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黒板に書かれている座席表を確認し、自分の席に座る。
新しい友達はできるだろうか。上手くいけば恋人ができちゃったりして……。あっ、俺どっちかというと恋人は見る専だわ。
そんなことを考えながらしばらく待っていると、スーツを着た男の人が入ってきた。たぶん、先生だろう。
「皆おはよう! 俺はこのクラスの担任になる
おぉ、こりゃ元気な先生だ。俺も含めたクラスメートの緊張からか張り詰めていた空気が、少し緩んだ気がする。
「じゃあ、今から入学式を行う体育館に移動する。出席番号順に並んで……」
そんな先生の説明を遮るようにバンッというドアを開ける音が聞こえた。どんな開け方したらそんなに音がなるんだよ。
「有川せんせー!」
静かだった教室に女の人の声が響き渡る。
この声ついさっき聞いたことのあるような気がするが……、気のせいだよな、はは。
「どうした、お前! 早く体育館にいけ」
「原稿、駅に置いてきちゃった、です」
「はあ!? きちゃた、じゃねぇだろ。」
「置いてきたもんは置いてきたんだから仕方ないでしょ、です」
大丈夫か、この人。てか、ですってつけりゃ敬語になると思ってるよ。ほんとに大丈夫か、この人。
先生は唸りながら頭をぼりぼりかいている。かわいそうに。
そんな先生の様子に気づいていないのか、それとも気づいた上で無視しているのか。女の人は先生の様子になど構わず言葉を続ける。
「取りに行こうとはしたんだよ、です」
「じゃあ取りに行けよ」
「でも、時間なかったから通りすがりの時間がありそうな男の子に頼んだの、です」
頬を膨らませなが女の人はそう言った。
……えっ、ちょっと待って。それ、もしかしなくても俺じゃね?
「でも、断ってきたの! です」
あんた俺が悪いみたいに言ってますけど、絶対に悪いのあなたですよね。なんかすごく怒ってるけど。
この感じだと、見つかったらなんか言われるやつ? ちょっと影薄くしとこ。
そんな俺の努力も虚しく、女の人とパチリと目が合う。
「あぁっ! 君だよね、私のこと無視したの、君だよね!?」
「うるさい、人のせいにするな、だいたい悪いのはお前だろ」
はぁ、なんで見つかるんだよ!? 俺なんかした? 神様は血も涙もないのかよ。
あと先生、ナイスフォローだよ。その通りだよ。俺の味方は先生だけだよ。
そして周りのクラスメート、俺に哀れみの眼差しを向けるな。
「とにかく、お前は原稿を思い出しながらやれ。3分やればいいから。だから早くどっか行け」
「有川せんせーのいじわるー」
先生は騒いでいる女の人をつまみ出しドアをピシャんと閉めた。外でなにか叫んでいるが、俺は知らない。勝手に叫んどけ。
「すまねぇな、うるさくて」
先生が申し訳なさそうに言う。
先生は悪くないですよ。全部あの女のせいですよ。
「うん、まぁ気を取り直して体育館に行こうか」
先生、疲れが滲み出てます、お気の毒に……。
ちょっと待って、俺、あの女のせいで悪目立ちしてない!?
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