一章 棟梁襲名 三、対高雲斎戦Ⅰ
◉登場人物、時刻
???? 主人公。次期棟梁。今回出番なし。
於曽右兵衛尉 棟梁家の乙名(重臣)。戦巧者。
余戸左衛門尉 棟梁家の乙名(重臣)。
卯初の刻 午前五時から午前六時
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一章 棟梁襲名 三、対高雲斎戦Ⅰ
高雲斎殿の館はこの國の西方にある。
大街道を西へ発向し、途中で南に折れ、麻原の渡しで大河を渡れば、戸田の村落はもう直ぐそこだ。
馬上の侍衆に付き従う
あと
……この戦は難しい。独り、黙考する。
宗家とも同族の國人衆、
しかも、集めている理由について、二度ほど
これは明確な背信行為である。
しかも、戸田方は南武刑部大輔殿と争っているが、最近は積極的には動いていない。
恐らく、いや間違いなく矛先は宗家であろう。
戸田の館は滝沢川と坪川に挟まれた中洲にある。
ここら一帯は河内路が通る交通の要所だ。平地の城ではあるが、周辺は湿地帯で
独断で於曽からは動員出来るだけ動員してきた。
騎侍一騎、長柄持三人、弓持一張、小旗持一人。それぞれ二人の被官や軍役衆が付いて総勢十九人。急であった事、また余り大勢を引き連れる訳にもいかず、これが限界だった。
宗家の兵は騎侍二騎、長柄持四人、鑓持一人、弓持三張、小旗持一人。
御屋形様不与の噂が流れ、兵どもの集まりが悪い。宗家の兵は武装は立派だが、此度は御屋形様の
出来ればもう少し兵が集まるのを待ちたかったが、棟梁・宗家たる本拠が名族とは言え國人衆、しかも自らの支族に攻められては、面子に傷が付く。
受け身の戦では國人衆の受けが悪い。
急ぎ一当てすべし、との声を抑えられなんだ。
……
戸田の近郷には
だが自らを
先ず、負けぬ戦を為す事が肝要である。
五分の勝ちで良い。最悪、一分の負けは構わぬ。
自陣の損害を抑え兵を温存し、相手に出来得る限りの出血を
決着は此度で無くても良い、今は時間を稼がねば。
……この様な時にあの御方がいて下さったら。
「ハッ」
失笑する。齢九つの童に頼るとは、儂もヤキが回ったか。
「……
番方※として御屋形に詰めて居られたが、
自らの兵では無く、他家の兵だけを率いて劣勢の戦に臨むのは、かなりの
……申し訳ないが素直に有り難い。左衛門尉殿が居なくては勝ちは見えなかったやも知れぬ。
「いや何、今頃若様は何をしておいでか、と」
「何故
二人の間に妙な笑いが起き、肩の力が抜ける。
……うむ、まだ大丈夫だ。
「……此度の戦、無理押しはせぬ。劣勢を侮り野戦になるか、館攻めになるかは解らぬが、館攻めなら遠巻きに圧力を掛け、野戦ならば敵を引き
「……
左衛門尉殿は歴戦の勇士。これだけ言えば解った様だ。
此度の戦、負ける訳にはいかぬ。
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◉用語解説
【本貫の地】
その武士が発祥した元々の本拠地。
【番方】
警護役の事。
今回もお読み頂き有難うございます。
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