第17話 死

 タクシーに揺られ、新宿駅へ到着。


 現在地である新宿西口、ここから指示通りに歩くとすぐに目的の店に着いた。


 店の前にはDVD販売と書かれた看板があり、営業はしているようだ。


 しかしこの辺りの道は小さく、妙に人通りが少ない。

 新宿とは思えないぐらいだ。



「DVD販売って書いてるけど、本当にウリンちゃんの漫画なんて置いてるのかね」


 俺は半信半疑で店の中に入る。


 店の入り口には小さな紙とえんぴつが置いてある。購入には商品番号を書くらしい。


 店内をぐるりと回ったが、商品番号の付いたエロDVDやアダルトグッズしか売っておらず、ただの健全なDVDショップだと感じていた。


「掲示板はウソばっかりだな……」


 店にあったのは全て人間のDVDだ。全員ウリンちゃんにも似ていなかった。騙された。

 何も買わずに店を出る。


 そして店を出た瞬間、道の向かい側に金髪の男が見えた。


 この金髪の男は見覚えがある。


 昨日、ラーメン屋で店主の胸ぐらを掴んでいた男だ。

 マスクをしておらず、特徴的な髪型と色。

 間違いない。


 だが、俺はトラブルを起こす気は無い。


 金髪男はこちらを見ていたが、俺は目が合わないよう視線をそらす。

 すると金髪男が声を掛けてきた。


「よう」


 俺は無視して立ち去ろうとする。


「待てよ、番号は?」


 金髪男が俺の前に立ちふさがってきた。

 俺は立ち止まり、相手を見る。


「俺が見えてんだろ。番号は?」


 番号とは?

 このDVDショップの商品番号だろうか。


「いえ、何も買ってませんけど」


「……」


 謎の沈黙が訪れる。

 すると金髪男は、拳銃を取り出した。


「死ね」


 そう言うと拳銃を俺に向け、パンッと音を出す。

 撃たれた。


 なんだこれ。


 俺は腹に衝撃を感じ、ぐらりと倒れる。


 倒れた俺に向かって、男が更に撃つ。

 パンパンと音がして、横っ腹に2回衝撃がはしる。


 俺の服に新しい穴が3つ開いた。


「こいつ弱すぎるな、削除人スイーパーじゃない」


 俺は動けなかった。


「まあ死体を回収すればいいか」

「……」


 金髪男が近付いてくる。


「ん? 回収できない。まだ死んでねえのか」

「……」


 パンパンパン


 音が鳴るたび、俺は体に衝撃を感じた。


「なんだ、回収機のチャージ切れてんじゃん」

「……」


 金髪男はどこかに電話をする。


「俺だ。透明化を見破った奴の死体がある。使える回収機を持ってDVDの前に来い。今すぐにだ」

「…………?」



 まて。

 俺は生きてる。


 確かに銃で撃たれたはずだ。

 だが痛みは無い。


 そうか、わかった。

 守りの指輪。

 これで死ななかったのか。


 だとすると、これからどうする。

 現状を把握しろ。


 俺は地面に倒れている。

 それからどうする。


 ゆっくりと薄目を開けよう。


 金髪男は電話中だ。


 どうする。


 一気に飛び起きて逃げるか?

 それとも戦うか?


 武器も無い、貧弱な俺が勝てるのか?


 早くしないと男の仲間が来る。

 どうする。


 金髪男はまだ電話中だ。


 ――その時、金髪男の頭が光ったように見えた。

『バコン!』という岩が砕けるような音がした。


 次の瞬間、金髪男は頭が吹き飛んでいた。


「え!?」


 俺は変な声をだす。

 目の前で人の頭が吹き飛んだ。死んでいるだろう。


 金髪男はゆっくりと倒れ、首の上から赤い液体をぴゅっぴゅっと、規則的に吹き出す。


 俺はすぐに起き上がり、死体を確認する。


「本当に死んでる……」


 ……待てよ、これは誰が殺したんだ。

 俺は素早く辺りを見回す。


 すると、女が近付いて来るのが見えた。

 胸が大きい、若い巨乳女だ。右アゴにほくろが見える。


 その巨乳女が死体に近付く。

 そして、金髪男の死体に手をかざすと、死体が消えた。


 俺が胸を見ていると、話しかけてきた。


「あんたもサムエルに頼まれたのかい?」

「……いや、サムエルには頼まれてはいない」


 サムエルを知っているってことは、仲間だろうか。


「それじゃ何で新宿になんか来たんだい」

「本当はサムエルには新宿に近付くなと言われてたんだ、やる事があったから」

「やる事?」

「ウリンちゃんのエロ漫画があるって聞いたから」

「はぁあ?」


 どうやらあきれられたようだ。

 俺は気になっていたことを聞く。


「それより死体はどこへ……」

「それより、まずはここを離れるよ」


 俺は巨乳女に言われるまま、新宿駅まで戻ってきた。


「ここなら大丈夫だろう。あいつらは人が多いと特定出来ないみたいなんだ」

「へー」


 役に立つのか、よく分からない情報を得る。


「ところでさっき死体を消したけど、どうやったんですか?」

「そりゃサムエルの魔法さ。あいつらを殺しても隠せるようにね」

「殺すのが好きなんですか?」

「そんなわけ無いだろ……」

「じゃあ何でこんな事を」

「あいつらは私の父親を殺したんだ。だから殺しても文句は言わせない」


 そう話す巨乳女の目は、信念を感じさせる目だった。

 この話題はもう止めよう。


「そう言えばマスクしてないですけど、いります?」

「そっか、あんたにはマスクをしてないように見えるんだ。大丈夫、マスク着用状態の魔法はサムエルから貰ってるから」

「へー」


 知らない魔法なんだが。


「まあ、あんたがおとりになってくれて助かったよ。あいつの姿が全く見えなかったからね」

「そうですか」


 ラーメン屋では姿を見せていたようだけど。


「今度は新宿以外で会いたいね。囮になってくれたお礼もしたいし。今度会った時は抜いてあげるね」


 そう言って巨乳女は電話番号を教えてきた。


「暇な時は連絡してね!」


 巨乳女は新宿駅の中に入っていった。


 今度会った時は抜くって、どういうことだろう。

 童貞の俺にはわからなかった。


 また会ったら聞いてみよう。


 その後、新宿駅近くのデパートで服を眺める。

 服やジャケットに拳銃の穴が空いたので、新しいのを買った。


 そして時間が経ち、薄暗くなった新宿駅前には、自分の詩集を300円で販売する女性や、歌を歌う人がちらほら増えてきた。


「そろそろホテルに戻るか」


 東京旅行のホテルは二泊三日、明日が帰る日だ。


 今日はもう疲れた。

 ホテルに帰ろう。


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