最終話 日常は続く

 異世界イグレシアにあるエルドリアから帰還した俺達は、その世界に関するレポート作成を部室で行っていた。

 内容としては――


「く、久能君? か……、神咲さん? 本当にこの内容で提出する気ですか?」


 山科先生の顔が引きつっている。当然だ。


「だって、二宮〇次郎風な先生の像はありましたし、ちゃんとタブレットもどきについても書きますから。でも先生、タブレットなんて二十年前にもあったんですね」

「え、ええ……、あったんですよ。当時そこまで普及はしていませんが。神咲さん!? それもですか!?」


 今度は月奈のレポートをチラ見して顔を青ざめさせる。


「えっと……。『魔導鋼機・エルドブラスター』、エルドリアに召喚された賢者、イツキ=ヤマシナの最高傑作……っと」


 月奈は自分のレポートを添削しているらしく、声に出して読んでいる。


「すいません、二人共、お願いですから、もっと学術的な内容で……」

「えー。だってわたしの弟が頑張って説明してくれたんですから、姉としてそれに応えないと!」


 月奈は絶対にこれを書くのだ、という気合が感じられる。確かにエイルハルトが頑張ったんだもんなぁ。


「先生、功績が凄いじゃないですか。もっと胸を張ってください!」


 と、俺が説得するも、異世界に召喚された当時の厨二が混じっている状況は、今の先生からしたら黒歴史もいいところだ。

 本人としても気が気でないだろう。


「仕方ない。月奈、先生の名前は極力出さないで書くか」

「だね。先生泣きそうだし」


 そんな会話をしながらレポートを書き上げて、一応、先生にも確認してもらい、OKがでた。

 これで提出できる。

 すると、武宮先輩がそんな俺達の様子を見ながら話しかけてきた。


「私も色々と頑張らないとね。あんなの見せられちゃったし」


 何の事かと思ったが、すぐに思い至る。


「私の目標、『異世界を行き来する方法』が確立できれば、またエルドリアに行けるようになるかもしれないでしょ?」


 そう言って笑う彼女はどこか楽しげだった。


「今度はちゃんと結婚の挨拶をしないとね!」


 その一言で、俺は口に含んでいたお茶を噴き出してしまっていた。


「せ、先輩? 何言ってるんですか!?」

「け、けけけけ……結婚って!?」


 月奈ですら先輩の突然の発言に狼狽えている。


「先輩? その……、えー? やらないの? みたいな顔はどうかと思います」


 この人、からかい半分ではあるだろうが、基本的に真面目な人なので本心でもあるはずだ。


「さて、今日の部活を始めましょうか。いやあ、久能君があちらに行ってくれたおかげで、僕の魔法修得法が正確な物だと証明できましたよ」


 山科先生が爽やかな笑顔で言う。それはそれで複雑な気分だ。




 この学園が出来た理由――

 それは突然異世界へ行ってしまった際、若い命が無駄に散る事の無いように。その理念の元で設立された学校。

 そして、異世界で生徒達が戦うだけでなく、生きるためにあらゆる選択が可能になるように学ぶためでもある。

 その選択は、先輩や月奈の様に親しい人との別れもあるかもしれないが、同時に新しい出会いがある事だって否定できない。

 だから、今ここに居る全員が生きている事に意味があると言える。

 これからも俺達はここで、今後異世界に行くことは無いとしても、日々の生活を送る事になるのだろう。

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異世界科っ! ~異世界を教える学校~ 柴田柴犬 @spotted_seal

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