第18話 武器

 駅からホテルまではタクシーで帰った。

 返り血は浴びていないが、とりあえずシャワーを浴びよう。


 服を脱ぎ、ホテルのトイレに入る。

 便器の横に設置されたシャワーから、お湯を出して頭に当てる。


「ふう……ひどい目にあったな」


 シャワーの刺激は、まるで滝に打たれているようだ。


 滝に打たれ続けて思考がリセットされ、頭がマトモに戻っていく。

 そしてグチが出る。


「ていうか、俺って殺されかけたんだよな。日本でありえないだろ」


 声はシャワーでかき消される。


「目の前で人が死んで、それなのに平然としていて、殺した張本人と会話までして、俺は狂っているのだろうか」


 独り言を言うが答えは出ない。

 シャワーを浴び終えた俺は、ベッドに転がる。


「観光に来ただけなのになぁ」


 どうしてこうなったんだろう。

 もうサムエルに聞こう。


 俺は呼び出しの魔法を使った。


「サムエルだ。我に何の用だ」

「ちょっと聞きたいんですが……俺って狂ってますかね?」

「お前は狂ってない」

「そうですよね」


 良かった、俺は狂ってない。


「ちょっと聞きたいんですけど」

「何だ」

「サムエルに頼まれたって女の人がいるじゃないですか」

「何のことだ」

「巨乳で右アゴにほくろがある女の人です」

「あいつには確かに指令を出している」

「彼女は何なんですか?」

「あいつは削除人スイーパーをやっている。ウミウシ帝国の奴らを減らしているのだ」

「へえ……」


 スイーパーねぇ……。

 て言うか、あの女性の名前を聞かなかったな。


「えっと、実は新宿に行ったんですよ」

「知っている」


 知っていたのかよ。

 でも俺を注意する感じでもない。


「俺はそこで知らない男に殺されそうになって、その女性に助けられたんですよ」

「ふむ」

「おかげで俺は助かったんですけど、彼女は何でスイーパーをしてるんですかね?」

「それは本人に聞け」

「そうですね」


 何でもは教えてくれないようだ。


「それで彼女の名前を聞きそびれてしまって、名前を教えて貰えませんか?」

「それも本人に聞け」

「そうですか」


 名前もダメなようだ。


「……やっぱり新宿に行かないほうが良かったですよね」

「お前が本を買うのに必要だったのだろう? それなら問題ない」

「そうですか」


「だが新宿には魔法使いが多い。強いヤツと出会う可能性も高くなる。注意せよ」

「確かに今回は強かったです。相手は拳銃を持っていましたし、助けてくれた女性も相手の姿が見えなくて苦労してたみたいです」


 俺は、なぜか死んだ金髪男の強さをべる。

 するとサムエルが反論する。


「その男は雑魚ザコだな」

「え……」


「姿を隠してもお前の指輪は呪いを防ぐ。それに少し改造した拳銃だろうと、指輪の防御はほとんど減っておらぬ。お前を絶対に殺せなかった」

「はあ」


「そうだな、お前も危険な場所に行くなら武器を持った方がいい。交換できるようにしておいた。お前を助けた女が使っている武器よりも、格上のやつをな」

「ほう」


 俺はそう言われ、魔法アプリを開く。

 するとゴールドポイントで交換できる一覧に『SK-25補給型電磁投射砲』が追加されていた。


「何ですかこれ」

「SK-25補給型電磁投射砲ほきゅうがたでんじとうしゃほう、金属を食わせれば動力も弾も無限だ。大きさは拳銃で、威力は簡単に人体破壊ができる設定にした」


 何だかすげえな。

 ていうかこれって、殺人兵器じゃないのか。


「我は正直なところ、お前にはあまり戦って欲しくない」

「いや自分も戦いたくないです」


「だが相手を破壊する力が無いと困るだろう。危険な場所に行く前には交換するといい」

「はい、ありがとうございます」


 俺は心配してくれるサムエルに感謝をべる。


「……また用があれば呼ぶがいい」


 そう言ってサムエルの気配は消えた。


 うーん……武器か。

 今日は止めておこう。


 それより、あの女性が死ぬ前に電話しないと。

 今日戦った相手は弱い相手でした、と言わないと。


 俺は着信履歴に表示された番号へ、電話を掛ける。


 プルルル プルルル プルルル


「はい」

「あ、どうも。今日助けて貰った者です」


「はいはい、ねえ今どこ?」

「え? ホテルです」


「どこのホテル?」

「東京タワーの近くのホテルです」


「何て名前のホテル?」

「東京プリズムホテルです」


「そっかー、近いね」


 俺は伝えないといけない。

 今日戦った相手は弱いのだと。このままだと、死ぬと。


「あの、今日戦った相手の事なんですけど……」

「ああそれね。私もあなたに伝える事があるから、今から行くね」

「伝える事?」

「着いたらまた電話するねー」


 そう言って電話は切られた。


 伝えたい事ってなんだろう。


 まさか俺に一目惚れか?

 そんな訳ないな。


 37年間も生きてきたら、それぐらい理解できるようになる。

 悲しい童貞だ、俺は。

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