一章 棟梁襲名 十一、対高雲斎戦Ⅵ

◉登場人物、時刻

於曽右兵衛尉  棟梁方討ち手の大将。


戸田高雲斎   棟梁家に連なる有力國人衆。

        棟梁家の家督争いに乗じて叛旗を

        翻す。


午正の刻    正午から午後一時。


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一章 棟梁襲名 十一、対高雲斎戦Ⅵ

 丁卯ていう四年如月十四日 午正うませいの刻 於曽おそ右兵衛尉ひょうえのじょう


 横撃を続ける。

 於曽の陣は天から見れば、三日月の様に見えるはずだ。

 此処ここが勝負所よ、押せ!押せぃ!

 敵方の右翼で気付いた者どもが、向き直り対抗しようとするが、間に合って居らず組織的な抵抗が出来ていない。


 敵方の抵抗を各個撃破し、蹴散らす。

 ……このままならば、勝てる!





















『『どん、どん、どん、どどっどっどっどん』』

 ……敵本陣より、軍太鼓の音。


「……何じゃ……」


 次の瞬間、敵方が右翼への横撃を気にする事無く、一斉に前方に向かい、遮二無二しゃにむに、進撃を始めた。





「……………………しもぅた」

 右兵衛尉ひょうえのじょう、一生の不覚。





 丁卯四年如月十四日 午正の刻 戸田高雲斎


 打ち続く軍太鼓の音が兵の士気を鼓舞し、その背中を力強く押している。


 右兵衛尉は名うての戦巧者で、何をして来るかは、俺にも判らなかった。

 ただ、右兵衛尉が何をするかは判らなくても、旗を見れば、敵方の弱点は明らかだ。


 ……兵のほとんどが宗家の兵であるにも関わらず、軍配を持つべき宗家の人間が居ない。

 宗家の兵にとっては命を賭けるべき『意義』が無いのだ。


 俺が下知した策は単純だ。

 右兵衛尉に俺の首を取られ無い様、本陣を厚くし防備を固め、先手衆には『寄せ太鼓』が聞こえたら、どんな状況でも遮二無二しゃにむに掛かれ!と言えば良いのだ。

 右兵衛尉の於曽兵おそへいがどんなに頑張ろうと、所詮、総勢二十にも満たぬ小勢。

 宗家の兵が崩れれば、友崩れ※するのみ。

 そののちに流れを変える事は出来ぬ。


高砂たかさごの 尾のの桜 咲にけり

 外山とやまのかすみ 立たずもあらなむ』



  ……勝ったな。


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◉用語解説

【友崩れ】 

 友軍・隣やすぐ近くの隊の敗退に連られて優勢、又は互角の戦いをしている部隊まで敗退する事。


  『高砂の 尾の上の桜 咲にけり

   外山のかすみ 立たずもあらなむ』

  (後拾遺集 権中納言〈大江〉匡房)

 

 遠くにある高い山の、頂にある桜も美しく咲いた事だ。人里近くにある山のかすみよ、どうか立たずにいて欲しい。美しい桜がかすんでしまわない様に。


 今回もお読み頂き有難うございます。

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