loveとlike①
時間は進み、5月になった。ちょうど25歳の誕生日ということで須川がワインを持ってうちにやって来た。
ファーストアルバムの売上はそこそこいい感じで、ストリーミングのウィークリーランキングで『知らない(アルバムバージョン)』が幾度かトップ100入りした。まあ、とはいってもお金がたっぷり入ったとかそういうこともなく、結局は須川とちびちびとしたものをついばみながら夜を過ごしていた。そんな夜に、自分の携帯にLINE通話の着信が来た。俺は送信者をみて驚く。
「相模さんからだ」
そう言うと須川は「あのヒトか」とちいさく呟いた。
須川がひとめぼれした『あのヒト』。俺は電話に出る。
「もしもし」
『あ、久々。いまどうしてる?』
「心理試験でミーティングだよ」そう言うと須川がソワソワし始めた。
『そーなんだ。てことは、あの須川くんとも一緒ってこと?』
「そうだけど。なんか、須川が相模さんと喋りたがってるよ」そう言うと須川は小さく「なにいってるんすかはっさん!」と言った。
『えー、私なんかと?いいよ変わろ』そう言ったので俺は携帯を須川に渡す。
「も、もしもし」
『あ、須川くん?お久しぶり。いつも源くんをありがとね』
「いや、はっさんは俺の恩人っす。感謝されるものは無いです」
『まさかあの源くんがそう言われるとはねえ。高校の頃は協調性の欠片もない冷酷な男だったのに』
すまし耳をしていると、凄いいわれようだった。冷酷は酷い。
「あ、あのですね」すると須川は突然改めたように声を潜めてから言う。
「相模さんは、はっさんのこと好きなんすか?」
俺は思わず「おい!」と言いそうになる。いきなり切り込んできやがった!
『え?源くんが好きかって?』そう言うと相模さんは沈黙した。俺は少し緊張しながら耳を澄ます。何て言うんだ……?
『嫌いなわけ無いよね』
「それは、loveっすか、likeっすか?」須川は昔のアーティストみたいな切り込みかたをする。
『ははは、likeだよ、like。ライバルだよ、要するに江戸川乱歩と
乱歩(明智小五郎で有名)と正史(金田一耕助で有名)は互いに認めあっていたが、正史は後年の乱歩作品をケチョンケチョンにいったりと批判も行っていた。だが戦前、戦後と互いに存在を気にかけ続けていたさまは、確かに羨ましいと思ったことがある。
そうか、相模さんは俺をそう思っていたのか。
俺はこれを恋心だとした。なんかこっぱずかしい。と同時に、永遠にライバルでいたいというのは、嬉しい告白だった。すうっと胸の圧が下がっていく。だが、須川は止まらなかった。余計なことを口走る。
「つまり、それはlike大なりloveってことっすか?」
俺は頭を抱える。須川は冷静さを失っている。どんだけ相模さんが好きなんだよ!
『……ごめんね。まあこんなことバーってしゃしゃってるけどさ、loveって良くわからないんだよね。まあ、源くんの告白フェイントにはどうしようかと思ったけどね』
「そ、そうっすか」須川は口をつぐむ。すると、須川は一旦携帯から顔を離し、俺に訊ねる。
「なんすか、告白フェイントって」
「ああ、ただいい曲だなあっていう理由だけでなんの気無しにGalileo Galileiの恋の寿命を俺のイヤホンで聴かせたんだ」
「それはマジで粋な人がする告白方法っすよ!」須川は苦笑いしていた。
『というより、なんで須川くんは私にそんなことを訊いてくるの?』
おい、本題来たぞ!俺は須川の背中を叩く。すると、大きく息を吸って、言葉を吐き出した。
「一目惚れ、です。相模さんに俺、一目惚れしたんです。あんな元気でズバズバ言葉を発する女性、初めてでしたから」
『一目惚れかあ。イケメン君からそんなこと言われるとは思ってなかったね』
すると、沈黙が流れた。相模さんはきっと考えを廻らしている。
「えっと、あのっすね」
『須川くん!』すると電話越しに相模さんの大きな声がした。
「え、なんすか」
『ホントに私が好きなら、
「行きます。釧路っすね」須川は即答した。釧路にいるってことは、小説のネタ集めでもしているのだろうか?
『いい返事ありがとー。あと、ついでにいっておくけど源くんは来ないこと。伝えてね』
「……わかりました」そう言う須川は緊張のせいか少し震えていた。
『んじゃ、待ってるよ。じゃあね』
「はい」するとは須川は携帯をテーブルに置いて両手をあげて喜んだ。
「釧路に一人でこい、ね」俺は頭をかく。なんか、思惑があるなこれ。須川はとても嬉しそうだったのでそうとは言わなかったが。
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