一章 棟梁襲名  九、対高雲斎戦Ⅳ

◉登場人物、時刻、戦力比較

於曽右兵衛尉  棟梁方、討ち手の大将。

余戸左衛門尉  棟梁方、討ち手の寄騎。


????    主人公。次期棟梁。


戸田高雲斎   有力國人衆。棟梁家の血に連なる

        一門。棟梁家の家督争いに乗じて

        叛旗を翻す。


○棟梁家方戦力 十九騎、総勢七十五人。

【内訳】

  宗家の兵は総勢五十六人。

  騎侍二騎、長柄持四人、鑓持一人、弓持三張、

  小旗持一人。 

  それぞれ、四人の被官衆、軍役衆が付く。

  五十五人+余戸左衛門尉

  

  於曽方、総勢十九人。

  騎侍一騎、長柄持三人、弓持一張、

  小旗持一人。

  それぞれ、二人の被官衆、軍役衆が付く。

  十八人+於曽右兵衛尉


○戸田方戦力、おおよそ三十五余騎、

総勢百二十余人。騎兵、弓兵は少なく、鑓雑兵が

多く見える(物見からの報告)。


辰正の刻    午前八時から午前九時

巳初の刻    午前九時から午前十時

卯正の刻    午前六時から午前七時


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一章 棟梁襲名  九、対高雲斎戦Ⅳ

丁卯ていう四年如月十四日 辰正たつせいの刻 於曽おそ右兵衛尉ひょうえのじょう


 余戸よと左衛門尉えもんのじょう殿と軽く言葉を交わす。急場に話ができる余裕は恐らく無い。


 真面まともに当たっては勝味は薄い。

 故に陣に一工夫する。中央部を少し薄くして、その分、右翼と左翼に厚みを持たせる。

 左翼に於曽の兵を一塊ひとかたまりに配置して、左衛門尉殿には右翼、中央をお願いする。

 また麾下きかの給人衆※にはからい、騎侍には下馬してもらい、小旗持も含め予備の鑓を貸し与え、備えの前で鑓侍、鑓雑兵と共に隊列を組んでもらう。「今更、鑓雑兵の真似事など……」と文句は言われたが、御味方の不利は肌で感じるのだろう、従ってくれた。


 策と呼ぶにはいささか心許無さ過ぎる工夫だが、今の儂に思い付く最良の方法だ。



「「「放てぇーーっ!!」」」


 巳初みしょの刻、両軍の声が響き、矢合わせから戦が始まる。矢の数は互角か、味方勢の方がやや多い。宗家直属の兵は良く訓練されている事もあり、弓矢の勝負はこちらに分がありそうだ。


 「「どん、どん、どん、どん、どん、どん」」


 腹にこたえる軍太鼓の音が両軍の陣から低く鳴り響く。

 それに合わせて両軍の打ち物侍、鑓雑兵、小旗持など隋兵ずいへいが一丸となって、横陣を保ちつつ押し出していく。面を襲う様に降り注ぐ矢の雨に討たれ、両軍の兵が倒れていく。


 ここまでは優勢に戦えている、問題はこの先だが……



丁卯ていう四年如月十四日 卯正うせいの刻 ????


 高砂の渡しを渡り、ぐるりと集落を避け、戦さ場へ。

 戦さ場には我らが一番先に着いた。小さな森の中に身を潜め、装備を整える。馬を鳴さぬ様にくつわめ、細心の注意を払う。


 少し前に敵方が着到し、陣を構えている。本陣までしつらえ、全体に余裕が見える。

 二度程、此方こちらにも物見が来たが、そもそも兵が居るなどと疑っていないのだろう、森の中をうかがう事も無かった。


 ……床几の上に腰掛け時を待つ。

 弥助はまんじりともせず、かたわらオレの兜を大事そうに捧げ持っている。

 二騎の侍どもはオレと同じ様に床几に座っている。

 雑兵どもは思い思いにくつろいでいる。

 馬は一塊ひとかたまりに繋いであり、時々雑兵どもが何呉無なにくれなく世話をしている。


 鉄の『七曜の軍配』をくるり、くるりと弄ぶ。

 戦は焦っては負ける。

 物見に立っている三人を合わせても、此方の兵は総勢、十三騎。

 機を見極めねば、簡単に全滅するであろう。


 機を見極めねば。


 

丁卯ていう四年如月十四日 巳初みしょの刻 戸田高雲斎


「クハッ」

 本陣の中で北叟笑ほくそえむ。

 右兵衛尉の爺ぃは今頃、青くなっている事だろう。戦巧者の右兵衛尉だが、此度は情勢が悪すぎた。引きの戦で此方こちらを引き付け、出血を強いるつもりだったのだろうが、陣の敷き方一つでこのザマよ。


 同情するぜぇ。

 そもそも奴の取れる手は最初から多く無かった。両手を縛られて戦に出る様なモンさ。


 --そして、これから益々取れる手が無くなる。


 血がたぎる。これだからバクチは辞められねぇ。自分の命みてぇなデカいもんが掛かってりゃ尚更だ。


 まっ、後は仕上げを御ろうじろ、ってなモンよ!


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◉用語解説

【給人衆】

 家臣。所領内で給田(知行地)を受け、その対価に軍役と近侍を勤める人。

 所領を与える側が自分で被官にする場合と、更にに上の主筋から寄騎として与えられる場合が存在しました。

 家臣ではありますが、同時に一家の当主でもあり、無理な指揮には従わない事もありました(その場合、勿論、主君との争い事の種になります)。

 例えば、井伊直政は部下に冷酷な事で有名で、家康に付けられた家老近藤秀用と対立し、後に秀用が出奔する、という事態になりました。


 今回もお読み頂き有難うございます。

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