第16話 一方その頃、暁の旅団は (4)

「くそぉっ! 暁の旅団のやつらめ!」


 サウス卿ことノーランド = サウスは、執務室の花瓶を激昂のあまり叩き落とす。

 ゴブリンの集団の情報を、早めに掴んだにもかかわらず、領主からは加点どころか減点だ。

 希望していたさいへの参加も絶望的。

 忌々しいあの小娘が大公などへ、もし成ったら……


「だ、旦那様、暁の旅団のリーダーのランドルフが来ましたが」

「……通せ」

「かしこまりました」


 今更報告に来たのか?

 なんにせよ奴らの処遇は、ノーランドの中では既に決まっていた。



「失礼します」


 ランドルフはそう挨拶をして、サウス卿の執務室へと足を運び入れた。

 サウス卿の顔を確認するが、なんとなく怒っているようだ。

 どうしたのだろう? 

 もしかしたら、タイミングが悪い時に来てしまったのかな、などと思いながら申し開きを始める。


「この度はゴブリン討伐の失敗、申し訳ございませんでした」

「討伐の失敗は耳に入っていた。して、討伐失敗の理由を聞こうか」

「はい」


 ランドルフは、そこで緊張により唾を一飲みする。

 落ち着け、大丈夫なはずだ。

 と自分に言い聞かせて話を続ける。


「討伐失敗しましたのは、事前にゴブリンの集団の頭は、ゴブリンジェネラルと聞いていました所、実際はゴブリンキングだった為です」

「なるほど、元々不可能であったと?」

「はい、あれは一介の冒険者では不可能で、軍による対処が必要であるかと。今では領から、軍が派遣されているのでは?」


 ランドルフはそう考えての、このタイミングでの申し開きだった。


「いや、軍など派遣されておらん。お前の言う、一介の冒険者が討伐成功させよったぞ。お前と同じBランクで、リーダーは少年だという」


 何? そんな冒険者パーティーが、このカラカス地方にいたのか?


「でしたらそのパーティーは、Sランク相当の実力が、そもそもあったのでしょう。ちなみに、そのパーティーのリーダーの名前は?」

「確か……ランスとか言ったかのう」


 は!? ランスだと? あの無能が?…………いや、あり得ない。

 きっとまた、優秀なパーティーに寄生して、メンバーが優秀なだけだろう。


「そんな事よりランドルフ、お前、村から離れる際に討伐が成功したと嘘をついたらしいの?」


 なぜそれを!?

 そうか、ランドルフの算段では、ゴブリンによって村は壊滅する予定だった。

 だがそれを、例の冒険者パーティーが討伐成功してしまったため、生存者が残ってしまったのだ。

 しまった、と思いランドルフの額には、冷や汗が流れる。


「領の治安局が、捜査に乗り出すらしいから覚悟しておけ。それと、お前らとわしとの専属での冒険者契約も解約する」


 な!? そうなれば俺たちはもう終わりだ! どうする!

 ランドルフは、その頭を必死でフルで回転させる。

 何か打開策は? 何かないか?


「貴様らのせいで、領主様からの覚えも悪くなってしまったわ。忌々しいマクルーハン卿の小娘にも、さいの推薦を取られるし」


 忌々しいマクルーハン卿の小娘……そうか、これだ!


「サウス卿、そのマクルーハン卿の小娘、邪魔では?」

「確かに邪魔じゃが……何が言いたい?」

「我々に始末をお任せ頂けたら」

「……………」


 サウス卿は考え込んでいる。

 通常であれば、貴族の公爵の暗殺の提案など決してしない。

 得られるメリットを勘案してもリスクが高すぎるからだ。

 だが絶体絶命の今となってはの、起死回生の提案だった。


「……お前たちが、それを成功させられるのであれば、考えてやってもいい。治安局の捜査の妨害などもな」

「お任せを。貴族の小娘一人や二人、その気になれば容易いものです」




 疲れた……。

 サウス卿邸宅から出た、ランドルフは色々と消耗していた。

 一旦、最悪は回避できたが、それもこれから次第のこと。


「おい、ランドルフ、サウス卿との会談、どうだった?」


 邸宅の前で待たせていた、メンバーの補助魔術師のエディが早速聞いてくる。


「……マクルーハン卿を殺る事になった」

「はあ!? なんだそりゃ、マクルーハン卿ってあの公爵のマクルーハン卿か?」


 ランドルフは、メンバーたちに会談の経緯を説明する。


「だからあの時、ゴブリンを討伐したって、嘘つくべきじゃなかったのよ!」

「そしたら俺たちは逃げ切れたか怪しかったぞ! あれはあの時の最善の判断だよ! お前も同意してただろ!」


 攻撃魔術師のエリーは、もう終わりだと言わんばかりに頭を抱えている。


「マクルーハン卿を殺れれば、今回の件も不問になるはずだ。そうじゃなきゃ俺たちは犯罪者でお縄だ。やるしかねえんだよ!」


 そこまで話したところでランドルフは、ゴブリンキングの討伐パーティーのリーダーがランスであるらしい事を思い出し、それをメンバーに話す。


「どうせまたランスの事だから、上手く寄生してるんでしょ」

「おい、ランスが暗殺先の貴族のお抱えなら、俺らの所に連れ戻せば情報を引っ張れるだろ。上手くいきゃスパイもやらせられるし」

「そうか、その手があったな! 俺らのパーティーに戻してやるとでも言えば、あの無能の事だ。喜んで言う事聞くだろう」

「どうせ新しいパーティーでも、持て余されてるだろうしな」


 ゴブリンキングの討伐もメンバーが優秀なんだろう。


「じゃあ、まずランスを捕まえに行くか」

「あいつ、どこにいるんだろ?」

「まあ、冒険者ギルドの前で張っておけば現れるだろう」


 ランドルフは仲間を連れて、まずは冒険者ギルドへと向かった。

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