第16話 観光に行く

 ★2022年2月1日★


 東京へ行こう。観光で。


 普通に考えてコロナウィルス流行の今、旅行は危ないと思う。しかし行かなければ一生、北海道で死を待つだけ。


 だから俺は東京に行く。

 皆がやっているように、東京タワーで人をゴミのように見下ろしてみたい。

 行こう。



 時刻は朝9時。

 軽くシリアルで朝食を取った俺は、札幌から近い空港に向かって電車に乗る。

 旅行中に困らないよう、スマホからインターネットを使用できるようにもしておいた。


 荷物はほぼ無い。

 リュックの中身はスマホ充電器、着替え、予備のマスクだけである。変換装置は置いていこう。


 電車に揺られ1時間、新千歳空港に到着。



 ネット予約済みなので、自動チェックイン機に番号を打つだけで搭乗券が出る。便利なもんだ。


 ぶらぶらしてると搭乗時間のアナウンスが始まり、俺は飛行機へと入る。


 そして飛行機は、東京へと向かった。



 ――――2時間後。


 時刻は14時。

 無事に東京の羽田空港へと着く。


「ここが東京……」


 初めての東京に少し感動した。


 まずはご飯を食べよう。お腹が空いた。


 空港で食事を取る。ハンバーグ1500円。

 さあ、東京タワーに行こう。


 俺はモノレールと歩きを駆使くしし、東京タワーに着いた。


 東京タワーでは3000円を払い、最上階までの権利を得る。

 そしてエレベーターを使い一気に最上階、窓から見える景色はまさに絶景ぜっけい、すばらしい。


「うわあ、まるで人がゴミのように小さいな」


 昔放送していた人気アニメのセリフを言い、俺は満足した。


 満足してしまった。


「あぁ、やりたかった事が終わってしまった」


 東京に来て2時間、もう東京に来た理由が終わった。


「どうするかな、予約していたホテルにはまだ早いし、楽しいところ無いかな……」


 そして俺は思い出した。

 パチスロの聖地を。


 パチスロ専門店、新宿グリンピアース本店。


 普通の店はメダル5枚を100円と交換できるが、この店は7枚で100円だ。


 その7枚交換を武器に最高設定6を多数設置、喉が渇けば無料のドリンクバーもある。バケモノのような優良店。


「そうだよ、グリンピアース本店に行ってみよう」


 しかしグリンピアースがあるのは……新宿。

 ウミウシ帝国のアジト新宿。


 でも今は精子力を隠すペンダントもあるし、大丈夫だろう。

 それに、普通に考えて一般人の俺が襲われるわけ無い。気にしすぎかもしれないな。


 俺は新宿グリンピアース本店に行くことにした。


 移動には満員電車を使った。

 東京ではぎゅうぎゅうに人が乗ってるのに、更にぎゅうぎゅうに押し込まれる。

 ここは地獄かな。


 だが初めての満員電車はすこし楽しかった。

 あれが毎日の人は楽しくないだろうけど。


 電車で三密さんみつの中、俺は新宿にたどり着く。

 新宿東南口の大きな階段を降りると、そこには以前雑誌で見た通りのグリンピアース本店があった。


「ついに来たか。これで俺も立派けいけんなスロッターの仲間入りだ」


 俺は聖地であるグリンピアース本店へと足を踏み入れた。


「久しぶりのパチスロだな」

 店の中を歩きながら、最近ギャンブルをしていないことを思い出す。


 置いてあるパチスロ台は古いのから最新機種まで多種多様、俺は希少台であるモリモリ七福神を選んだ。


 モリモリ七福神は最低設定1でも当たり確率1/99で、難易度の高い2コマ目押しが出来れば機会割100%を越える、プレイヤーが勝ちやすい機械だ。


「どれ、甘すぎて撤去された台の実力を見せてもらうか」


 ワクワクしながら席に座る。

 そして座ってから2時間が経過、すでに2万円負けていた。


 半々はんはんで大当たりと小当たりが来るのだが、悪い50%小当たりしか当たらなかった。ヒキよわと言われる現象である。


「そりゃ魔法を使わないと負けるよな、俺ってこんなもんだ」

 店を出る。マイナス2万円。


 時刻は20時、腹が減ったのでご飯を食べよう。

 少し歩くとラーメン屋が4件も見えた。


 俺は、店内が一番キレイなラーメン屋に入る。


 店内にはカウンター6席、誰も座ってない。

 左奥にはテーブル席、混んでいる。


 俺がガラガラのカウンター席に座ると、店主が近付いてきた。


「お客さん、すいません、そこはちょっと……」


 店主が首を左右に振りながら、カウンター席から奥のテーブル席に誘導しようとする。


「はあ……」


 俺は素直に従い、空いている奥のテーブル席へと移った。

 店員が水を持ってくる。


「チャーシュー麺大盛り1つ、醤油味で」


 注文後にラーメンはすぐ到着。

 熱々のラーメンをすする。


 半分ほど食べた頃だろうか、店内で怒号どごうが聞こえた。

 立ち上がって声の方向を見ると、入り口に若い男が5~6人見え、両手を上げた店主の胸ぐらを掴んでいる。


「ふざけんなよ!」「空けとけ!」そういった単語が何度も聞こえる。

「こっち来いおら!」と金髪男が叫ぶと、店主を掴んだまま外に連れ出していった。


 怖い。

 東京って恐ろしい。


 俺はすくみあがっていた。


 すると、店主が連れていかれると同時に、隣のテーブル席にいたガタイの良い男二人が立ち上がり、ラーメンを残して外に出ていった。


 俺はイスに座り、ラーメンの続きを食べる。


「俺にできることは無い……」


 俺は無力だった。


 ラーメンを食べ終わり支払いを済ませると、おそるおそるドアを開けて外に出る。誰もいない。


 なんだか疲れた。


 俺はタクシーでホテルへと向かった。


 ホテルの受付でチェックインを済ませ部屋に入ると、疲れがあふれ出した。

 俺はシャワーも浴びず、そのままベッドで寝てしまった。



 ★2022年2月2日★


 朝8時に起きる。

 昨日の精神的な疲労はもう無い。


 起きてすぐ、トイレに備え付けられたシャワーを浴びる。体がサッパリしたところで朝食バイキングを食べに行く。

 栄養面を考えて野菜とパンとコーヒーにした。


 食後は部屋に戻り、ベッドの枕に顔をうずめ、考える。


 今日も新宿へ行こう。

 どうも新宿駅の近くに、ウリンちゃんの無修正エロ漫画が売っている場所があると、掲示板に書いてあったのだ。


 本来は東京スカイツリーの予定だったが、中止だ。


 まあ、昨日は新宿に行ったけど、ウミウシ帝国なんて聞かなかったし、気にしすぎなんだよ俺は。昨日と違って昼間に行くんだし、何も起きないのが当然。


 そりゃそうだよ。

 日本は治安がいいんだ。


 とりあえず新宿駅に行こう。


 俺はタクシーを拾い、新宿駅へと向かった。

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