一章 棟梁襲名
一章 棟梁襲名 一、乱世が掟
◉登場人物
???? 主人公。次期棟梁。
弥助 戦災孤児の口取り。主人公に恩を感じ
ている。
口取りは中間・小者(武家奉公人)の
仕事で運搬・土木専門で戦わない人夫
(陣夫)とは異なり、主人の身の回り
の世話をしながら(本来は)いざと
言う時には戦闘にも参加しました
(諸説あり)。
この方言はネットの方言辞典を参考に
適当に作られた架空の方言です。
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一章 棟梁襲名 一、乱世が掟
おんが若様はずでぇづない※。
まだ、ぼこ※のお年だっでのに、大柄でほどんど大人と変わらねぇ。お声も雷様みたいにおっぎぐで、お顔もづない。
でも、笑いなさると、ぼこ
戦でお
あのまんまじゃあ、
この恩は必ずお返しする。
若様は必ずおんがお
丁卯四年如月十四日 ????
國人衆の動きが活発になっている。
……父上の
今回、兵を挙げた
この様な時にこそ、宗家の力を見せねばならぬのに、不与の父上は仕方ないとしても、
右衛門尉は確かに
敵方に対して味方勢は、恐らく五分※程になるはずだ。
大柄とは言え、確かに
だが、此度の戦は
……負ける訳にはいかぬ。鮮やかに勝たねばならぬ。また國が乱れれば、無駄に民が死ぬ。
だから
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◉用語解説
【づない】
恐ろしい、おっかない。
【ぼこ】
子供。
【ちょうばり】
不良。
【被養者】
戦国期の農村では村の領域、水利権や入会山、
しかし、そのままでは野放図に村戦が拡大し、田畑が耕せず領主(武士)に
そこまでいくと更に上位の武士層(大名権力など)から
それを避けようと村同士の争いに仲介人が入って「手打ち」を行う事もありましたが、その場合もやはり、「そもそも何が原因でこの事態になったのか?」と言う『責任の追及』はなされました。
その段階では過誤のある方は「ケジメ」として、自分たちの集団の中から死刑にする人物(事態の原因を作った人物で無くても可)を出さねばならない事態になりました。
その為に戦国期の農村ではどこの村でも「死刑にする為の正規の村人以外の人員」を養っていました(解死人制)。
弥助が語る被養者とはこれに当たります。
殺される為の人員として村に養われると言うのは過酷な制度ではありますが、殺された人物の妻子は正規の村の住人として迎え入れられ、その後の生活を保障されるなど、セーフティネット的な一面も持っていた、とされます(殺されず、戻される事もあったそうです)。
なお、解死人にされる側は必ずしも喜んで解死人になった訳ではなく、遺族が村を相手に訴訟を起こしたり、与えられるはずの「解死人行為に対する対価」を村側が勝手に少なく書き換えたりする例もあった様です。
いずれにせよ、そんな事までしないと生き残れなかった壮絶極まる「末法が世」ではあります。
◉「解死人制」について
「解死人制」は対象がムラ対ムラと大きな
理解できないのは何故、加害者本人ではなく、その集団の立場の弱い者に押し付けることが許されるのか?ということです。
現代の我々からすれば、誰かの罪を別の人間、しかも集団での立場の弱い人に押し付けるなど、あってはならない事と感じます。
しかし、そもそも中世のこの頃には
人は一人で生きていけるほど社会の生産性が安定しておらず、個人の意思は集団内の話し合いでしか役に立たず、個人名は原則的に村内でしか意味を成さず、外の世界では「〇〇村の」と集団名で
そういった社会の中で、個人の罪はその個人の意思と罪ではなく、集団の意思であり、集団の罪と考えていたのだと思われます。そのため集団の中で村の正規構成員以外から解死人を選んだり、一番生産性の低い者を選ぶ(子供を差し出すのは、その他にも子供を「聖なる存在」とみていたからと言う説もあります)というのは“(個人の意思を無視した)集団としての生存戦略”としては理にかなっています。生き残るためには、個人の意思を無視せざるを得ない(現代に比べれば)酷い世の中であった、とも言えます。
……つくづく現代に生きていて良かった、と思う次第です。
【主要参考文献】
◉藤木久志氏「戦国の村を行く」朝日新書
(1997年、2021年)
それまで無かった「村人から見た戦国時代」と言う観点を生み出し、一つの転換点を作った歴史研究の名著「村シリーズ」の一冊。
様々な研究者の著作の中でも言及されることの多い影響力の大きいシリーズです。
◉黒田基樹氏「戦国大名の危機管理」
角川ソフィア文庫(2005年、2017年)
「戦国大名の危機管理」とありますが、軍事的な事は余り出てきません。それがこの当時の「危機管理」の本質をよく表しています。
この本は情報量が多く、初心者の私には読むのが大変でしたが、とても様々な情報を知ることができました。平山優先生の「戦国大名と國衆」と共にこの物語のベースとなった一冊です。
【物見】
この場合は威力偵察の意味。
【五分】
半分。
今回もお読み頂き有難うございます。
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