第12話 若返り

 ★2021年11月15日★


 目が覚めたのは朝だった。


 カーテンも閉めずに寝てしまったらしく、朝日が見えていた。時計は8時と表示している。


 昨日、若返り薬を飲んだことを思い出し、洗面所の鏡を見に行く。


「これが……俺……」


 そこには若返った自分がいた。

 昔よく見たことのある顔、懐かしい。


 シャツを上げてみると、お腹も少しへこんだような気がする。


「そういや昨日から何も食べてなかったな」


 へこんだ腹を見て気付く。

 腹が減った。ハンバーグ食べたい。


 俺はファミレスへと向かった。


 カランカラン


「いらっしゃいませー、一名様ですか?」


 店員がいつもの挨拶をする。

 俺は店員に誘導され、4人用の個室席に案内された。開店時間からすぐで客はほとんど見当たらない。


「すいません、このレギュラーハンバーグ皿400gお願いします」


「はい、レギュラーハンバーグ皿400gですね、以上でよろしいですか?」


「はい」


 注文を済ませた俺はゴールド交換のリストを見る。


「まだ8ゴールドポイントも残ってる。宝くじで1ポイント使っても、後7回も若返りが使える。時間にもお金にも困らない、これから何をしようかな」


 一人でニヤニヤ笑っていると、声が聞こえてきた。


「サムエルだ。言い忘れていたがウミウシ帝国の兵隊に注意しろ。お前をスカウトしに来るだろうが、止めておけ」


 ファミレスの中でサムエルの忠告が届く。


「相変わらずですね、人がいたら聞かれてましたよ」


 急に話しかけられビックリしたが表情には出さず、あくまで紳士的に話しかける。


「安心しろ、我の声はお前以外には聞こえない」


「そうなんですか」

 相変わらず不思議だらけだな。


「ところでスカウトってどういう事ですか?」


「どうやら先日のゴールドポイント変換を嗅ぎつけたらしく、この近くで手当り次第に精子力の強いヤツに声をかけている。お前にも精子の提供を持ちかけてくるはずだが、止めておけ。お前の変換の凄さに気付いたら、奴らはお前を逃さないだろう」


「具体的に、相手は何をしてくるんですかね」


「奴らは精子を搾り取ろうとするはずだ。それに奴らは無慈悲むじひ拷問ごうもん好きだ、人間を使い捨てにする。平穏に暮らしたければ我に手を貸した方が良い」


「なるほど……」

 よくわからん……。


 でもサムエルと敵対している勢力に、手は貸したくないな。


「もともと相手側に手を貸すつもりはありませんよ。サムエルには魔法を使わせて貰ってますからね」


「それならば助かる」


 そう言うとサムエルの気配が消えた。


 しばらくすると、台車に料理を乗せた店員が近づいて来る。


「おまたせしました、レギュラーハンバーグ皿400gです」


 店員が肉汁たっぷりハンバーグを置く。


 こいつは美味しそうだ。

 丸一日食べていない俺は、肉と盛り合わせのご飯を次々に口へ運ぶ。


「ハンバーグとご飯おいしい、おいしい」


 400gと量は多かったが、全て食べ終えた。


 そろそろ行くか。

 俺は伝票を持ってレジに向かう。


「ありがとうございましたー」


 会計を終わらせると、俺は近所のパチンコ屋に向かった。

 いくらゴールドポイントで宝くじが当たるといっても、抽選は12月31日、まだまだ先である。


 持ち金は40万円程度、豪勢に暮らすならば全然足りない。

 毎日5万円ずつパチンコ屋から抜く仕事をしておかないと。


 そう思いながら、パチンコ屋の近くで信号待ちをしていると、マスクをした女性にいきなり話しかけられた。


「あの、ちょっとすみません」

「はい」

「お兄さんって簡単に稼げるお仕事に興味ありませんか?」


 おいおい、女性が話しかけてくるのって宗教の勧誘、絵画の販売、そんなのばっかりだったけど今回はこれだよ。

 簡単に稼げる仕事って、詐欺しか思い浮かばないんだが……。


「うーん、簡単に稼げる仕事なんですか?」

「はい、とっても簡単です」


「具体的にどんなことをするんですか?」

「えっとですね、お兄さんが私の膣内に射精してくれたら、1回3万円あげます」


「え?」


 そう言って女性はマスクを外し、顔を見せる。

 年齢は20代といったところだろうか結構可愛い。


「お兄さんどうですか、ホテルも近いし、とっても簡単なお仕事ですよ」

「ちょ、ちょっと待って。すごく嬉しいし、簡単だと思うけど、それをして君になんの得があるの?」


 こんな怪しい誘いは美人局(つつもたせ)の可能性が高い。

 あとでヤの付く人が出てきてお金を請求されるやつだ。


「得ですか? 私って膣内で射精されると元気になるんです。1回3万円なんて全然安いですし。それに病気も妊娠もないです。お兄さんは気持ちよくなるだけでいいんです」


 ん?

 どうもひっかかる。

 これってもしかして、サムエルの言っていたウミウシ帝国の兵隊なんじゃないだろうか。


「ところで、何で自分を選んだんですか? いい男なんてそこら中にいるでしょ」

「誰にでも声を掛けているわけじゃないんですよ。お兄さん、私の好みだから声をかけちゃいました」


 サムエルから話を聞く前なら、怪しみながらもホテルに行ったかもしれない。

 でもこの娘はウミウシ帝国の関係者っぽいしなあ、手を貸すわけにはいかない。


「そう言ってくれるのはありがたいけど、俺は好きな女の子がいるのでちょっと難しいです」


 間違ったことは言っていない。俺はウリンちゃんが好きなんだ。


「そうなんだ、残念。もし気が変わったら声を掛けてくださいね。しばらくここにいますから」


 俺は相槌を打って、彼女から離れた。

 しばらくはここのパチンコ屋に行くのは止めた方がいいかもしれない。

 今日は別の店に行こう。


 俺は別のパチンコ屋に行き、大工が戦うパチンコ台を4時間打って122500円勝った。

 パチンコで勝ったが、どうもスッキリしない。


 なんだろう。

 モヤモヤしながら家に帰る。


 そして家に着くと、俺は考える。


 このままだとウミウシ帝国のヤツに、俺がゴールド変換した奴だとばれるのか。ばれたらどうなるのだろうか。


 俺はサムエルを呼んで、質問することにした。


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