第32話 王国決戦
「やはり、お前らが来たか」
エデンバラ城の王座の間にたどり着くとそこには王座に鎮座するオスカーの姿があった。
そしてその傍らの台には生首が二つ。
それは三公の筆頭シルヴァーノ = サンジェルマンとその子飼いクレメントのものだった。
その顔は苦痛と恐怖に歪んでいるように見えた。
俺はその顔を目視した後、思わず目をそむける。
酷いことしやがる。
「……殺ったのか……二人を」
「ああ、素晴らしいショーだったよ! お前らにも見せてやりたかったがね」
オスカーは歪んだ笑顔を浮かべ答える。
人の生死をショーだと?
オスカーのその言い草に俺は吐き捨てるように言い放った。
「ゴブリン以下の外道が…………お前は今ここで倒す!」
「はっ、やってみろ! 冥魔法を習得し、最強になった私はこの国の王として君臨するのだ! かかれ! 冥界三騎士よ!」
オスカーがそういうとその傍らにいた冥界三騎士が俺たちに躍りかかってきた。
一体はミミ。もう一体はオメガの方へと向かっていく。
俺に向かってきた冥界騎士が振り下ろした大剣を俺は自身の片手剣で受け止める。
剣と剣は火花を散らし、受け止めた時の衝撃波が周りに波及するほどの威力だった。
片手剣に身体強化をいき渡らせていなければ今の一撃で俺の剣は打ち壊されていただろう。
鍔迫り合いから一旦、お互い間合いを取る。
俺は剣に炎を纏わせる。
そして剣を上段に構えて一気に振り下ろした。
『ファイアブレード!』
炎の剣撃波が刃となって冥界騎士に迫りゆく。
そして冥界騎士にその攻撃は直撃するが……無傷……だと!?
今の攻撃がなんともないように冥界騎士はその大剣を高く掲げ。
闇の閃光が天空から大剣に降り落ちたと思ったら。
その大剣を俺の方に激しく振り下ろした。
その予備動作から攻撃の軌道がある程度読めていた事から俺はそれを
するとその大剣を振り下ろした所から地面に切り口が出来ており。
それはなんと、城外にまでも切り口が続いていた。
凄まじい威力だ。
俺の額から冷や汗が滴り落ちる。
とその時。
「うわぁあああーーッ!!」
という咆哮と共にオスカーへと斬りかかる者が一名。
クリスティンだ……。
オスカーは自身の黒剣によってその一撃を受け止め、そしてクリスティンを弾き飛ばした。
「はははーー! そう言えばいたなお嬢さん! 俺への憎しみを募らせて、ランスたちに任せきれずにやってきたか!」
「お前は……お前だけは! 許さない!」
またクリスティンはオスカーへと斬りかかっていくが。
ダメだ、憎しみで戦況判断ができていない。
一度の接触で実力の差は明らか。
このままではクリスティンがやられてしまう!
「うぉお゛お゛お゛お゛ーー!!」
俺は剣を両手に掲げ、その剣に光の魔力を根限り込める。
その剣は強い光を帯びた。
『
3体の冥界騎士に俺は瞬神によって連続攻撃を加える。
強い光の閃光が次々と煌めき強力な闇属性の冥界騎士たちの体を切り裂いていく。
闇の粒子で構成された彼らの体は俺の攻撃によって、少しずつすり減っていき。
いつしか、一体、二体、そして三体とその姿を闇の残滓を漂わせながら消滅させていった。
「あああーーッ!!」
オスカーの一撃によって吹き飛ばされるクリスティン。
「クリスティン!」
俺はクリスティンに駆け寄る。
よかったまだ命は大丈夫そうだ。
なんとか間に合った。
「うっ、ううっーーッ! ランス助けて……。あいつ、オスカーを、お父さんとお母さんの仇のあいつを! お願い! 倒してぇッ!!!」
クリスティンは目に涙を浮かべ悲痛な表情で、俺の肩を強く掴み叫ぶように懇願する。
俺は動けなくなったクリスティンを抱きかかえ安全そうな場所まで連れて行った後。
再度、オスカーと向き合い――
「……当たり前だ!!」
そう燃えるような気勢を上げて俺はオスカーと向かいあう。
それに対しオスカーは両手を広げ、潜在能力を100%引き出すよう冥魔法を発動した。
『ダークネスマリオット!』
そこへまずはミミが左脇腹に強烈なフックを入れる。
その強烈な一撃はオスカーの体を浮かせ、衝撃音と衝撃波を周囲に響かせる。
「ぐふぉおおおーーッ! な!?」
今の一撃はオスカーに効いているようだ。
次にオメガが大剣を中段横から薙ぎ払った。
オスカーはその攻撃を自身の黒剣で受け止めきれずに吹っ飛ぶ。
「くッ!? なんだその威力は?」
(
そして更に追い打ちで俺が上段から袈裟斬りの一撃を入れる。
オスカーはそれに反応できず、鮮血が飛び散る。
「ぐわぁーーー!? なんだ、そのスピードとパワーは!? 俺は人間が到達できる最高点にいるんだぞ! なぜお前たちはその私を上回る!!」
「ミミは人族じゃないし、エルフだし」
「我は人工生命なり」
「俺は人間だけど反応できてなかったね、今。てかお前、冥界騎士より弱いな」
「そんな……そんな……バカな……」
オスカーはワナワナとしながら言い、今の現実をすぐには受け止められないようであった。
少しの間だがオスカーは固まったようになった。
戦いを長引かせるつもりがない俺が終わらせようと一歩踏み込んだその時。
「そうか! その手があったか!」
オスカーは何かを閃いたか突然そう叫ぶように言い。
「人間の限界値でダメなら、魔族になればいい、それだけの事! 人に戻れぬかもしれぬ禁術だがもういいわ! これで貴様らを殺し、その後には世界を征服してやる!」
その後、ブツブツと何か詠唱を始めたと思ったら、オスカーの背中から服を突き破り二つの腕が出現して四つ手となった。
更に背中から二つの腕が出現して六つ手となる。
体は巨大化していき、皮膚も肌色から薄い緑へと変化していく。
髪は抜け落ち、口には牙を生やし、眼球は黒から赤へと変化していった。
魔族になると言った言葉の通り、オスカーは人外へと変身していった。
「はーーっ、素晴らしい力だ! 人とは比べ物にならない、このパワーと魔力。これをさらに限界まで引き上げてやる!」
『ダークネスマリオット!』
「グォルオオッーーーーッ!!」
巨大だったその体が筋肉が隆起して更に巨大になっていく。
魔力もオーラとして目視できるほどの強大さとなっていた。
「はははー! 素晴らしい! この力、今なら魔王にも勝てるぞお! 俺が世界の支配者だ!」
歓喜の叫びを上げるオスカー。
「お前なんかに支配されてたまるか! はあああああーーーッ!!」
薄っすらと見えていたミミの闘気は、今やはっきりと見える程に強いものになっている。
ミミは天高く飛び上がりそのまま拳を振り下ろし、まるで尾を引く闘気は流星の如くオスカーに突き進んでいく。
ミミの攻撃がオスカーに当たると凄まじい衝撃音が響き渡り。
王座の間の地面にはその余りの衝撃にヒビが入った。
ミミの会心の一撃であったが……オスカーは六つ手の内の二つの手でその攻撃を受け止めており、残り手の一つでミミのボディに強力な一撃を加える。
ミミはその攻撃の衝撃によって王座の間の壁をぶち破り、外へと落ちていってしまった。
続けて、オメガがその大剣を上段からオスカーに振り下ろすが、それもまたオスカーは六つ手の内の三つの手で防がれ、その手の鋭い爪による諸手突きによってオメガの胴体をその手が突き抜く。
戦闘不能となったオメガを打ち捨て、そこに泣き顔のラーナが駆け寄っていった。
つ、強い。先程とは段違いだ。
間違いない。こいつはゴブリンキングよりも強敵だ。
「落ち込むことはないぞ、お前たちはよくやった。誇りに思え。俺はこのままこの国の王として君臨し、魔族も束ね、真なる魔王として世界を征服する」
「まだ、俺が残ってるだろうが! 気が早いぞ」
「ふん、今のを見てまだ分からんか? 極限まで高められたスピードと耐久力とパワー。俺に傷をつけられるものはもう地上に存在しない」
(
袈裟斬り、下段切り上げ、上段切り落とし、水平斬り。
連続4段攻撃を繰り出すがいずれの攻撃もオスカーの体に傷をつける事はできなかった。
もちろん剣には身体強化を派生させている。
ただ俺のスピードにはついてこれていないように見えるが……。
「はーーはっはっはっ! かゆいかゆいわーー! おい、クリスティン、よく見ておけ! お前の最後の希望も今から粉々に打ち砕いてくれるわあ!」
俺は瞑目する。
まるで戦時中かのように街の道端に散乱していた死体。
大切な人を亡くして泣き崩れる人々。
親を失い泣き叫ぶ子供たち。
子供を失い錯乱する親たち。
そして……クリスティンの悲痛の表情。
「助けて」というその魂の叫びを。
絶対に負ける訳にはいかない!!
「ううぉお゛お゛お゛ーーーッ!!」
俺は剣に火・雷・風、複数の属性を宿られせ、それぞれの魔法力を極限まで高めていく。
心臓は鼓動を早め、身体中が熱くなっていく。
キィイイイイーーーンッ!!
いつしか剣はそれぞれの属性の極限化の共鳴によって共鳴音を発するようになる。
それはまるで人々の怒りの叫び声のようにも俺には聞こえた。
『
その共鳴剣を打ち振るう度に大気は振動する。
先程までいくら斬ってもダメージが入らなかったオスカーの体は、共鳴剣の斬撃によってその緑の体液を地面に撒き散らしている。
「な、なぜ、俺が反応できない程早く、そしてそんなに強力な攻撃を人間が繰り出せるぅーーーッ!!」
オスカーは俺のその攻撃に堪らず城外へと飛び出た。
「ひぃ、ひぃいいいいッ! こっ、このままではやられる…………そ、そうだ!」
オスカーはその六つ手を掲げて召喚魔法を発動する。
『魔神召喚』
魔法陣が構成され、その上に天上から光の柱が出現した。
するとその柱の中に突然――
「呼ばれて飛び出てじゃんじゃじゃーーん!」
天に人差し指を指差し、腰に手を当てたポーズをした少女が現れた。
背格好から歳の頃は13から15才くらいに見受けられる。
オスカーは魔神召喚と言ってたけど、まさかこの少女が魔神か?
少女はオスカーを認めて仁王立ちで言い放った。
「ちょっと見ない間にいい様ね。人間ですらなくなった挙げ句に瀕死じゃん」
「エヴァ様、お助け下さい! 敵は奴です。こいつを殺して下さい!」
エヴァと呼ばれた少女は俺と向き合う。
紫の長髪に同系色の瞳。かわいい顔をしてる。
すると彼女は突然頬を赤らめ横を向いた。
「お、お前……名前は?」
「え? 俺はランスだけど」
「ら、ランスか……いい名だな……」
「う、うん……」
「…………」
気まずい沈黙。
あの今、決戦の真っ最中なんだけど……。
「エヴァ様?」
「……なしじゃ」
「は!?」
「手助けはなしじゃ。お前一人でなんとかせえ」
「は!? そんな!?」
「じゃあ……またな……ランス……」
そういうとエヴァと呼ばれた少女はどこかへと飛び去っていった。
なんだったんだあの子は。
「ぐっ、ぐそお、役立たずがあ! ……そ、そうだ! あ、あれがあったんだ!! これでお前も終わりだあ!」
そういうとオスカーは俺に向けてその手をかざし――
『ダークブレイン!』
「………………」
ん? なんの魔法だろう?
何も起きないみたいだけど。
「お、おい、お前……なんともないのか?」
「なんとも無いって何かしたのか?」
「なんでお前、従属魔法が効かないんだよ!」
「ああ、状態異常系は俺には効かないよ。小さい頃から体が丈夫だから」
「体が丈夫だとかそんな問題ではない!」
オスカーは目を血走らせて抗議する。
そんなに言われても効かないものは効かないし。
まあいい。
「もう終わりだオスカー」
俺は瀕死のオスカーに剣を向けて言い放った。
「ふふふ……あーはっはっはっ。どうせ勝てぬならば、お前らみんな道連れにしてくれるわ!!」
オスカーはそういうと瞑目して何かの魔法の詠唱を始めた。
その体の内部から光を発しだす。
ん? もしかして、こいつ自爆するつもりか?
(
俺は浮遊術により一瞬で城の遥か上空までオスカーを連れて行く。
詠唱の為、瞑目していたオスカーが目を開いた時には。
「は!? なんだ、ここは? いつの間に……ランス! お前は一体なんなんだあー!」
すでに自爆魔法の詠唱を終え、後戻りできない所に来ていたオスカーは、その内部から強烈な光を発したと思うと――凄まじい爆発と共に緑の鮮血の花火を大空に咲かせた。
俺はその様を確認しながら大空を重力そのままにしばらく落ちた後、城の直前で再度浮遊術を使い王座の間に戻る。
戦闘の疲れによりその場に座り込んだ俺に――
「…………うわぁっ!」
クリスティンが飛びついてきた。
「ぐす、ぐす、ランス……ありがとう……ありがとう…………うっうっー」
クリスティンは強く俺を抱きしめながら、その美しい瞳から涙を流している。
俺はその頭を優しく撫で、また喜び駆けつけている仲間の姿を認めて温かい気持ちを味わった。
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