前日譚 小春日和前 十一、 無慙無愧ⅲ
◉登場人物、時刻
⚫︎
【南武方】
井手山主税助 南武家の重臣。本隊に参加。
井手山主水 主税助の弟。伏兵を率いる。
【戸田方】
戸田高雲斎 中堅國人衆。棟梁家の血に
連なる。
大久保六郎兵衛尉 高雲斎家臣。
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前日譚
「えい・おう・えい、えい・おう・えい、」
敵が
……どうやら
「散会せよ!敵に当たる者と後方に下がる者に分かれ、交代で敵の薄い所に叩きつけよ!何としても敵の隊列を崩すのだ!」
「者どもッ、死ねやぁ!」
徒士侍や槍軍役衆が一丸となって、敵を槍で
敵は二手に分かれ、交互に押し寄せる。常に動いている為、寄せにくい。しかし、所詮は時間の問題だ。
槍徒士の衆を
敵に被官衆・軍役衆が居ないとあれば、
それに馬上兵には棒立ちの時が最も
…………それを防ぐ役割の被官衆・軍役衆は敵方には今は居ない。
「推せ、推せぃ!寄せ切ればこちらの勝ちぞ!者ども、生き残る為には前に出ろ!」
前列が更に長柄の槍で牽制しつつ、敵に寄せる。
……やはり敵の被官衆・軍役衆は出てこない。この後に及んで出し惜しみする理由もない、敵の徒士兵はやはり居ないのだ。
死ぬ気で寄せよ、……この戦、寄せ切れるかどうかに掛かっている!
恐れていた事が遂に起きた。私はこれを恐れていたのだ。
とはいえ、殿の
…………そして、ここで勝負から降りるのは余りに欲が無さすぎるというものだ。
殿からの伝令に従い、本隊左手横より敵の本隊先手の右方に突入する。本隊に向かい槍を立てて寄せる敵。我ら戸田軍先陣の存在など、すっかり忘れておった様だ。
…………大久保党三十二騎に横っ面を
確かに岩や石が
……その代償はたっぷりと支払ってもらおう。
敵右翼の大将と思わしき者どもの
見たか!
我ら大久保党、冥土の土産に見知りおけっ!!
まずい、敵の先陣が左手より現れ、寸刻も保たずに右翼が崩れた。その勢いのまま、
敵の先陣について、意識しなかった訳ではないが、荒地が
これは私の
……しかし、今はこの後どうするかを考えねば。
爪は小手の皮に包まれた手のひらに痛みを与えるほど。
悔しさに突き破った唇は鉄の味を流している。
全身で悔しさを感じながら。
それでも頭は冷静に。
一族。家。付き従う者ども。
自分一人の問題ではないのだから。
……ここはこれまでか。
これ以上戦っても、勝ち味は薄い。となれば、退ける余力のある内に退く。これは大前提だ。
若に手柄を
「槍を
次の機会にはその
…………兄上にしては、随分と物分かりの良い。
直ぐそこに、高雲斎の
伏勢は徒士侍ばかり六騎。九人の被官衆・軍役衆を付けて総勢十五人。
「えぇか?旗は挙げずとも良い。気勢も上げんな。こっちは小勢じゃ。敵に気づかれたら仕舞いや。夜這いの要領で、こそっと行って
いてもうたれや、高雲斎の奴を。ほんで井手山主水の名を
「えぇか、一、二の三で行くからな。ほれ、一、二の三!」
……あぁ、
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【お願い】
この作品に出てくる『夜這い』の文言は、いわゆる無理矢理の方ではなく、婚姻交渉の一形態としてのそれを表しております。あらかじめご了承下さい。
エセ関西弁もどきで申し訳ありません。
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