第31話 天才錬金術師

「これはこれは、オスカー様、どうされましたか? 本日は来城の予定は入っておりませんが」


 城の入場門の警備兵に声を掛けられた俺は有無を言わさず従属冥魔法をかける。


『ダークブレイン!』


 魔法によって警備兵たちは虚ろな目をした、物言わぬ俺の人形となった。


 そうやって会うもの会うものに従属冥魔法をかけながら突き進み、俺は遂に王座の間までたどり着く。


 そこには丁度、三公の一人、シルヴァーノ = サンジェルマンと。

 その子飼いのクレメントがいた。


「ん!? どうした、オスカー。貴様との謁見の予定は今日はなかったはずじゃが」

「黙れじじい」


 俺はエデンバラ国王にも有無を言わさず従属冥魔法をかけた。


「王座を俺に明け渡し、お前はあの辺にでも突っ立っていろ」

「陛下に向かってなんたる口を! オスカー! 貴様、気でも触れたか!」


 シルヴァーノは怒気をあらわにさせ大きな声で俺を叱責するが、エデンバラ国王はオスカーのその指示に虚ろな目をしながら従い、王座の間の片隅に移動して直立した。


「陛下!? どうして、この愚か者の言う事に従うのですか!?」

「私が従属魔法をかけたからですよ。この状況を見れば理解できるでしょうに。全く、そんな事も分からないような無能が三公とは。三公の一人として私は恥ずかしい限りです」


 三公になってから。

 いや三公になる前から下級貴族から成り上がった俺に対して、シルヴァーノは事あるごとにキツく当たってきた。

 最初はなんの恨みがあるのかと訝しんだが、その理由がシルヴァーノの偏った思想にあると知った時は閉口したものだ。

 貴族は誇り高くあるべきだ。その誇りとは歴史と実績だ。

 歴史とは信頼であり、時の査定を受けていないものは信頼に値しない。


 シルヴァーノは終始一貫して俺の事を認めず、そして下に見てきた。

 思わずニヤついてしまう。これからこの男に思い知らせる事ができるのだ。

 子飼いのクレメントについては特に思う所はないが。

 運が悪かったとして、彼にはこれから開催されるショーの前菜にでもなってもらおう。


「貴様ぁー私が無能だとッ!? こ、こ、このエデンバラ王国にて最も権威と歴史と伝統のある貴族である私に対して無能だと……ッ!?」


 怒りのあまりシルヴァーノはプルプルとその身を震わせながら、オスカーに抗議する。


「そうですね、無能なあなたに教えて差し上げると。貴族としての歴史と伝統があるのとあなたが有能であるのと無能であるのは全く関係がないのですよ。あなたは無能なのです。びっくりするほど。むしろその無能さを隠蔽する為、あなたは本能的に貴族の歴史やら伝統やらにこだわってきたのでしょう」

「い、言わせておけばー! クレメント! こいつに思い知らせてやれ! バカめクレメントは貴族だが冒険者で言えばAランク相当の戦闘能力を有しておるのだ!」


 理想的な展開となり俺はその歪んだ笑みを隠す事ができない。


「それではヴィルヘルム卿。シルヴァーノ様があのように言っておられますので、あなたの事を少し拘束させて頂きます。悪しからず」


 クレメントそう言って俺の方へ歩み寄ってくる。


『ダークネスマリオット』


 俺が自身が最強であると思った理由はこの冥魔法の習得によってだった。

 この魔法は対象を操ることができる。それは自分自身に対してもだ。

 それ自体では最強といえるようなものだはないが。


 この魔法の凄い所はその対象のステータスを任意の値にふることができる事だった。

 例えば力が10、速さが10で上限値が100であったとすれば100に割り振ることができる。

 上限値はあるがその上限値まで、つまりは人間の限界値まで自由にステータスを割り振る事ができる。


 発動したダークネスマリオットの対象はもちろん自分。

 とりあえず各種のステータスの値は上限値の70%ほどを割り振っている。


「では、失礼します……」


 すいってオスカーの肩に置こうとしたクレメントの手を、軽く振り払う。

 するとクレメントの右腕が宙高く、鮮血をほとばしながら舞い上がった。


「あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーッ!!」


 突如、腕が切り落とされたクレメントは悲痛な叫び声を上げる。


 しまったしまった。

 軽く骨でも折ろうかと振り払ったのだが、腕を切り落としてしまったようだ。

 クレメント、そして、シルヴァーノの顔に浮かぶ恐怖の色を心地良く見てとる。


 ふふふ。

 ショーはこれから、クライマックスはまだまだだ。

 悲鳴と呪詛、懇願と泣き声をオーケストラに苦痛と泣き顔、痛みにのたうち回る姿をビジュアルに。

 これから展開されるショーを想像すると、俺はぞくぞくっと身震いをした。



 ◇



「む、無念……、お、オスカー様……」


 そう最後の言葉を残すとブルーノはその場に倒れ込む。


 ふー。

 ブルーノをなんとか倒す事ができた。

 こいつは今まで戦った魔術を行使する敵の中で、間違いなく一番の強敵だった。

 主にオスカー邸の庭部分での戦闘となったが地面に敷き詰められている芝生は所々、火魔法によって消し炭にされ、邸宅の壁もいくつか穴が空いてしまっていた。



 一方、ソーニャの方はベイリーに対して、必死にシャイニングヒールをかけ続けている。


「ベイリー、目覚めてー!!」


 随分と長い時間に渡ってシャイニングヒールをかけている。

 すごい、よく魔力が持つな。


「う、うぉおおおーーーッ!!」


 そのシャイニングヒールが効いてきたのか途中でベイリーは咆哮を上げ始めた。

 少しばかり咆哮を上げた後、ベイリーはその肩を落とし、抵抗を止めたように見受けられる。

 ソーニャは何か手応えを感じたらしく、かけていたシャイニングヒールを解いた。


「うッ……ううッ。ここは……王都か。そしてお前ら……そうか、わしはオスカーに従属魔法をかけられて……、迷惑をかけたようじゃのう」

「よかった、正気に戻って。ソーニャ、ありがとう。早速なんだけどベイリー、あそこに次元の裂け目ができてるんだけど」

「おう、なにかできとるのう……。というかあれは……どこにつながっておるのじゃ? この世界じゃない……まさか冥界か?」


 盲目のはずのベイリーが俺たち以上に対象に対する理解と分析が早い。

 こういう部分についてはこの人は天才的なんじゃないかと俺は苦笑いする。


「そう、冥界への次元の狭間をオスカーが作ったらしい。あれ、なんとかならないかな」

「うむ、ちとソーニャを借りるがよいか? ソーニャ、先程はありがとうの。またお前の聖魔法の力が必要じゃ。手伝ってくれ」


 ソーニャ、先程で随分と魔力を消費しているはずだが大丈夫だろうか。

 連戦できついが頑張ってもらうしかない。


「じゃあ、ここはベイリーとソーニャにまかせて、俺とミミとオメガはオスカーを追って城に向かおう。あいつが今回の件の諸悪の根源だ」

「オメガ……ミミと一緒に戦闘しておるやつ、さいの時にいたものじゃな。いやはや、でもこの戦いぶりは想像以上じゃの。じゃが、この場合の賞賛はオメガの主。ラーナにするべきか」


 うん? どういう事だ。ラーナは今もちょっと離れた所でミミとオメガの戦闘を眺めているだけだけど。


「なんでラーナを賞賛するんだ?」

「ん? まだ、聞いとらんかったか。オメガはラーナが生み出せしホムルンクス、人工生命じゃよ。ラーナは人類史に稀にみるような錬金術の天才じゃ」


 え!? オメガが人工生命?

 ……全く気づかなかった。

 隣のソーニャもびっくりした顔をしている。

 それでなんかぱっとしないラーナがさいに選ばれていたのか。

 冴えない少女に見えたがそんな裏の……、いや真の顔があったとは。


「それじゃベイリー、ソーニャ。後は任せた。ミミとオメガと後、ラーナも。城に連れてくよ」


 そう言って俺たちはベイリー、ソーニャと別々の行動となり城へと向かうこととなった。

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