9月27日①

 俺は水曜から土曜の朝~夕にコンビニのシフトを入れている。だから今日、9月27日も土曜だからシフトだった。12時に昼休憩に入ったので俺はレジを昼1時あがりと昼~夜シフトの人に頼んで従業員室に入った。そこには同じ時間帯で働く須川が長テーブルにコンビニ弁当を拡げて座布団に座っていた。21歳の大学3年。少しチャラい感じの顔立ちだが、女子高生なんかがたまに歓声をあげるレベルにはイケメンなやつだ。


 「お疲れ様」俺が右手を上げて挨拶すると、彼は飲んでいたペットボトルのお茶を置いて「あ、はっさん。お疲れ様です」と挨拶してきた。蓮磨だからはっさんだ。俺は須川の向かいに座る。


 「今日のはっさん、弁当なんすか?」


 「ああ、今日は家の向かいの定食屋のおばさんに頼んでつくってもらった唐揚げ入りおにぎりだ」俺はハンドバックからアルミに包まれた二つの野球ボール並みのおにぎりをだす。


 「豪勢なようなけちなようなって感じの昼っすね」


 「余計なお世話だよ」俺はおにぎりのひとつのアルミを剥がしながらいう。


 それから須川は突然声を潜めてこう言った。


 「それはそうとはっさん、あの、心理試験としての活動の調子はどうなんすか」


 またかよ、と思いつつ俺はいつもの調子で言う。


 「まあ、ぼちぼちだよ」


 「ぼちぼちっすか」須川はいつものように興味の無いような返答をする。


 「まあ、近々ライブをやることをファンと約束したくらいだな」俺はこの前のあすかさんとのやり取りを思い出して付け加える。


 「え、ライブやるんすか?東京ドームっすか?」


 「んな訳あるか。俺がバッターボックスで歌ったとしたら内野の中にファンがおさまっちまうだろ」


 「まあ、そうっすよね」


 須川は悪いやつでは無いのだがやや癪に触るような物言いをする男だ。俺は少々バツの悪いような顔をしてしまう。


 「あ、いや。怒んないでくださいよ。いや、ですけど曲がりなりにも音楽業界にいるんすよね、はっさんは」


 「まあ、な」


 「それじゃあ、なんかつてみたいなの無かったんすか?繋がり合いのめぐり逢いみたいな」


 「……まあ、」俺はなにか言おうとしかけて息詰まった。


 「え、やっぱあったりするんすか?」


 「無い。人気は実力でもぎ取るもんだろ?」俺はどや顔を決めて見せた。


 「いや、なんか明らかに何かあったっぽいっすけど」須川はくいっとお茶を飲んだ。そしてしっかりとした口調でこう言った。


 「チャンスも実力のうちっすよ。それを掴むも掴めないのも、生かすか殺すかも実力だし。ただ、なんていうか、はっさんはチャンスを掴みさえすれば絶対生かすことのできる人だと思っていますから」須崎はいつしか真面目な顔をしていた。


 「本当にそう思ってくれてるのか?」


 「当たり前っすよ。だから、絶対にチャンスが来たら掴みとってください。それと、万が一にも俺みたいに掴んだのに殺すような真似は絶対やめて下さいよ」


 須崎は真剣だった。彼自身、男性アイドルユニットのオーディションに受かったものの、未成年喫煙、飲酒、性行なんかでやらかして、全てがパーになってしまった、と男だ。あれから自ら頑張って生きているからこそ、そういうところは本当にうるさい。


 だが、とてもありがたいことだった。


 「もぎ取って生きていくからから、安心してくれ」俺はそんな彼なりのエールにそう返答した。すると須崎は笑った。


 「ライブってなったら絶対に招待してくださいよ」


 「招待は駄目だ。ファンはみんな平等だからな」


 「糞真面目っすね」


 手に取っていたおにぎりを、ようやく一口手にかけた。


 「それはそうとはっさん、今日の夜のスカイミュージシャンパーティー、ラベンダーマインドが出るんすよ」


 「すか……ラベンダーマインド?」一瞬こいつは何を言い出すのかと思い、一口食べたおにぎりをテーブルに落下させる。


 「え、なんかビビることありました?」須川はキョトンとしていた。


 「いや、別に」俺は急いでおにぎりを拾うと、また手に持ち直した。


 「いや、実はっすね、今度ラベンダーマインドのライブ行くんすけど、はっさん一緒に行きませんか?」


 「ラベンダーマインドか。名前は聞いたことあるけど曲は知らないなあ」


 「結構本格なロックバンドっすよ。どのみち今日の夜生演奏するんで、それみてもし気に入ってくれたなら一緒に行きましょう」


 「了解。行きたくなったらLINEいれるよ。それにしても、俺に遊びの誘いをいれるなんて珍しいな」


 「いや、音楽で話が合う知り合いがはっさんくらいなんすよ」


 「了解。じゃあ今晩見てみるよ」


 「お願いしますよ。じゃあ、ちょっとゴミ出ししてくるんでお先です」そういうと須川は弁当をぐしゃっと縮めてゴミ袋に入れた。


 「おお、ありがとう」俺がそういうと彼は扉の向こうに消えていった。


 俺はふうっと息をつく。なんか今日の須川は怖いな。そう思いながらフフッと笑った。


 「今日のスカイミュージシャンパーティー、死んでも見ないといけないな、これ」


  ラッキーカラーズ。ラベンダーマインド。どっちも全く詳しくないが、そんな未知の音楽に俺はわくわくしていた。

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