前日譚 小春日和前 十二、無慙無愧ⅳ /萌え出づるⅲ
◉登場人物、時刻
⚫︎
【南武方】
井手山主税助 南武家の重臣。本隊に参加。
井手山主水 主税助の弟。伏兵を率いる。
【戸田方】
戸田高雲斎 中堅國人衆。棟梁家の血に
連なる。
佐奈田十郎 戸田軍の若近習。弓の名手。
有能だが思い込みが激しい。
⚫︎
???? 主人公。今回は出番あります。
数え年で八歳。棟梁家の庶長
子(側室から生まれた長男)。
伊兵衛 村の中で主人公が侍身分である
事を唯一知っている子供。
数え十五歳。
今回の石合戦で副将を務める。
悟助 主人公が参加する村の大将格。
大柄で乱暴な典型的なガキ大
将。総身に回りかねる知性。
対戦相手の与兵衛とは仲が
悪い。自分より大柄な主人公が
気に入らない。
与兵衛 相手方の大将。腕力も知恵も悟
助と良い勝負。
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前日譚
「殿っ!」
近習の誰か、鋭い声が響く。
随身の者ども*1がいつの間にか増えている。
………………ん?
自分の思考に違和感を感じた瞬間、直ぐ近くから、何本もの槍が伸びてきた…………!
「殿っ!」
居るはずもない被官衆・軍役衆が、
不覚にも、余りに自然に現れた為、気付くのが遅れてしまった!慌てて馬ごと敵との間に割って入る。
「何奴っ!」
声と同時に下郎に斬り掛かる。
賊は受け太刀するが、馬上から力任せに
他の近習たちも異変に気付き、続々と殿の廻りに集結する。しかし、その合間を縫って正面から現れた三人の賊が、殿に槍を突き出す。
「殿っ!!」
地面に片膝をついて見上げる、理由の分からない後悔と共に。
自分が何か、してはいけない
馬の上、逆光のなか。
黒い陰の殿は槍に突き落とされる様に、馬から堕ちていった。
神事開始の
昼を過ぎ、河がそよそよと流れ、空には鳥が群れをなし、冷たかった風は多少なりとも
この河原で弁当を広げれば、どんなに気持ちが良いだろう。多少、草木が
村の連中も野掛け*4気分だ。悟助も上手くもない唄を
道 丘崖崖崖崖崖崖崖森森『神』河河河
道道『小高い丘』崖森森 道 河河河
森森崖 崖森森森 道 河河河
林森森崖崖崖崖崖森林 道草草河河河
林林林林林林林林 道 草河河河
『御』河河河
この辺り草場 道河河河
道 河河河
『御』=
『神』=
「おい、」
…………隣の“のっぺら坊”が余計な事を言い出さなければ。
束の間の平和を破った
「……何だ、ヨソ者?」
「お前は阿呆か?」
、それはその通り。
「なにっ、何、言いやがる!」
腕を振り上げ、叩きつけようとする悟助。
「一撃もらえば負けの大将が先頭を堂々と歩いてどうする?」簡単に
…………どういう意味だ?
「何言ってやがる!どうせ敵はあの旗の下にしか居らんわ!ビクビクしやがって、くだらねぇ」
その通りだ。ここには俺たちの他、誰もいない。
「……全員であの
おいおい。
「…………ヨソ者、てめぇ良い加減にしねぇと」
そろそろ止めなければ。私が歩み寄ろうとした瞬間、
「もし、それで何も起きなければ、全裸でこの神事をこなそう。それで
……………………
「………………二言はねぇな。よし、お前ぇら。あの
村の衆が手頃な石を拾い、やれやれと投げ込もうとした瞬間、
「くそぉ」悔しがる相手方。
声もない悟助。
「……
私が代わりに問う。周囲の人間も耳を傾けていた。
「昔から
…………………………………………?
「くそぉ、奴ら。
気を取り直した悟助が悔しそうに気炎をあげる。村の衆も大なり小なり憤りを隠せない様だ。
士気は逆に高まった。肝を冷やしたが、雨降って地固まると言って良いだろう。
村の衆一丸となって進む。
隊列真ん中に引っ込んだ悟助の代わりに先頭を進むのは、半裸ののっぺら坊だった。
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◉用語解説
*1【随身の者ども】
護衛兵。徒士侍、被官衆・軍役衆など徒士立ちで貴人や大将の周りを守る者。
*2【
現在の三十分。
*3【
いわゆる“おやつ”。現代語でもある「おやつ」の語源は午後二時から午後四時(不定時法により季節によって変動あり)のおやつの時間が「(昼)八つの鐘」の時間(御八つ)だったからとされています。
中世当時は一日二食(朝・夕)だったため、“おやつ”は非常に重要でした。
*4【野掛け】
現代でいうところのピクニック。野遊び。
*5【
後三年の役を題材にした「後三年合戦絵巻」での一番有名なシーン。
*6【
リスペクト。
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