9月27日⑤

 スカイミュージシャンパーティーのオープニングはラッキーカラーズだった。あすかさんが先頭となって歌っていた。正直な話をすると、曲自体はあまり好みではなかった。だが、彼女は俺にはできない『躍り』という表現を完璧にこなしていた。それがなんか異次元で、何よりも美しいと感じた。


 アイドルに疎かった自分だが、そんな表現を強くだせるのがアイドルなんだと、初めて感じることができた。そして、ステージの終了と共に、違うステージにカメラが切り替わった。そして4人組の男たちが、それぞれマイク、ギター、ベース、ドラムをかき鳴らし始めた。


 確かに、良いバンドだった。俺は見終わって須川を見る。


 「よし、それじゃあ今度一緒に行くか、ラベンダーマインドのライブ」


 「よっしゃあ!ありがとうございます」須川は満足そうに言った。


 「それじゃ、今日は付き合ってくれてありがとう」


 「いえいえ、とんでもないっす」須川はそう言うと、一旦息を潜めて、また申し訳なさそうに口を開いた。


 「そう言えばはっさん、心理試験の新曲ってまだでないんすか?」


 「ああ、そう言えばそうだな。実はもうほぼ完成した曲があるんだ」俺はテレビを消しパソコンを立ち上げる。デスクトップに並べてあるファイルから、『新曲』というファイルを選択し、デモバージョンを再生して見せる。


 ずんと重いギターリフと、儚いピアノ伴奏を組み合わせた壮大なイントロからスタートする曲。『消えない夢』という曲だ。今までよりもハードなメロディで、もしかしたら反感を買うかもしれないと思っていた。だから取り敢えず、須川が聴きたがってくれたのはありがたい。須川はなにも言わず俺の曲を聴く。何度かうんうんと頷いていた。そして、曲が終了した。


 『いつかもう死なない夢の片隅で足掻いてずっと生きていたい』と言う歌詞で締めくくった。須川は曲が終わると急に笑いだした。


 「はっさん、これは最高傑作っすよ!」そう言って急に俺の手を握ってきた。


 「うお、ビックリした。酔ったか?」


 「いえ、これは売れてしまいます。だから今のうちにはっさんと握手しておかないとと思って」


 「売れたとしても突然縁切りなんかしないよ!」俺は須川があまりに喜んでくれたので照れ隠しに笑っていた。


 だけど、俺はまた笑顔を隠す。


 「ただ、自分でちょっと気に入っていないところがある」


 「なんすか?」須川は不思議そうに聴いてきた。


 「ベースラインだよ。どう思う?」


 「どうかって言われましても。はっさん、ベースとドラムはいつも通り打ち込みっすよね」


 「そうなんだよ。ピアノ、ギターはできるけどベースとドラムは何故か知らないが苦手なんだよ。だからもう仕方がなく打ち込んでるんだ」


 「なるほど、リズム隊の楽器が苦手なんすね」


 「そうだ。……ああ、そう言えば須川はアイドルのオーディションに受かる前は楽器やってたんだよな。確かベースも弾けたとか」


 「あー、最初はバンドやろうとか思っていたんですよ。だからまあ、弾けなくもないっすけど」


 「なら、この曲のベース、須川弾いてみてくれないか?」俺は須川を見た。彼は驚いたような顔をする。


 「良いんすか?」


 「ああ、当たり前だ。楽曲のデータを渡しておくから、ベースをおと当てしてくれないか?なんならゴテゴテアレンジしてもらっても良い。そしたら心理試験初のコラボ作になるし面白いかもしれない」俺は熱をいれて言う。言う度に、これは面白いかもしれないと感じるようになった。ずっと一人で作ってきたから、違う音をいれると言うことは、全く新しいことにチャレンジするのとイコールだ。


 須川は、ゆっくりと口を開く。


 「なら、ならっすよ」須川は躊躇ったように話を切り出した。


 「俺を心理試験のメンバーにいれて下さい」


 須川はそう言うと俺を見つめてきた。『心理試験』の『メンバー』。そのワードが、しばらく理解できなかった。

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