第40話 邂逅する二人
砂でできた起伏のある丘陵地帯。
砂の中をさざ波のような模様をつけてどこかへ移動している蛇の姿が見える。
本来であれば耐えられないような暑さのはずだが、暗黒世界の黒雲に太陽を遮られている為、暑さはほとんど感じない。
時折見える岩場と小さな穴だらけの朽ちかけたサボテン。
先程見かけた蛇以外に生物の気配はほとんどない。
何回か休憩を挟みながら砂漠を進み続けて、今はそろそろ夕方前。
そろそろ予定では最初のオアシスの町に着くはずなんだが影も形も見えない。
途中で方角を間違えたかなど不安になる。
「あっ」
それを目視した時、思わず声が出た。
ぼんやりと見えるそのシルエット。
おそらくあれがオアシスの町、ウェールズだ。
ミミとソーニャも目視したらしくこちらを見ている。
やっと着くという安心感が湧いてくる。
慣れないスピンドールに長時間乗ってヘトヘトだ。
宿屋に行って早くこの身をベットに投げ出したかった。
--
「うん、うまいね」
夕食はパンとカレーだった。
みんなお腹が空いたとの事だったので、とりあえず宿に荷物をおいて食事にしている。
複数のスパイス、香辛料が絶妙な辛さを引き立て、カレーの材料となっている肉と野菜がこくと旨味をもたらしている。
カレーを単体でスープとして食べてもうまいが、パンをちぎってそれにカレーを浸すとその辛さは緩和されるが、カレーの旨味はパンと合わさる事によってより凝縮され、その旨味がより引き立つ。
香辛料のその刺激は疲れた体にも染みるようで活力が湧いてくる気がした。
俺たちは慣れないスピンドールの移動で疲れている事もあってか、その後は無言で食事に夢中になった。
ふー。
料理を平らげ至福の食事の時は過ぎ去ったが、今はその後に訪れる満足感を味わう。
と、その時――
「きゃーーーーーーッ!」
外から何人かの悲鳴が町に響き渡った。
俺たちは武器を手にすぐに外へ飛び出す。
すると盗賊たちが剣を振り回し、町人たちを威嚇している様子が目に入った。
俺は剣を抜き町の道路の中央へ歩み出る。
その様を確認した馬上の盗賊たちは、馬を操りこちらに向かってきた。
馬から猛スピードですれ違いざまに斬りかかってくる盗賊を一人、二人と斬って捨てていき、三人目と向かい合った時、見覚えのあるその顔に時が一瞬止まる。
な!? ランドルフ?
俺の剣とランドルフの剣、お互いの鈍色の剣閃がすれ違いざま重なり合い、激しい火花を散らして弾きあった。
その後、お互い振り向き合う。
俺と数秒視線を重ねた後、ランドルフはその場を馬で走り去った。
その後、他の盗賊たちも町を襲うのは止めて去っていったようだった。
「今のランドルフですよね」
「……ああ、あいつ……盗賊にまで堕ちたのか」
偶然の邂逅。
髪は長髪になり後ろで束ねて髭も貯えていた。
その印象は以前と随分と違っていた。
ランスとランドルフ。
奇妙な運命の磁力のようなものに引かれ合う二人。
彼らはそれぞれが光と闇の勢力として、再度邂逅し、互いの人生が交差する事になるがそれはまだまだ先の事だった。
「じゃあ、出発しよう」
翌朝、再度スピンドールに乗り込み砂漠の中をまた進む。
昨日は多少強行日程だったが残り三日間の予定の砂漠での旅順は、オアシスの位置も関係して余裕のあるものになっている。
俺たちはまた砂場の起伏のある丘陵の代わり映えしないその風景へと、自らの身を投入させていった。
-- ミミ視点 --
スピンドールに揺られながら代わり映えしない砂漠の景色を進む中。
目的地のエルフの里に近づいている事もあってか、どうしても家族との過去を考えてしまう。
対立が決定的となり、実家を飛び出す原因となったあの日の事を。
「それでは新女王ララ様に盛大な拍手を!」
司会からのその促しによって民衆たちから、盛大な拍手と歓声が巻き起こっているのを、ミミは王居の裏側で聞いていた。
王族としてはその即位式に出席するべきなのだが、ララの女王としてのその姿を、もうしょうがないとは頭では分かっているのだが、直視する事ができずに途中で退席してしまったのだった。
「はあーー」
大きなため息が出る。
適正検査のあの日以来、自分が劣等感を抱いているからか、妹との関係はしっくりいっていない。
また両親に対しても反抗的な態度を取ってしまう自分がいる。
いずれも頭では分かっているがどうしようもないのだ。
式が終わったのだろうか。
表は静かになった。
その時、こちらに向かってくる両親の姿が目に写る。
「ミミ! こんな所で一体何してるの! ララの大事な女王の就任式だというのに」
前女王の母からの叱責。
父も腕組みをして母の隣で難しい顔をして立っている。
「だって……見るのが嫌だった……ララの女王のドレスと戴冠した姿なんて見たくなかった……」
「見たくなかったって……何言ってるのあなたは! お姉さんで王族でしょ! これからララを支えてあげなきゃ!」
「全く、なんでお前はそうなんだ。ララはなんでも優秀なのにお前は……」
父のその言い草にカチンとくる。
「ララの方が優秀ってなに? 魔法の適正がなかったのは私のせいではない。それ以外で私のどこがララと劣ってる?」
「学校の成績だってそうだし……」
「魔法適正のないミミが、魔法を主体とする学校でどうやっていい成績をとる?」
そんな事で妹と比較されるのは嫌だし、その比較はフェアじゃないとも思う。
「……それは……それ以外にもララは素直に言う事を聞くがお前は反抗してばかりじゃないか!」
「………………」
それは両親が私とララを比較するような事を言うから。
妹だけ贔屓するような事を言うから。
私も気にかけて欲しいから。
私も……
「こんな事ならララを女王にしたのは正解だったわね。ミミに魔法適正があろうとなかろうと」
母のその言葉で私の中で何かが弾けて飛んだ。
「じゃあ最初からそうすればよかったじゃない!! だったらなんで適正検査なんて受けさせたの! なんであんなつらい思いをしなくちゃいけなかったの!! 私だって好きで適正がなかった訳じゃないのにぃ!!!」
「こっちはミミの今の態度の事を言っているのよ! 適性検査の事はもうしょうがないでしょ!」
「私が適正がないからってララばっかり贔屓して! ララばっかり褒めて! あの王冠は私がかぶりたかったのにララが……」
歯を食いしばって両手を強く握り下を向く。
頬からは涙がこぼれ落ちていた。
「もうこれ以上、言ってもしょうがない。王族としての自覚が持てないんなら処遇を考えないといけないぞ」
父は私を見下したように冷たく言い放った。
すーっと気持ちが冷える。
「王族? そんなもんクソくらえ」
「ミミ! なんてことを言うの!」
「ミミ! まだ話は終わってないぞ! どこに行くんだ!」
その日、私は衝動的に荷物をまとめて王居、エルフの里を出た。
それから世界中を流浪して数年。下手を打って奴隷になりかけた所をランスに救われる。
両親へのわだかまりは、まだ解けてはいなかった。
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