第39話 夢を見て
いい加減気づいたらどう?
私はどう見られてるか……。知らないふりは良くないからね……?
「ん~」
夢なのか、夢じゃないのか。人間、時々そんな事を思う時がある。私は今、それにぶち当たっていた。
休日の間、私は特に何もせず過ごしていた。何か大きな事と言えば、三上さんが家に来た事くらいか。どちらにせよ迷惑な事に変わりなく、早々に帰って欲しかった。
「私がどう思われているか、か……」
夢なんて滅多に見ないタイプだ。夢を見る人はよく眠れていない、なんて以前に、そもそも夢なんて見ない気がする。最近の夢と言ったら、三上さん達がヒーローのような格好をしていて、悪役が私だけだった、という夢くらいだ。
「変に思われてるって事かな……」
独り言も言った事は無いに等しいのに、今日はやたら多い。おかしい訳ではない、それは自覚している。
恐らくは気にし過ぎているんだ。そう思っていると、誰かに肩をポンポンと叩かれた。
「…………」
こんな時に……。
私が悩んでいる時はいつも会ってしまう。この男には会いたいとすら思わないのに。
「四宮さん、昼休みか放課後、どっちか時間ある?」
「無い」
「酷いな、僕の事そんなに嫌いかい?」
当たり前だ、その言葉をぐっと飲みこむ。まあ、言おうと思えば言えたが。
「……嫌いじゃないけど」
「けど?」
「好きじゃない」
典型的なツンデレ文句。はっきりと嫌いなんて言うと、学校での信用が落ちる。
私は私のそんな部分をあざ笑っているだろう。
自分の殻に閉じこもっているのはどっちだ、と言って。
「行きます。その代わり、さっさと終わらせてください」
私は逃げるように教室を出て行った。次の授業が移動教室なのがありがたかった。
「で、用件は? 手短にお願いします」
「うん、君は猫被った悪魔だね。四宮さん」
猫被った悪魔? 何を言っているのか分からない。
昼は時間が潰れ、結局放課後に話す事になってしまった。三上さんは相変わらずバカっぽいような顔をしていたので、さっさと帰らせた。
屋上に出ると、いつも気分が悪くなる。あの時を思い出してしまうからだ。
「何言ってるんですか? 訳の分からない事を言うんですね」
「四宮さん、君の過去は大体知っているよ。みんな、みーんな、君のせいで死んだんだ」
何故、私のせいになるのだろうか。大体、まだ説明をしていない部分が多すぎる。
「いずなちゃんにどうして嘘を吹き込んだの? 大体、そんな事をして何の利益があるの?」
「僕より上に人がいる事が許せないんだ。それだけだよ」
「私が……?」
「そうだよ。四宮さんは僕の敵。殺してでも追い払わなきゃいけない敵なんだ」
相変わらず、言っている事が滅茶苦茶だ。動揺もせず、慣れている自分が不思議でもあったが。
「中学の頃から、だよね。初めて会った時はいい人だと思ったよ。でも、話したら全然違った。びっくりしたよ。人ってこんなに変わるもんなんだって」
「そうだね、そもそも僕は友達が少ないんだ。友達を探しているんだ、ずっとね」
「自分から減らした癖に?」
「……そんな訳ないだろう?」
お互いの腹を探るように問答が続く。狩りを始める前の動物はこんな感じだろうか。
「色々知ってるんでしょ。その癖自分は手を下さない。本当に性悪だよ、会長」
「君は僕と一緒じゃないと言いたいのかい? そんなわけないだろう。どうして今まで気づかなかったのか、教えて欲しいくらいなんだ」
「私のせいなんでしょ」
その言葉に一瞬黙る。平面上は冷静を装っているつもりでも、焦りが出ている。今日は切り上げようかと思ったが―――
「うん、一つ聞いてもいいかい?」
答える事など何もないが……、聞いてやろう。
「君、もう一人の事は知っているのかい?」
「…………」
会ったはずないと思っていたのだが、どうやら会っていたみたいだった。
「聞いたよ、君は仮面を被っているって。本当はどうでもいいって思ってるのに、日常を大事そうにしている。私みたいな奴がいても抑え込まれてるから、出て来た時が一番楽しいって言ってたけど」
「…………」
余計な事を……。黙っていれば良かったのに。
「僕は四宮さんが嫌いだよ。ずっとずっと嫌いだよ。この先もね」
それだけ言うと、あいつは屋上を出て行った。
「やあ、元気にしてるかい」
「どうして、いるんですか……?」
彼女の家は閑散としているように見えたが、片づけられていて綺麗だった。
「香耶さん、君に話したい事があってね。協力して欲しいんだ」
首を傾げたが、頷いてくれた。良かった、これで
思うように利用出来る。
「じゃあ、ね―――」
僕は、どんな顔をしているだろうか。
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