loveとlike②

 「はっさんは好きな人とかいないんですか?」完全に酔っ払った須川が訊いてきた。


 「好きな人、ね」俺はあすかさんを思い出す。


 〔蓮磨さんに私は『大好きです』と伝えておきます〕


 半年近く前、彼女はそう言った。俺はあの時、あすかさんと相模さんを天秤に掛けた。いま思うとアホらしい。いまも彼女はそう思っているのだろうか?


 だが仮にも一度かんがえる旨を伝えたんだ。相模さんはもういいということになってすぐさまあすかさんに付き合ってほしいなんていうのも酷い話だ。第一、俺があすかさんと付き合ったら、あすかさんの生活を壊すことになる。


 「いまは駄目だね」


 「いまは駄目?」須川は俺がぽろっと言ったことに反応する。


 「いや、いないよ。自分が好きな人は」そう言うと手元のワインを口に流し込む。


 「そうっすか」須川はあまり腑に落ちない感じで言う。わりかし感づいているのかもしれない。だがそれならそれでいい。今は心配もなにもなく好きになれる人を待つだけだ。そう思った。



 「じゃあ、はっさん。また今度」


 「ん、じゃあな」そう言うと玄関の扉がしまった。俺はそれじゃ寝ようと大きく体を伸ばしたら、布団に向かって歩きだした。すると、頭がくらっとした。飲みすぎたか。そう思いながら歩き続けていると、次第に体が動かなくなっていった。


 ヤバい。これは変だ。


 そう思ったときには、物凄い頭痛と吐き気のもと、もう目の前は真っ暗になっていた。



 「お、目を開けたぞ」うっすらと目を開けるとそんな声が聞こえた。そこにはマスクをした医者のような……医者の顔があった。


 「蓮磨!」それは母の声だった。いったいどうしたというのだろうか。目の前が真っ暗になったのが、大分前のことに感じるが、その後の記憶が全く無い。俺は何があったのかわからなかった。母の横には祐夏と父がいた。


 すると祐夏が物凄い笑顔で手を握ってきた。


 「あのね、お礼なら直泰くんに言ってよ。お兄ちゃんと家で会ったあと、忘れ物をしたから、戻ろうとしたんだって。でも全然返答がなくて。気軽に合鍵使ってもいいって訊いていたから思いきって鍵を開けて部屋にはいったらお兄ちゃんが倒れていたんだって。だから急いで救急車に電話したんだって」


 「救急車……」おれは小さく呟いた。


 「くも膜下出血」母は言った。「須川くんが素早く救急車呼んでくれたからね。でもまだ安静にって」


 「マジか……」俺はふうっと息を吐く。鼻には酸素のチューブが刺さっていた。少し体を動かそうとすると滅茶苦茶怠い。


 俺はもう一度目を瞑った。まだかなり怠い。


 「まあ、余裕が出来たらね、電話でもしなさい」


 「そうするよ」そう言うと俺はもう一度息を吐いた。「そういや倒れてから何日たったんだっけ」


 「10日たったよ」


 「10日!?」思わず俺は目を開ける。


 「そうよ。勿論須川くんに感謝するのは当たり前だけど、その間にいろんな人がお見舞いにきたのよ。高校の頃の友達の松崎くんとか舞愛ちゃんとか。そう、それに高輪明日香さんが来てたわよ。マスクとかしてたからすぐにはわからなかったけど」


 「あ、明日香さんが!?」何故俺が入院しているのを知っているんだろうか?


 すると祐夏は「いやー、ホントにお兄ちゃんのファンの高輪明日香はナワアスのことだったんだねえ。リアルはめっちゃ可愛かったなあ。山形県の酒田市のお土産とサインの書いてある次出るCDを置いていったよ。慌てずに元気になってだって。物凄い心配してたよ」


 「マジか。ありがたいな」


 須川か?ナワアスにコンタクトをとったのは誰だろうと思ったが、須川ならあり得そうだ。どうにか連絡をつけることも可能だろう。俺は三度みたび目を閉じた。


 すると父の声がする。


 「取り敢えず。それだけ心配してくれてる人がいるんだ。しばらくは休んで元気になれよ」


 「わかったよ」


 取り敢えず、今は全てを忘れてゆっくり寝よう。しかし、明日香さん。何故こんなに俺を気にしてくれるんだ……?恋の一時保留とかくそみたいなことをした俺を……。

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