第22話 婚活パーティー

 ★2022年4月19日★


 今日は婚活パーティーだ。

 場所は札幌中央区、開始は11時予定。


 この日のために装備も整えた。

 一番高いスーツとベルトと靴、時計も合わせて600万円。


 高級500万円腕時計は秒針がカタカタ動く。これを見せれば凄さをアピールできるのだ。


 現在時刻は10時。

 俺はスーツに着替え、胸ポケットにボールペンをす。

 コンパでは筆記用具を使うらしい。


「何か緊張してきたな」


 ドキドキする。

 あと少しで男女の出会いが待っているのだ。


 俺は家を出た。


 会場まではタクシーで移動、到着したのは20分前だ。

 運転手に1万円をお釣りごと渡し、車を降りる。


 車から降りると、目の前には8階建ての大きなビルが見えた。

 婚活パーティーの会場はここの2階だ。


 俺は立ち止まったまま、大きく息を吸った。そしてゆっくりと吐く。


「ついに来たぞ……落ち着け……」


 俺はビルに入る。


 中に入ると階段があり、そのまま2階へ移動した。


 2階に上がると『婚活パーティー会場はこちら』と書かれた看板があり、俺はその中に入った。


 入り口にはカウンターがあり、受付の女性がいる。

 俺を確認すると話しかけてきた。


「パーティーに参加のお客様でしょうか」

「はい」


「お名前をお願いします」

「ぎんたまおです」


「では身分証明書と参加費をお願いします」


 そう言われ、俺は財布さいふの中から免許証と2500円を取り出し、渡す。


「ギン様ですね。免許証をお返しします」


 免許証を受け取り、財布にしまう。


「ではこの12番を付けて、あちらの12番席でプロフィールカードを記入して下さい」


 俺はプロフィールカードと番号札を受け取る。

 番号札は、挟むか安全ピンで止めるタイプだ。


 俺は胸ポケットに12番を付け、会場を見渡す。


 会場には2人用テーブルが30卓、イスが60席。

 テーブルの上にはコロナ対策の透明な板、そして席番号が貼ってある。


 俺は自分の番号を見つけ『男12』と書いてある席に座った。


 時計を見ると10:45。後15分で始まる。

 さっさとプロフィールカードを書こう。


 俺は書き始めた。


 住所は札幌。年齢は37。一人暮らし。身長は170cm。血液型はA。


 職業は……投資家にしよう。無職だけど。

 年収は5000万円でいいか。

 休日は不定。


 好きなタイプは、よく笑うツインテールの女性。まあウリンちゃんみたいな人だな。


 結婚については、付き合ってから考える。


 タバコは吸わない。酒は普通程度。


 休日の過ごし方はインターネット。本当はパチンコと書きたいけど、婚活なのに趣味をパチンコと書くのはバカかと思う。


 家族構成、亡くなっているので無し。

 結婚歴なし。子供いない。


「これで全部だな」


 俺は書き終わった。


 時間は11時。

 司会者の女性がマイクを使い、説明を始める。


「皆さん、プロフィールカードは書き終わりましたか。今回の婚活パーティーは男性28名、女性15名です」


 俺は辺りを見回した。

 確かに女性が少ない。男は多いがスーツ姿は俺だけだ。


 そして、わかっていたが、全員マスクを着用している。

 ぱっと見ても女性は全員美人に見えた。


「まずは2分間会話をして下さい。2分後に合図が鳴ったら男性だけ横に1つずれて下さい。それの繰り返しです」


 そして婚活が始まった。


 最初の女性は38歳デパート店員。

 そろそろ結婚がしたいとの事だった。どうでもいい会話で終わる。


 次は36歳銀行員。

 どうでもいい会話で終わる。


 32歳介護士。

 どうでもいい会話で終わる。


 次は35歳販売員。

 どうでもいい会話で終わる。


 全員かわいいんだけど、どうもピンと来ない。

 会話も2分間と短いから高級腕時計がアピールするヒマも無いし、質問合戦で終わってしまう。


 次は28歳のCADオペレーター。

 まずはプロフィールカードを交換し、こちらから話す。


「こんにちはー」

「こんにちはー」

「キャドオペレーターをされてるんですね」

「そうですね」

「休日の過ごし方は……動画を見る?」

「はい」

「どんな動画を見ているんですか?」

「ゲーム実況動画ですね。ラクベルや双子男がいい声で、配信者の声が好きでよく見てます」

「へえ……」

「後はドラマもよく見ます。三振死亡とか十文字の謎とか、ミステリーが好きなんですよ」

「へえ……」


 今言われたドラマや配信者の名前、何一つ知らないぞ。

 知ってるフリもなあ……。


「自分もゲーム動画はたまに見ますね」

「へー」

 会話がヘタな俺には無理だった。



 婚活パーティーは進み、俺は最後の女性との会話を待っていた。


 男性は人数が多いので、2分会話して2分休むのパターンで進み、女性は1時間ずっと会話しっぱなしだ。


 そして最後の女性、31歳パート店員。名前はサヤカ。

 15人目で初めて、女性の方から話しかけてきた。


「ギンさんって年収5000万円なんですね」

「はい」

「凄いですね」

「運がいいだけですよ」


 何度も聞かれた質問に、同じ答えが出る。


「ギンさんは休みの日にインターネットで何を見てるんですか?」

「いや……動画とか、掲示板とかで有益な情報を探したりですね」

「好きなタイプって、よく笑うツインテールの女性?」

「はい」

「それって、こんな感じですか?」


 そう言って彼女は笑いながら、自身の肩まで伸びた髪を両手でつまんで、ツインテールを作って見せた。


「ツインテールでーす」


 彼女はおどけて言う。

 彼女の作ったツインテールは、ウリンちゃんにそっくりだった。


「めっちゃかわいい~」


 俺もノリで返事をする。


 今までの中で、一番普通に会話できる気がする。


 俺は改めて相手のプロフィールカードを見る。

 お酒は飲む、家族と同居、勤務地は札幌、好きな食べ物は肉、結婚歴なし。


 俺は質問をする。


「サヤカさんって、肉が好きなんですね」

「そうなんです。家で肉もいいんですけど、本当は外でお酒と一緒に、焼き肉食べたいなーって思ってます」

「焼き肉いいですね、自分もたまに行きます」

「おー、焼き肉の友ですね」


 そう言ってサヤカさんは親指を立てた握りこぶしを見せる。サムズアップってやつ。


 しかし焼肉屋には、もう20年は行っていない。

 ウソつきだな俺は。


「サヤカさんは家で料理とか結構するんですか?」

「家の料理はですね、毎日私が作ってます」

「大変ですね」

「慣れです慣れ。料理は楽しいですよ。ギンさんも料理はするんですか?」

「いやー自分はあまりしないですね。カレーとかチャーハンは作りますけど」


 またウソをついてしまった。

 カレーとチャーハンは、20年ぐらい前に作ったのが最後だ。


 ピピピピピピピピ


 2分終了の合図が鳴る。


「はい、これで終了です。皆さん、自分の番号の席に戻って下さい」


 司会者が終了の合図をする。

 俺は隣にある自分の席に戻った。


「それでは皆さん、マッチングカードに気に入った方の番号を記入して下さい。第三希望まで書けますが、何も書かなくても問題はありません。記入が終わったら二つ折りにして下さい。回収に行きます」


 司会者が説明を行う。


 俺はマッチングカードに11番、サヤカさんの番号だけを記入して、半分に折った。

 しばらくして、司会者がカードを回収する。


 やれることは終わった。

 後は待つだけだ。


 10分程経っただろうか、司会者が出てきて説明を始める。


「今回は3組のカップルが成立しました。女性は外で発表しますので、荷物を持って外に出て下さい」


 そう言われ、参加女性15人が外に出る。


「ではカップリングを発表します」


 俺の12番が呼ばれるだろうか。


「まずは男性2番と女性14番がカップリングですおめでとう。次は男性12番と女性11番がカップリングですおめでとう。最後に……」


 あ、俺と11番サヤカさん、カップリングした。


 司会者が言い終わると、俺は外に出る。


 外ではサヤカさんが待っていた。


「サヤカさん行きますか」

「行きましょう」


 そう言って二人で会場を出る。

 腹が減ったので飯の話題を出す。


「サヤカさん、ご飯食べました?」

「まだ食べてないです」

「それじゃ食べに行きますか」

「行きましょう」


 そうして、近くの寿司屋で食事を取る。

 会計は別々でと彼女は言ったが、今回は自分が出すと言って、おごった。


 食事の時に彼女がマスクを外したが、普通にかわいいと思う女性だった。

 電話番号も交換したし、次のデートの約束もした。


 全て初めての経験だ。

 俺は37歳でついに経験値を得たのだ。


 彼女を札幌駅まで送り、俺はタクシーで家に帰った。


 自宅があるアパートに到着。

 階段を登ると、俺の家のとなりのドアが開く。

 隣人りんじんだ。


 ドアからは若い女性が出てきた。

 髪型はウリンちゃんと同じセミロングのツインテール。顔も同じぐらいかわいい。

 彼女の手にはゴミ袋が見える。


「こんにちはー」

「こんにちはー」


 挨拶を済ませ、俺は家に入る。

 彼女は階段を降りていく。ゴミを捨てに行くのだろう。


 しかし、となりの家にウリンちゃんそっくりな女性が住んでいたんだな。

 知らなかった。


 でもまあ、俺には婚活で出会ったサヤカさんがいる。

 隣人がウリンちゃんに似ていても、もう関係ないのだ。


 ――そうだ、彼女がいるなら暴力も必要になる。

 悪漢あっかん暴漢ぼうかんに襲われても、助けられないと困る。


 よし、ゴールドポイントを使って、あの人体破壊兵器と交換しよう。

 愛する者を傷つける者は傷つけられてもしょうがないのだ。

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