第35話 有栖川舞踏会 中

 二日目、相変わらずの晴天。日程を確認した私は、いつ始まってもいいように家を出た。

 途中誰とも会わず不安になったが、中のTシャツだけ違う霧崎さんを見つけた事で不安は一気に吹き飛んだ。

「まだ始まっていないのに、どうしたの?」

「いえ、不安だったので……」

「オールライト! それはいい心がけ。今日は『爆発! 科学は時代を創る』というTシャツにしたのだけれど、感想は?」

「ありません」

「即答は無いよぉ~~~~、先輩に構ってよぉ~~~」

 私の体を揺する霧崎さん。昨日より弱めだが、それでもグワングワンする。

「や~め~て~く~だ~さ~い~よぉ~~~~~」

「あははははっ!!!」

 失礼な先輩だ。人見て笑うとか、どんな神経してるんだ。

「ごめんなさい。とにかく、まだだから教室で待ってて」

 持ち場に戻る霧崎さんを見送りながら、私は教室に向かった。


「早いですね、四宮様」

「四宮さん、おはようございます」

「うん、おはよう」

 やって来たのはいつもの二人。ゆいちーと須藤さん。須藤さんは見ない格好をしていたので、一瞬戸惑ってしまう。

「その格好、何?」

「ああ、これですか。応援団長須藤貴奈、推参! という格好です」

「応援団長?」

 そんな格好で良かったっけな…と思い始める。

「貴奈、別のクラスの応援したいって言いだして。自分の友達が応援してくれるから、それに応えたいっていうワガママなんですけど」

 ゆいちーが補足説明をしてくれたおかげで、頭の中にすんなりと入った。

「じゃあ、今日の予定って……」

「はい、体育祭です!」


「体育祭開始五分前です。校庭に集合してください」

 運動着はちゃんと着て来た。気合を入れるための鉢巻きを頭に巻く。

 私は赤組だ。須藤さんも一緒に居る。

 ゆいちーと三上さんは白組だそうだ。三上さんには負けたくない。覚悟を決めて、私は体育祭に臨むのだ。

「頑張りましょうね、四宮様!」

「うん、頑張ろう!」

 絆の証、グータッチをする。トロフィーを目指しての戦争が、ここに幕を上げたっ……!!


「最初の競技は百メートル対抗リレーです」

 百メートル対抗リレー、これには出ない。私が選択したのは、借り物競争と大玉転がしの二つだ。

「フレー、フレー、がーんばれ!!」

 とにかく応援したいが、隣では須藤さんが気合を入れて応援している。私が無理に入るべきではなさそうだ。

 次が借り物競争で、その三つ次が大玉転がしだ。今は休み、全力で取り込まなければ……!


「次は、借り物競争です。出場する人は……」

「私の番! 行ってまいります」

 須藤さんにそう告げると、私はスタート地点に並んだ。

「位置について、よーい………ドン!」

 銃の合図と共に、一斉に走り出す。私は二番手だ。

「よぉし」

 目の前にある紙をひっくり返す。

「なになに…『今まで生きてきた中で一番の友人だと思う人』?」

「そんなの、そんなの……」

 いずなちゃんしかいない。でも今は―――

「三上さん! こっちおいでーーーーっ!!!」

「はーい!」

 嬉しそうな顔でこっちに向かって来た三上さん。

「走るよ!」

 何の説明も無しに走る。悪いと思ったが、今はそんな事言ってられない。

 後で何かおごるから……!

「何処まで走るの~~~!」

「あのゴールまで!」

 どうやら、私が一番みたいだ。このままいける……!

「いっけええええええええっ!」

 三上さんの手を握りしめ、私はスパートを掛ける。

 ゴールテープを通過する。感動して三上さんを忘れたので、フェンスに激突したのに気づかなかった。

「四宮さん痛いよ~~~~」

「ごめん、何かおごるから……」

「おごりはいいよ~~~~」

 ああ、楽しい。でも、もう一つ残っている。それも頑張らなきゃ……!


「三上さん、水いるかな?」

「いると思うよ。あれだけ激しくぶつかったもん。無事、なのが救いだよね」

 本当にそうだと思う。無事って言うか、何か、生命力の高さに感心した、と言えばいいだろう。

「でもさ、よく一位もぎ取ったよね四宮様」

「うん、意外と速いのは分かってたけど、あそこまで早いのはびっくりしたよ」

 三上さんの足の速さは入学式の時に思い知らされた。だが、速すぎてぶつかるなんて、こっちがびっくりした。

「あ、もうすぐだ」

「頑張ってくださいね、四宮様!」

「分かった、いっちょやったりますか!」


 大玉転がし。大玉を転がすというシンプルなゲームだ。だが、連携やタイミング、どう次に繋げるかなどを総合的に判断する難しいゲームでもある。

 (頑張らないと……)

 後ろにはいつもの三人が揃っている。この三人にケガをさせるのは、絶対にあってはならない。

 そんな私の杞憂は銃の合図で吹き飛んだ。

 赤の大玉が迫って来る。私は両腕を上に突き出した。

 タイミングばっちり! 大玉は思った方向へ……転がらずに手前に落ちた。

 遅れていた白がその隙に抜かしたので、対決は白の勝利となった。

「くそぉーーーーーーー!」

「白組が勝ったのに悔しそうにしてるんですか……?」

「四宮さんかっこよかったのにぃーーーーーーー!!!」

「そこなんだ……」

 はしゃいでいる三人を横目に、私はぶつかった大玉を眺めていた。


 結果は白組の勝利。仲良くハイタッチしている二人は、どこかのCMで見た事あるようなポーズを取っていた。

 悔しかったが、それでも楽しかった。どうやら出店はまだ続いてるようなので、アメリカンドッグとフレンチトーストという異色のコラボを満喫した。

 飲み物で買ったミルクティーは美味しかった。

 帰り際、霧崎さんに絡まれたが適当な返事をして家に帰った。

 


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