第14話 年末10億円宝くじ

 ★2021年12月19日★


 北海道では雪が降り積もっていた。


 パチンコ屋はもちろん、近所のスーパーに行くのすら面倒だった。

 俺は宅配ピザや寿司を注文しては、家でごろごろとインターネットをする、自堕落な生活を送っていたのだ。


「金も200万円はあるし、しばらく稼がなくてもいいか」


 目の前にはパチンコで稼いだお金、200枚の一万円札が無造作に置かれている。


 だが200万円だと足りない、投資をするにも足りない、そろそろ年末10億円宝くじを買っておかないと。


 気だるい感じを振り払い、宝くじを買いに行こうと気持ちを上げる。


 玄関から出ると、隣の住居のドアが開きっぱなしだった。おそらく引っ越しだろう。アパートの下り階段に向かう途中、中をチラリと見ると玄関に母親と娘、引越し業者らしき人物が見えた。

 娘は若いな、高校生ぐらいか。


 そのかん1秒、あまり見るのも良くないと思い、俺は階段を降りて外に出る。アパートの前にはトラック、引越し業者のマークが描かれていた。


「新しい入居者だろうけど、俺には関係ないな」


 雪道を踏みしめながら、近くの宝くじ売り場へと歩く。


 宝くじ売り場は先客が2名、後ろに並ぶと順番はすぐに回ってきた。


「いらっしゃいませー」

「年末10億円宝くじを連番で、10枚下さい」

「3000円になります」


 俺はサッとお金を出し、宝くじを受け取る。


「どうぞ当たりますようにー」


 売り場のお姉さんがいつものセリフを言ってくれる。

 さ、帰ろう。


 アパートに戻ると、引っ越しのトラックは消えていた。


 部屋に戻ると、買ってきた宝くじを取り出す。

 番号は87組の123450から10枚の連番。宝くじを無くさないよう、そのまま冷蔵庫に保管する。


「これで準備は整った。後は大晦日おおみそかの抽選を待つだけだな」


 宝くじの購入を終えた後は、いつものようにお絵かき掲示板を見る。


 俺が作ったウリンちゃんのエロ画像スレッドだが、他のキャラのエロイラストも投稿されている。

 たまに本命のウリンちゃんの画像が投稿されていることもあり、そういう場合は絵師を褒めちぎるのだ。俺って本当に卑劣ひれつだぜ。


「――近い―――だね」


 ん?

 隣の部屋から女の声が聞こえる。


「お母さん―――宝くじ――――」


 何を言ってるのかわからんな。声が薄い。

 しばらくすると聞こえなくなった。


「……ま、どうでもいいか」


 そして大晦日おおみそか、宝くじの抽選日が来る。



 ★2021年12月31日★


 今日は年末10億円宝くじの抽選日だ。

 1等8億円、前後賞合わせて10億円。


 1等の当選確率は1/2000万という、ギャンブラーには理解できるが一般人には理解しづらい、厳しいレベルの確率を引かなければいけない。普通ならば。


 だが、俺は普通じゃない。

 魔法を持っている。

 貴重なゴールドポイントを使用し、宝くじの当選番号を自由に決められるのだ。


「そろそろだな」


 時刻は11時、インターネットで年末宝くじ抽選の中継が始まった。

 最初は年末5千万円ミニ宝くじの抽選が行われ、番号が決まる。


 そして12時、本命の年末10億円宝くじ抽選の始まりだ。


 司会者が7等の抽選を指示し、ルーレットが回る。


「なんかドキドキするな」


 魔法アプリには抽選場所の住所、87組123456番と入力済みだ。

 冷蔵庫から宝くじも取り出している。


 7等の抽選が終わる。

 末尾2番。


 そして6等、5等、4等、3等と続き、2等の抽選が終わった。


「次は1等の抽選……ついに来たぞ……」


 俺はすかさず、魔法アプリから魔法を発動する。

 スマホの画面には『87組123456番完了』と表示された。

 これでいいはず。


「それでは1等8億円の抽選を始めていきます、皆さん夢を掴んでいきましょう」


 パソコンの画面から声が聞こえる。

 1等8億円の抽選時間だ。


 画面の中ではルーレットが回り、そして矢が刺さる。

 番号は決定された。


 司会者が番号を読み上げていく。


 そして


「年末10億円宝くじ、1等8億円の当選番号は……」


 ……。


「87組の123456番に決まりました」



 当たった。


 本当に当たった。


 でもなんだろう、嬉しいんだけど、すごい嬉しいんだけど、ギャンブルで当たった時のような快楽物質ドーパミンはあまり出なかった。


 でも嬉しい。

 これでもう、お金には困らない。


「10億円手に入ったか、これで俺も億万長者だな」


 俺はお金持ちになった。


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