キャンセル
俺はその報道を聞いて驚愕した。
12月中旬のある平日朝の報道番組を何気なく観ていたら、突如飛び込んできたニュース。
『えー、毎年クリスマス前の日曜日にラッキーカラーズが開催している「スーパーハッピークリスマスファンフェスタ!」ですが、今年も12月21日開催の開催が確定しています。しかし、諸事情でセンターの高輪明日香さんが参加しないこととなりました。払い戻しは来年1月に対応するとのことです』
言わずも知れているが、12月21日は俺らが仙台で行う「仙台ループルーキーフェス」を行う。あすかさんは間違いなくそこに来る。こんな直前まであすかさんが参加しないということを発表しなかったということは、事務所もあすかさんと相当揉めて粘っていたんだろう。くそ、俺のせいで、高輪明日香のファンは辛い思いをするのだ。
俺は思わず、Twitterを開くとあすかさんにダイレクトメッセージを送る。
『お久しぶりです。どうやら俺たちのせいで12月のクリスマスライブへ欠席するようですね。それはファンの為にもやめたほうがいいのでは無いでしょうか?俺たちもこれが最後のライブという訳ではないし(しないように頑張ります)、今からでもでたほうが良いんじゃないですか?』
するとしばらくして、一枚のスマホのスクショ写真が送られてきた。それは1年ほど前の俺の投稿だった。
『マジか…。レジェンドバンドtotoのペイチとスティーヴポーカロ脱退か……。用事のせいで前の日本ライブ行けなかったんだよなあ……。皆さん行きたいライブは無理にでも行こうぜ!音楽は生きる源!』
俺はスマホを見て頭を抱えた。過去の自分が特大ブーメランを放った訳だ。そして続け様にメッセージが届く。
『大好きなアーティストの初ライブなんて一度しか無いんです。無理にでも行きます。どうか気にしないで下さい』そう返ってきた。確かに俺は自分の一ファンに余計なお節介をかけてしまった。だが、俺のせいで恐らく数十万という経済効果がパーになるんだ。恐ろしいことだ。
俺はその出来事のせいでプレッシャーを抱えながら日々を過ごした。須川と共に、失敗など出来ないという思いで、できる限りの練習を重ねた。
そして12月19日金曜日夜。俺たちは仙台に前乗り込みをした。取り敢えず、須川を家族に紹介しておこうと思ったのだ。
「お邪魔します。須川直泰といいます。この度は本当にはっさんにお世話になってます」玄関先で須川は丁寧にそう挨拶した。
「固いよお前」俺がそう言うと、父母の向こうから祐夏が駆けてきた。
「わー!ホントに直泰くんだ!泣きそう!」
そう言うと祐夏は須川に握手を求めた。
「ありがとう。ヤバイわ。こういうのめっちゃ久々でこっちも泣きそう」そう言うと握手に応じた。
「良かったな」俺がいうと母は「蓮磨も慕われるようになったのね」としみじみと言った。
「こいついつもこんな丁寧な物言いしないけどな」
すると須川はいつもの調子で「余計なことは言わなくていいっすよ、はっさん」と言った。
すると父はごほんと咳き込んだ。
「あー、すまない。蓮磨、東京でははっさんて呼ばれているんだな。確かいたよなー、あれ、ポケットモンスターに」
「は?」思わずそう返したのは祐夏だ。須川もキョトンとしていた。
「須川、すまない。俺の親父、話題作りが超下手くそだからな。いい人なんだけど」
「うん、そうっすね。あとそれハッサムっす」
「涙も引っ込むんだけど……」祐夏は呟いた。
すると母がパンと手を叩いた。
「さ、上がりなさい。あたたかいご飯があるわよ。須川くんも食べていきなさい」
「ありがとうございます!」須川は一礼した。俺たちは玄関で靴を脱いで家へ入っていった。あるきしな、俺は父の背中を叩いて「泣くなよ」と呟いた。
「大丈夫。和ませるって難しいなあ」と言って息を吐いた。
親父、源
引退から大分たっているのに、心理試験に須川が加入したことは雑誌なんかで取り上げられているのを俺は知っている。彼は一度「俺のせいで心理試験の評判が落ちるならすぐにでもやめます」と言っていたが、雑誌に取りあげられ罵倒されていることを俺に相談なんかしてきていない。強いやつだと、俺は心のそこから思っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます