前日譚 小春日和前 十四、粉骨砕身ⅱ
◉登場人物、時刻
【戸田方】
戸田高雲斎 中堅國人衆。棟梁家の血に
連なる。
大久保六郎兵衛尉 高雲斎家臣。
保坂平左衛門 大久保六郎兵衛尉の家臣・
親族衆で今回が初陣。
佐奈田十郎 戸田軍の若近習。弓の名手。
有能だが思い込みが激しい。
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前日譚
「
殿が敵に襲われたとの報せに接し、追撃を中断して本隊と合流した。
…………最初に聞いた報せは生死不明で、背筋が凍ったものだ、無理もない。
「そこまでにせよ、
「その通り。殿も殿で御座る。こんな
「分かった、分かった、自省するから。今はそれより今後の事だ」ウンザリした様に殿。
「今後も何も、殿の御命に危険が迫った以上、ここはこれまでです。敵に
……
「それは駄目だ。我々は未だ目的を達していない」
殿はそれまでの軽い口調と一転して、鋭い口調でいう。
(至 山地) (至 寺倉)
道 道 川
丘丘道丘丘丘丘丘丘丘丘崖崖崖崖丘 道 川川
丘丘道道丘丘丘丘 丘道道道道道道道道 川川
丘丘丘道丘丘丘 道道崖丘丘丘崖 道 川
丘丘丘崖道丘崖 丘丘丘丘崖丘崖 道 川
崖丘丘道崖崖 崖崖崖崖丘丘崖林林 道 川
崖崖丘 (尾根筋) 丘崖崖林『戸』 川
丘丘丘丘丘丘崖丘丘丘丘丘丘丘丘丘林『先』 川
丘丘丘丘丘丘崖丘丘崖崖崖丘丘丘林林 道 川
丘丘崖崖崖崖丘丘丘 丘崖丘 道 川
丘丘丘丘崖崖丘丘 丘 道 川
丘崖崖崖丘 「木花集落」道 川
←(南武先手の逃げた方向)(南武方)道
浅瀬小川小川小川浅瀬小川小川小川小浅瀬小川小
丘丘丘丘丘丘丘丘 「木花集落」道
丘崖丘丘崖丘丘崖丘崖「神」(南武方)道
丘丘丘崖丘丘丘崖崖丘丘崖 道
(尾根筋・戸田方目標)道道道道道道道道 川
崖崖崖崖崖丘丘丘崖崖崖崖林林 道 川
崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖丘丘林 『後』道 川川
丘隘路隘路隘『南』隘路隘路隘林林川川川川川川
道川川川川川川川川川川川川川川川川川川川川川
(至 渡の郷)
『戸』=戸田本隊 『先』=戸田先陣
『南』=南武本隊 『後』=南武軍後備
「神」=神社
「オレ達は分捕り戦をしに来たのだ。
山間の谷筋、小川が川と合流する地点に開けた土地があり、そこに比較的大きな集落がある。
三十数戸、百人強の人々が住む南武方の「木花集落」だ。もっとも今は人の気配はなく、
「あの先は、この回廊の最大の難所で、狭い
殿が
南武軍の最後尾が
「南武軍本陣先手は新倉の方へと落ちていった。どう考えても、あの後ろに並ぶのは自殺行為だからな。しかし、それではあの山の向こうへと渡った南武本陣と合流するには、大きく山を回り込む必要がある。つまり、我々の
今度は殿が西を指す。深い
……それにしても
「木花集落の向かい、あの
いつも殿には驚かされる。行き当たりばったりの危うい策を立てられるかと思えば、その実、大事な核心を見失う事がない。
……我らは食い詰めた百姓衆を救う為に戦を始めたのだ。
……とは言え、我ら奉公の者としては、殿に危ない橋を渡らせる事は出来ない。
「……
「……うむ」
何かを考えておられる殿。
「……ならば、本陣の疲れておらぬ兵を十五騎ばかり、連れて行け。先陣は度重なる激戦で三十騎にも満たぬ数になっておる。それでは
「御案じめさるな。我ら大久保党、二十七騎たりと言えど、一人一人が一騎当千の
驚く殿。殿とは長い付き合いだ。私であれば、その様に答えると殿は思っておられたろう。
……驚かれたのはきっと別の事だ。
「二十七騎?二十八騎いるようだが?」
「……保坂平左衛門、前へ」
「はっ!」
何だろう?と思ったのは一瞬。急いで
「この者は若く未熟なれど、真っ直ぐな気性を持つ素晴らしい若者です。殿の
慌てて頭を下げる。
嬉しさが込み上げる。
不安になる。
私は其れ程の者ではない。御推挙頂いた上で殿の期待を裏切れば、
何程の事が出来よう?未だ大久保党に付いて行くのもやっとの私に。
「
私は
人と比べて何かが欠けているのではないのかと。
「しかし、
「…………はぃ」
情けない事に
「さて、では私たちはこれから存分に手柄を立ててくる。そこで殿と思う存分、見ているのだな」
此方を
必死に頷くだけで、もう声も出なかった。
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◉用語解説
*1【
戦になった際の
本来、寺倉集落(戸田方)、木花集落(南部方)共に「半手の村」になっていてもおかしくないのですが、“回廊”の独占を目指した南武方が木花集落を年貢の減免、武士の警固砦の造築、脅迫など有りとあらゆる手段で味方につけ、対抗上、同じ手段で元々、戸田方の管理する荘園内だった寺倉集落を口説き落とした設定になっています。
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