第39話 適正検査
「よーし、よしよし」
巨大なトカゲのような二足歩行の生き物。
乾燥地帯や暑さに強く、馬よりも走行スピードが早い。
ただ寒さに弱いため、冬に一定気温以上寒くなる地域では用いられない乗り物。
スピンドールと呼ばれるその生き物に俺と、ミミ、ソーニャはそれぞれ乗り込んでいる。
俺たちはラグーン大陸最初の港町ミズラに昨晩一泊して今出発しようとしている。
ミミは乗ったことがあるようだが、俺とソーニャは初めての乗り物。
鞍と鐙が手綱がある。操縦法は馬と同じらしい。
表皮は今は冷たいくらいだが、変温動物のはずなので砂漠などにいけば温かくなるのだろう。
「よし、じゃあ出発しよう! まずは砂漠の最初のオアシスの町、ウェールズまで!」
俺がそういうとそれぞれ荷物を積んだスピンドールは一斉に走り出す。
スピンドールのその足腰はまるでバネのように、軽快に地面を蹴り出してそのスピードを上げていく。
風を切って進んでいくそのスピードが気持ちよく楽しい。
今はまだ緑豊かな風景だが山脈を超えると一変、砂漠地帯となるらしかった。
早朝に出発して到着は夕方前を予定してる。
長丁場になるので途中でいくつか休憩を挟むつもりだ。
-- ミミ視点 --
遂にラグーン大陸までたどり着いてしまった。
故郷のエルフの里まではまだ遠いが、このまま順調にいけばたどり着くだろう。
スピンドールに乗りながら、今朝見た悪夢について思い出す。
そんな悪夢を見たのは家出した実家に近づいているからであろうか。
その悪夢の元になった過去のトラウマについてミミは思い出す。
「それではミカエルさんの適正については…………おめでとうございます! 召喚師になります!」
適性検査の会場。
おおーーーっと歓声が上がる。
1年に一度開かれる検査で里の広場で大々的に開催されている。
ミミも適正検査を受けるために両親と妹のララと共に訪れていた。
次々と適正検査者の賢者によって適正が検査されて発表されている。
「おい、あれ、王女さまの……」
「ミミ様とララ様……」
「お二人はどんな……」
私とララを認めた民衆たちによって囁き声で噂話がされる。
王族である自分とララの適性検査に対する民衆の注目度は高かった。
父と母、二人とも魔術師としての適正を持っていた。
更に一族の種族はハイエルフ。早く魔術師として認められて夢だった魔法を習いたい。
「次は王女ミミ様」
呼ばれて壇上に上がる。
高鳴る鼓動と期待。
適正を判定する賢者がミミに手をがざして鑑定を行う。
「王女ミミ様の適正は…………」
静まり返る会場。
両親たちの期待の目。
緊張に息を飲む。
「…………か……か、格闘士です」
どよめく会場。
私はその言葉に思わず自分の耳を疑った。
格闘士? ハイエルフの両親の娘の自分が?
「格闘士って何かの間違いじゃ……?」
母も動揺を隠せずに尋ねる。
「……間違いございません。ミミ様の適正は格闘士、魔法に対する適正はございません」
頭を抱える両親。
ざわつく民衆たち。
私の頭は真っ白になった。
だって、自分はハイエルフで……両親は魔法に適正があって……当然、自分も魔法が使えて……なのに……なのに……。
「えー、続きまして王女ララ様の鑑定に移らせて頂きます」
咳払いを一つして賢者は次の適正検査を促す。
壇上を下を向いて降りる。
現実が受け止められない。
途中ララは不安げな表情をして私とすれ違うが、私はそれに反応する余裕もなかった。
両親の元へたどり着くが、二人とも下を向いて暗い表情をしており、私にかける言葉が見つからないようだった。
「王女ララ様の適正は…………なんと! 大賢者です! ララ様は激レア適正の大賢者です!」
会場は大きな歓声に包まれる。
「すごい! 大賢者だって!」
「流石は王族!」
「やっぱりハイエルフの種族はすごいわね」
あちこちからララに対する賞賛の声が上がる。
両親の顔を見ると、先程の自分の結果の時とは打って変わって、満面の笑みで戻ってきたララを迎え入れている。
喜び合い抱き合う両親とララ。
その光景を少し離れた所から眺める自分。
両親と妹が喜び合う様を直視できずに下を向く。
暗い感情が胸から沸き起こってきた。
「…………なんで……私だけ……」
私は会場の誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
その日の晩、寝床について寝ようとした時の事。
両親が珍しく喧嘩して怒鳴り合う声が聞こえる。
「もうミミには無理よ! 魔法がつかえないものがエルフの里の女王なんて……」
「そんな事言っても今更だ、ミミにはお前が将来女王になるって伝えていたんだぞ!」
どうやら自分の事について両親が喧嘩している。
私が女王になれない? どういう事だろう。
「あなたにも分かっているでしょ。魔法適正がないものがエルフの女王となれない理由を。これからはララに英才教育を施すわ」
「…………くそ! 今までやって来た事が全部、無駄じゃないか!」
「しょうがないでしょ。ミミに魔法適正がないなんて誰にも予想できないじゃない」
女王になるのは一つの夢だった。
王族の長女に生まれ、エルフの里の慣習に従って自分が将来女王になる。
憧れの女王のお母さん。
それがこんな想像だにしない理由でダメになるなんて……。
それに私だって好きで魔法適正がない訳じゃない。
まさかの青天の霹靂だったのだ。
[今までやって来た事が全部、無駄じゃないか]
お父さんが言ったその言葉がショックで脳裏に焼き付いて離れない。
そんな事を言われても私は知らない。
両親だけは味方でいてくれると思っていたのに……。
「なんで……私だけ……こんな目に……」
濡らした枕の上でそう小さな声で呟く。
こうしてその適正検査の日はミミにとって人生最悪の日となったのだった。
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