第41話 真実
音沙汰がないまま三月になった。
卒業シーズンである。特に尊敬する先輩もおらず、変人達に巻き込まれた一年になった。
そして何より、この日を迎えてしまった事が何よりの屈辱だ。
「卒業おめでとうございます。先輩」
「先輩呼びなんて一度もしてくれなかったでしょ。何で今更?」
「なんとなく、です」
霧崎さんも三年生なんだから卒業してしまう。だからせめて別れ際に先輩と呼んでおきたかった。
掴みどころがなく、いつも飄々としている先輩だなぁと思っていた。でも、付き合ってみると意外といい人だった。
「頑張って…」
「はい」
その言葉はあなたからは聞きたくなかったですよ、霧崎さん。
式から一日後、私は決着をつけるため、彼を家に招いた。
「しばらくぶりだね。四宮さん」
「…………」
ああ、本当に気持ち悪い。吐き気がする。
後悔が押し寄せ、絶望させてやりたいという気持ちが前面に出て来る。因縁の相手と言えば聞こえがいいのかもしれない。
「霧崎さんから聞きました。全部」
「しゃべっちゃたか~。ああ…そうか」
落胆している。その様子はまるで子供の様で、気色悪い。
「自分の口から話してください」
「うん、いいよ」
自分語りなんて一番聞きたくない。でも、それでも、コイツだけは許せない。
いつだったろうか。初めから僕には、心があるかどうか疑わしい節があった。
何でも一番を取って来た僕にとって、不足はなく、これでいいと思っていた。人の死も、動物の死も、特に何も感じなかった。他人と自分は別で、他人を見下すのにも、何の後悔も覚えなかった。
今の社会では異端とされる存在。その中で僕は生きて来た。何も暴力を振るって一番になった訳じゃない。生まれた時から常に絶望していた僕は、この醜い社会を変えるため、知識を蓄える事にした。
中学の時、初めて二番になった。テストの合計点で誰にも負けなかった僕にとって、これは恐れていた出来事だった。
この感情はなんだ? 体が震えている。どういう事だ? 僕が、僕が――恐れている?
感情の無いロボットに、初めて感情が宿った感覚。ああ、これが
それはいつしか憎悪に変わり、それは彼女自身に向いたものとなる。
これが、始まり。僕の始まり。
父に頼み、あらゆる権力を利用した。
裏社会へのコンタクト。マスコミによる弾圧。真実を敢えて隠蔽させない事により、僕が社会自体を動かしやすくする為に利用した。四宮さんの友達にウソを吹き込み、殺そうとした。でも、面白くなかった。だから止めた。
家族が死に、友人も死んだ。絶望しただろうと高を括っていたが、まさか僕と同類がいるなんて思わなかった。
いや、彼女も僕と同じだったのだ。結局のところ僕がやって来たのは無駄で、彼女自身が壊れるのを待つだけしか出来なかった。
だからここで決着をつける。
僕の為に死んで欲しいから、ここで殺すんだ。
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