第13話 質問

 俺は魔法アプリを開いた。

 10ポイントでサムエルを呼べるボタンがある。


 聞きたいことがあれば呼べと、そう言っていた。


 呼ぼう。


 俺は呼び出しを押す。

 すると押した次の瞬間、既にサムエルは来ていた。


「サムエルだ。我に何の用だ?」


「今日ウミウシ帝国のヤツっぽいのに声を掛けられたんですが、大丈夫ですかね」


「安心しろ、あいつは既に別の男とホテルに行った」


「え? 別の男とホテル?」


 なにそれ、俺じゃなくても良かったんだ、ずるい。


「男の精子力は少し高い程度だ、お前に比べると全然低いがな。あの女にはまだわからんだろう」


「その男って、最後はどうなるんですか?」


「射精した後に開放だな。精子力も低いし2回目は無い」


「では、もし俺がホテルに一緒に行っていたら、どうなってました?」


「発射の時点でゴールド変換者だと気付かれるだろう。ゴールド変換とまではいかずともな。そうなれば搾精者さくせいしゃが帝国から来て、本当に死ぬまで搾り取られる」


 俺はゾクッとした。

『死ぬまで搾り取られる』


 童貞が一度は夢見るシチュエーションだが、本当に死ぬのはごめんだ。


「そもそもゴールド変換は滅多に起きるものではない。あの女も偶然発生したと思って、この地域から去るだろう」


 そっか、じゃあ大丈夫なのか?

 もっと色々と聞きたいな。


「えーと……人の行動をそこまで知れるなら、ウミウシ帝国のアジトとか、そういう場所は知らないですかね?」


「うむ、ウミウシ帝国の本拠地アジトは東京の新宿区だ。あの周辺だけは我も見えぬ」


 新宿がアジトかよ。

 名前だけ聞いたことあるけど、どんな場所だかわからん。


 そこに近付く人はどうなるんだろ。


「その、誰かが新宿に行って様子を見てくるとか、攻め込んで戦って勝てるとか、そういう見込みはあるんでしょうか?」


「今は帝国の魔法使いを減らしている状況だ。ただ、お前は行かない方がいい。真の魔法使いならお前の精子力をすぐに見抜くはずだ」


 帝国の魔法使いを減らしてるって、どうやって減らしてるんだろ……。

 サムエルは戦ってるみたいだけど、命のやり取りをしているようには感じない。


「なるほど、それでは新宿には行かないようにします」


 俺はアドバイスに従う。


「……質問はそれだけか? また知りたければ呼ぶがいい」


 そう言ってサムエルの気配が消える。


「まあ、しばらくはのんびり暮らすか」


 ――――それからは、何も起こらなかった。


 パチンコ屋で日当5万円を稼ぎ、家に帰ってはポイントを貯める。

 たまにゲームセンターで時間を潰す。


 そんな日常が続いた。


 ポイントを貯める時は一応、気持ちのよい射精を心がけていたが、一度もゴールド変換されなかった。前にゴールド変換した時は本当に偶然だったのだろう。


 そして季節は冬。

 雪が降り積もる12月になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る