは知っているはず」

「じゃあ、エルフの女王に頼んで妖精界に行ってみよう。そこで聖剣を手に入れることができれば闇の結界と封印を破ってダーク・トロールロードたちとの決戦だ!」




「それでは、こちらへどうぞ」


 俺たちは女神アテネから言われた事をエルフの女王に伝えると妖精界へと行くことを許可された。

 2名の女王のエルフの従者に先導され、エルフの里にある北東の外れにある小さな祠へと案内される。


「へーここから」


 ミミは一人そんな事を呟いている。

 なにか思い出がある場所なのかな。


 その祠から地下に下ると洞窟に繋がっており、その洞窟をまた少し下っていく。

 灯りは従者がそれぞれ持つランタンの灯りのみでかなり暗い。

 洞窟内は肌寒く、また壁や地面は水分を多く含み滑りやすくなっていたので慎重に歩を進める。


 暫く行くと行き止まりとなっており、その行き止まりの小さな空間の中央の地面に魔法陣が描かれ、その魔法陣を囲むように燈台が置かれてその部屋を照らしていた。


「それでは魔法陣までお進みください」


 その魔法陣の中に俺たち、そしてエルフの従者二人が入り、エルフの一人が詠唱を始める。

 その詠唱が進むにつれて魔法陣から光が放たれ、その眩い光に全身が包み込まれたと認識した後のこと。

 その光が消えたと思ったら俺たちは先程とは違う、正面に大きな扉が見える、石壁と石畳のどこかの建物の一室へと移動していた。

 ここが妖精界なのだろうか。


 従者がその大きな扉を開くと、巨木が連なる光景が眼前に現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る