第34話 有栖川舞踏会 上

 考えてみればもう十月。そんな時期に文化祭をするのは普通だ。だって、大体の高校がこの時期に文化祭を行うからだ。天空寺さんの高校でも、文化祭はやるみたいだ。

 変わった名称にはだいぶ驚いていたが。

「校庭にて、開会宣言を行います。生徒の皆さんは、集まってください」

 これを一番楽しみにしているのは、間違いなく三上さん……と思っていた時期が私にもありました。

「ヘイ! 楽しんでるかい、ベイベー?」

 いきなり乱入してきたのは、霧崎さんだった。

「うわっ、ちょ、なんでこんな所に居るんですか。三年はあっちです!」

「構わんよ、時間はまだ十分もある。取り敢えず話そうじゃないか」

 この人はそんなに私と話したいのだろうか……?

「おーい、仕事だぞー」

「ウップス! 仕方ない。友人が待っているんでね…また会おう」

 そう言って持ち場に向かった霧崎さん。

 黒の帽子、赤いジャケット、ハート型のサングラス、靴は白の運動靴、穿いているのは青のジーンズ、中に着ているのは……『祭』と大きく書かれたTシャツだった。

「…………」

 相変わらずのファッションセンスに声が出ない。まずこれを、尊敬できる先輩として見るのは無理がある。

「どうしました? 奇抜な服装でも何でもいいんですよ」

 そう言って現れたゆいちーはストリートファッションだった。

「…………」

「待ってますね」

 これ以上はパンクしそうだ。皆が自由過ぎて、私一人だけ置いて行かれた感じになってしまったのが見て取れる。

「おはよって、おう……」

 後ろから声をかけた三上さんに気づかない位、私はパンクしていた。

 だって、鏡で後ろが見えたから。

 三上さんの服装は、本人に言えない位、ダサかったからだ。


 開会宣言をして自由時間になってから三十秒後、すぐに霧崎さんに絡まれた。

「ユー、楽しんでるかーい?」

「始まったばかりですよ」

「ソーリー。何か興が乗っちゃってねぇ、今日、興がのるってか。ははははっ!!」

 なんだこの先輩! 頭おかしいだろ…。

「あの、日程とかよく分かってないんで……」

「そこはノリで何とかするものよ。きっと大丈夫、天下を取りに行きましょう!」

「何言ってるんですか。天下って、ふざけて―――」

「いい日だから言ってるのよ~~~。そこは後輩らしく分かったふりするもんよ~」

 体を揺らしてくる霧崎さん。頭がグワングワンする。

「霧崎さん、そっちの仕事は終わったのかい?」

 声の方向に振り向くと、あいつが居た。

「終わったわよ。そう言えば書記のあの子はどうしたの? 数日前から姿が見えないのだけれど」

「気づいたら退していてね。本当に急でびっくりしちゃったよー」

「退学ねぇ~~」

 何かを感じ取ったかのようにニヤリとする霧崎さん。すると―――

「あーあー、残念だったなぁー、あの子可愛がってたのになぁ~」

「そうだね霧崎さん。お気に入り、だったよね?」

「そう。お気に入り。新しい子は入らないから、しばらくは二人で頑張るしかないな~」

「僕も、残念に思っているよ。じゃあ、また何かあれば呼び出すから」

「修弥くん」

 呼び止める霧崎さん。

「何だい?」

「その痣、怪我でもしたの?」

「……君には関係ないよ」

 そう言って、あいつは戻って行った。

「猫、被りました?」

「ええ、猫被った」

 この人も変な所でキレがいい。誉め言葉ではないが。

「さあさあ、友達が待っているでしょ。楽しまないと」

「え、今の時間」

「自由時間。大本は午後から。さ、行ってらっしゃい!」

 背中をグイっと押される。振り向くと、霧崎さんの姿は消えていた。

 まるで霧みたいな人だ。今日は、それを感じ取れたかもしれない。


「ふぉこふぃってふぉの」

「ちゃんと飲み込んでください」

 彷徨っていた三上さんと合流した。右手にホットドッグ、左手に焼き鳥、口にはほおばったドーナツ。首からポップコーンバケツをぶら下げている。頭にはカチューシャ(虎の耳)を付けていた。

「はあ……」

 はっちゃけてもいいとは言われたかもしれない。でも、流石にやり過ぎだ。釘を刺したいところだが、今日は許そう。

「口の周りがすごいよ。ちゃんと拭いて」

「ふぁふぃがふぉう、ふぃのみ、ゴホゴホ!」

「ほら言わんこっちゃない」

 ああ、本当に自由だ。羨ましいくらい。

 三上さんは腰にぶら下げている飲み物を手に取り、一口含む。

「んぐっ、んぐっ、ぷはあっ。キンキンだーっ!」

「ようやくまともな声が聞けたよ」

「そう?」

 ケロッとしている。その適応力のすごさに感服する。

「でもさ、どこに何があるってすぐ分かるの?」

「看板(ボリボリ)、あるからさ(ボリボリ)、すぐに分かるよ(ボリボリ)」

「……しゃべるか食べるかどっちかにせい!!」

「ぎぇやああああああっ!」

 私の鋭いツッコミが炸裂し、三上さんがおぞましい声を上げる。

 やっぱり私達は、漫才師の資格がありそうだ。


「クラス発表の時間です。準備をしてください」

 クラス発表。全クラスとなると時間が足りなくなる。その為、選ばれたクラスのみが発表を行うのだ。

 基本的に何でもありな発表の為、舞踏会の中で二番目くらいに盛り上がる、らしい。

「フーーーーーーーーッ! やってきましたクラス発表っ! 司会はこの私、霧崎安比奈がお送りしまーーーーーーーーーす!!!」

 相変わらずはっちゃけているのは何処のどいつだとツッコミを入れたくなる。でもまあ、悪くないと思った。

「劇を披露するのは、二年生の皆さんでぇーす! どうぞー!!」

 ステージで演じているのは、雪の王女様を助けるために色々な仲間を集めて行く冒険ファンタジーだ。

 雪の王女様役は、なんと、陸翔くんだった。

 衣装などの驚きよりも、二年生だったのかという思いの方が強かった。

 頑張っている陸翔くんの姿を見て、私は泣いてしまった。

 ………その横で、終夜さんは大粒の涙を流しながら舞台を見ていた。

 ああ、本当に面白い。明日はどうしようか……そんな事を考えながら、一日目はつつがなく終わるのだった。

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