記録 2ページ目

気を取り直して、とはいかないが考えていても仕方がない。




待ちに待った、ほんとに待ちわびた入学式である。ここまでの道のりは険しかった。主に、受験勉強とか、あの女とかあの女とかあの女とかあの女とか。




でも有川先生へのあの馴れ馴れしさからして、たぶんあの女は俺たちからして先輩だ。あの女がいる部活にさえ入らなければ関わることもないだろう。


導き出した結論にホッとして、校長先生の話を聞いた。周りの人の中には船を漕いでいる人もいる。校長先生のありがたいお話だぞ、聞けよ。

なんて思いながらも俺だってちゃんと聞いていない。俺は昨日あったボヤ騒ぎで寝不足なんだ。





校長先生のありがたいお話が終わり、次は在校生代表の挨拶らしい。




えっ、挨拶ってあの女がするの? さっきの原稿ってこれのこと? 大丈夫か、この入学式。




「えー、皆さん初めまして! 在校生代表の神月かんづき美緒みおです。えー、春の日差しが降ってきました! 皆さん入学おめでとうございます。えー、この学校には優しい先生の皆さまや、優しい先輩方がたくさんいらっしゃいます。皆さん中学生活楽しみましょう!」




体育館に静寂が訪れる。……え、おわり? 先生3分って言ってたけど、大丈夫かな。


案の定大丈夫ではないらしく、マイクを持ちながら目線をさまよわせている。




「えー、あのー、んー、えと、し、質問ある人、手を挙げてください!」




まさかの展開だよ。あなたもう喋る気ないのね。みんなもそれで手挙げるのかよ。順応能力高いな。




「おすすめの食堂のメニューは何ですか?」


「私のおすすめはコロッケパンうどんかな。うどんにコロッケパンをのせるだけ! 超簡単」


「一番優しい先生は誰ですか!」


「やっぱり、有川先生だねー」




入学式じゃないよこれ。なんなのこれ。先生たちを見ると悟った顔をしていた。あっ、いつもこんな感じなんだ? 先生諦めちゃってるよ。




生徒は校長先生の話の時とは違って寝てないけど……、いいのかこれ。




一気に騒がしくなった体育館に、しばらくしてタイマーの音が鳴り響く。




「はい、では予定の3分がたちましたのでこれで挨拶を終わります! ご清聴ありがとうございましたー」




あの女の言葉をきっかけに体育館に拍手が巻き起こった。


ちゃっかりタイマーで3分計ってたのね。カップラーメンか。




もはや、質問コーナーと化した在校生代表の挨拶は大成功? したのだった。






いいのかこれ。

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