ニ撃目


「しっかし…見れば見るほど

時代劇のセットみたいなところだなぁ〜?」


歩いて行くには遠いはずの距離を

なんか調子いいなぁ〜

くらいの感覚であっさり進み

気付けば目の前には大きい門

それはまさに教科書で見たような

とんでもない大きさの門であった

その入口を守るように

とても長い槍を持った

2人の大柄な男が立っていて

その向こうには、時代劇で見たような

街並みが広がっていた


「うおぉ…こんな状況でもなければ

自慢できるくらいには、凄い所だな…

素直に喜び辛いのが難点だが…」


そうして

ジロジロと珍しそうに

門やそこから見える街並みを

観察しながら歩いていくと大柄な男の片方が

凄むように声をかけてきた


「止まれ!そこの怪しい貴様だ!!

怪奇な格好をしている上、

動きまで怪しい!何者だ!」


「へっ!?俺ですか!?いやいやいや!

決して何も怪しい者では!」


両手をワタワタと動かし

丸腰をアピールする拳慈であったが

相手からすれば異邦の衣を纏った

見るからに怪しい人物

当然結果は


「なにか道具を使うつもりだな!大人しく縛につけい!」


「えええ!?なんでですか!丸腰ですってば!」


「不審者は皆そう言うのだ!大人しくせい!」


そうして

声を荒らげた大男によって

取り押さえられ

(抵抗すれば何をされるか分かったものではなかったので途中で弁解も諦めた)

門の外にある、掘っ建て小屋のような所に

押し込められた拳慈

取り調べを受け、根掘り葉掘り聞かれるが

当然身分を証明する物や【手形】と呼ばれる

通行書のような物も持っているはずもなく

また、いくら常識的な質問をしようとも

なんとも噛み合わず、しかも

頓珍漢な地名や発言をするもので

すっかり疲れてしまった衛兵

名を「木衛門」と言うらしい彼は


「なんだって俺の出番の時に…こんな面倒な奴が来るんだ…給金だって安いのに、こんな危険な仕事を任されて…挙句の果てにはこんな子守り見てぇな事まで…俺ァなんてついてねぇんだ…そうは思わねぇか!?拳慈とやらよぅ!?」


「イヤーマッタクソノトオリデ…ハハハ」


途中から愚痴を聞くだけの存在になり

やれ女房が最近冷たいだの

ヤレ最近生まれた長男がカワイイだの

最初の剣幕と強そうな雰囲気はどこえやら

バイト先の上司(子持ち)を思い出す

なんともダメな父親臭がするオヤジに変貌し

結果その後

体感2時間ほど拘束された

そうした後、

あきらかに敵意や悪意がないことや

いくら調べたところで

怪しい物や武器の類などを持っておらず

また、どうにも噛み合わない会話から

木衛門が思い出したように

口に出した


「そらぁ…神隠しってやつかもなぁ…

ここ最近じゃあんまし聞かねぇが、

以前にも、こういうことがあったらしい…

お前さんもそのクチか?」


「神隠し…と言えばそうなのかも?…

アレを神とするならば、ですけど」


すると木衛門は少し難し顔をして考え込み

拳慈に提案をした


「ならアレだ、街には入れてやるし

仮の身分証も書いてやるから

中で【討妖所】って所にいって

【討妖者】として登録してこい」


「とうようしゃ?とうようじょ?

ハローワークみたいなものですか?」


「はろーわ…?そのはろーなんたらは

なんだかよく分からねぇが、

登録さえしてしまえば

身分証にもなる手形代わりにもなる

仕事だって回してもらえるかもな」


「へぇ〜!とにかくそこに行って、登録すればいいんですね!分かりました!ありがとう御座います!」


そう言うと飛び出して行こうとする拳慈の首根っこを引っ掴んで


「まてまてまて!まだ何も渡してねぇのに入ったら今度こそお縄だぞ!ちったァ落ち着けケン坊!」


どうやらお人好しの木衛門に

すっかり気に入られたようで

ケン坊なんて呼び方までされる拳慈は

その後、色々な紙を貰い

(ちなみに木衛門は達筆だった、

漢字ではあったが

達筆過ぎて読めない…)

討妖所への道筋も紙に起こしてもらい

掘っ建て小屋を後にした拳慈は

歩き出し、簡易的な地図を頼りに

目的地へ向かう


「ここが…これで…ええと?

あれ?…こっちか?」


だが土地勘のない拳慈は

当然と言うべきか必然と言うべきか

道順を見失い

見当違いな方向へ進んでゆき

建物のひしめく

裏道のような所へ差し掛かったところ

絹の裂けるような悲鳴が拳慈の耳に入る


「いやっ!離して!離して下さい!」


「へへっ!良いじゃねえか!この参等級討妖者、三郎様の相手をさせてやるって言ってんだ!お前だって嬉しいだろう【帰蝶】よう!」


声のする方へ向かうと、見目麗しい

黒く美しい髪を

ポニーテールのようにして纏めた女性が

明らかに悪漢といった風貌の男に

襲われていた!


「何度もお断りさせて頂いている通り!

嫌なものは嫌なんです!だから離してっ!」


「イイねぇ!その冷たい態度!

だが直ぐにでも俺のモノにしてやるよ!」


そう言って

女性へ覆いかぶさろうとする下劣な男

拳慈は大声で


「おいっ!そこのキモデブハゲ野郎!

そのヒトから離れろ!嫌がっているだろう!」


「ああ!?誰がハゲだって!?

まだ生えてるわボケェ!

つーかテメェは誰だコラァ!」


拳慈の罵倒に反応し、こちらに身体を向け

敵意を浴びせてくる下劣な男

腰の辺にある刀と思わしき武器に手をかける


「お姉さん!今のうちに逃げて!」


「えっ!?は、はい!」


そう言って【帰蝶】と呼ばれた女性は

その場を離れる


「俺の女になる予定だったものを…邪魔しよって小僧…」


「嫌がってるのに俺の女も何もあるか!

このハゲ!」


「だから禿げてねぇ!もう頭にきたぞ!

貴様は生きては返さん!切り刻んでやる!」


そう言って三郎という男が刀を抜き

上段に斬りかかってきた

拳慈は不思議なことに

とても落ち着いていて

身体に満ち溢れるそれを感じていた


「(これが神の言っていた

【気】ってやつか…なんだか

行ける気がする!)さぁこい!禿げ野郎!」


「きぃさぁまぁ!許さんぞぉ!?

大人しく去ねぇい!」


その瞬間

時間がスローに感じ

拳慈は無意識に

【いつもの構えを】

脱力し

瞬間

放つ…!


「あがぁ!?」


男から潰れたカエルのような声があがる

腰だめに構え

抜き放たれた拳は

【刀を折り】

その丸々とした腹に突き刺さる

男は膝をつき、白目を剥いたのち

ドサリ、ズゥウン…

と倒れ伏した

そして呼吸を整え、構えを解く、そして

己の拳をみて、相手の手元を見て、拳慈は


「スゥ…フゥー…

ん?えっと…刀?

んんんー?…うん」



なんじゃこりゃあぁぁぁ!



これが居合の拳を極め

理不尽に強き者でありながら

なんとも不憫な青年の

始まりの物語である!





おわれ




















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居合の拳ってカッコよくね? @GOTOMen

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