第21話 マクルーハン家の歴史
「お嬢様……さあ、もう風邪をひいてしまいますので」
葬儀が終わった後、両親の墓の前で、呆然と過ごすクリスティン。
外は小雨が少しぱらついてきている。
クリスティンは力無く頷いた。
墓を去ろうとする時、二人組が前方から現れた。
金髪を七三分けにし、スーツを着込んでいる男。
顔にはメガネを掛け、どこかしら知的な印象を抱かせるが。
その目は非常に冷たく、人間味が感じられない。
もう一人は、魔術師用のローブを着込んでいる。
手には杖を持ち、鋭い視線をこちらに向けてきた。
まだ若く10代のようにも見える。
その目つきと剣呑な顔つきから、育ちは良くなさそうに見えた。
二人とも葬儀では見かけなかった気がする。
とその時。
隣のハーバードから強い殺気? 怒り? を感じる。
何? こんなハーバードは初めて。
前方の二人組に対して向けている?
「これはこれは、マクルーハン卿のお嬢様。初めまして私、オスカー = ヴィルヘルムと申します。この度、マクルーハン卿に起った不幸により、私が三公へと繰り上げとなりました」
クリスティンは、両親が亡くなったことにより、マクルーハン家が大公から公爵に格下げになったのはなんとなく知っていた。
オスカーと名乗った男の声色は優しい。
しかし、その目は笑っておらず、クリスティンに本能的な警戒感を抱かせた。
「クリスティン = マクルーハンと申します。この度は両親の墓参りにお越し頂き、ありがとうございます」
「墓参り? いや墓参りなどに来た訳ではないのだが。一言、お礼を言っておきたくてね」
「お礼ですか?」
そこでハーバードが、ばっと前に出そうになるのを――
「やめておきたまえ。腕に自信があるのだろうが、傍らのブルーノはS級の魔術師だ。お前だけじゃなく、大切なお嬢さんがただでは済まんぞ」
そう言ってオスカーはハーバードの機先を制する。
え? え? 何この感じの悪い人は?
どうしてハーバードは怒ってるの?
クリスティンは若干パニックになる。
「俺は墓参りなどではなく、これを言いにきた。バラム = マクルーハンが娘のクリスティンよ。ずっと邪魔だったお前の両親は、都合よくこの世から去ってくれた。これからは俺がその大公の後を引き継ぎ、その権勢を大いに利用させてもらう。俺は奴の娘にこれが言いたくて、ここまで来たんだよ!」
クリスティンはまだ幼かったが、オスカーのその歪んだ勝ち誇った笑み。
そして今、言った言動が自分に悪意を向けていることは分かった。
その男は突然、邪悪な本性をまざまざと見せつけてきた。
「……なんでそんな事をおっしゃるんですか?」
クリスティンは両手のひらをぎゅっと握りしめ、感情を抑えて問いかける。
「理由? 必要か? 勝者の愉悦を味わいにきたと言えば納得するか?」
オスカーは両手を広げ、その歪んだ笑みを貼り付けた表情で言い放った。
「……つまり、あなたが私の両親を暗殺したという事ですか?」
クリスティンは核心に迫った。
だがそれについてはオスカーは目を細めるだけで何も答えず。
「満足したから私は帰ることにする。さらばだクリスティンよ。お前のような存在が私の糧になるのだよ」
そう言って二人はその場から去っていった。
いつしか強まったきた雨足の中。
墓地にたたずむクリスティンとハーバード。
「お嬢様。そろそろ帰りましょう……」
「……ハーバード、あいつなの? お父様とお母様を暗殺したのは?」
ハーバードは唇を噛みしめ、怒りで肩を震わせながら答えた。
「……はい……おそらく、9割9分は」
「…………くそぉ! くそッ! くそぉーーーッ!!!」
クリスティンは地面に泣きくずれる。
悔しさと悲しみと怒りでその体は打ち震えていた。
「あんなクズに……あんなクズに、お父様とお母様は……」
「…………」
ハーバード。彼は無言でクリスティンの傍で佇んでいる。
いつしか雨は強くなり、本降りになって来ていた。
その雨はクリスティンとハーバードの肉体を濡らし、冷やしたが、彼女らの怒りの炎はいささかも弱まることはなかった。
◇
「私の真の目的は両親の仇。オスカー = ヴィルヘルム。奴を打ち倒す事よ。だけど奴は三公。三公には絶大な権勢が与えられていて公爵で立ち向かっても、ほぼ勝ち目がないわ」
そこまでクリスティンは話すと俺たちと方へと向き直った。
「
「私からもお願い申し上げます。クリスティンお嬢様は、幼くして筆舌にしがたい辛苦を負い、ここまで頑張ってこられました。どうかお力添えをお願いいたします」
執事のハーバードはそう言って頭を下げる。
彼はきっとクリスティンを幼い頃から愛し、そして、彼女の両親に対しても敬愛を持っていたのだろう、という事が伝わってくる。
そして、そのオスカーというのが随分とくそ野郎というのは分かった。
だが疑問がいくつかある。
「なるほど。事情は分かりました。しかし、そのオスカーとかいう奴は、なんでわざわざクリスティンにそんな事を言いに来たんだろ。恨みを買うというのは分かりきった事なのに」
「それは正直、分からないわ。人に憎しみや怒りといった感情を抱かせるのが奴の愉悦になるのか……。どうも、それだけではないような気もするけど、そこの真意は不明よ」
「オスカー、奴も公爵から大公に?」
「ええ、彼は下級貴族から公爵となった異例の貴族だわ。高利貸しの商いをしており、それで一代で莫大な富を得たわ。ただ、随分と強引な手法を取っているようね」
「当時オスカーはその有り余る財力により、王侯貴族の買収の噂がありました。そこにきてのご両親の暗殺。大公は金で買ったようなものだと言われております」
ハーバードがクリスティンの補足をする。
なるほど、大分話が見えてきた。
オスカーという貴族は三公でなおかつ、莫大な資金力ももっているということか。
高利貸しという職業から、裏への繋がりもあるかもしれない。
力がないものが下手に手を出せば、なすすべのなくやられる可能性も高い。
同じく大公になってから対決する、というクリスティンの判断は妥当だろう。
「詳しくは、
「ふん、そんなクソ野郎の子飼い、ミミが叩き潰してやる!」
「高利貸しというのは神にも背く行為。天の裁きを下してやりましょう!」
鼻息荒く、ミミとソーニャはこたえる。
打ち倒すべく敵も明確化し、目標もきまった。
後は翌日開催の
俺とミミとソーニャ。
三人はクリスティンの邸宅の空き室を、それぞれあてがわれた。
家探しはその後でもいいだろう。
ちなみに報酬だが大公になれたら白金貨10枚。
その後は冒険者専属の年間契約でさらに白金貨10枚、という事だ。
成功すれば、いよいよお金に困ることはなさそうだ。
その日は邸宅でふるまわれた食事をとり、そして明日に備えてそれぞれの居室で休みを取った。
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