第25話 空が青くて

「わーいわーい、やっきにく、やっきにくぅ」

「もう騒がないでお願い」

「……病み上がりだもんね。座ってていいよ」

 楽しそうにしている三上さんに怒ってしまう。けれど、怒るどころか気遣って座らせてくれた。

「はぁ……なんでこんな事になるのかなぁ……」

 水着を着ての焼肉パーティーをするなんて聞いてなかった。聞かされたのなら多少の準備は出来ただろうに。乗り物酔いは大丈夫だと自負しているのだが……

「四宮さん、りっくんと終夜の事頼みます。材料取って来なきゃいけないので」

 しのさんはそう言って家に駆け込んで行った。 ……陸翔くんの事で忘れていたんだろう。

 未だにプールに入っていない陸翔くんは、プールサイドから終夜さんをじっと見つめていた。気になったので、すぐ側まで行って話しかける。

「りーくとくん、遊びましょ」

「お兄ちゃん……溺れてる……?」

「ん?」

 陸翔くんが指差す方を見る。終夜さんは今にも沈みかけていた。何だか、未練のなさそうな顔をしていて―――

 私達は慌てて中に入り、終夜さんを助けに向かった。

「終夜さん、無事!」

「んな訳ねぇだろ……。 俺は負けたんだ……もう、楽に……」

「何言ってるの! 浴衣姿の陸翔くんに、美味しいものを食べて笑顔になる陸翔くんとか、可愛い陸翔くんが見れなくなるんだよ!」

「えっ?」

「うおおおおおおおおおおおっ!!! 死んでたまるかあああああああっ!!!」

 呼びかけに使った言葉は私の本音だ。それを聞いた終夜さんは、水に沈みかけていた体を急に起こし叫んだ。

「陸翔、お前は男らしくなくていい。そのままでいろ、頼む!」

 陸翔くんに体を向けると、終夜さんはそう言って懇願した。

「あっ、あ……うう……」

「陸翔くん困ってるよ、謝らなきゃ!」

「陸翔すまん! すま、ぐぼぼぼっ!!」

 勢いのまま土下座をしようと試みたが、水の中なので当然出来る訳がない。

 何がどうなっているのか分からず困惑する陸翔くんをよそに、溺れかける終夜さんを見て、私はつい笑ってしまった。


「何してるの……あの人達」

「四宮さんに遊ばれてるよ絶対……」

「ひらひら~。ふ~わふわ~」

 呆れる二人をよそに、私は自分の着ている水着を満喫していた。

 由香さんは私にかっこいい―――いや、可愛い水着を着せてくれた。

 腰から延びるひらひらは、身を守る四本の剣―――ではなくただのひらひら。

 胸のリボンは変身の証―――じゃないようだ。

 露出が皆の水着と比べてやけに多いのも、死闘をくぐり抜けて来た証拠―――じゃない。サイズはぴったりだし、白は高貴な印象があると思って勢いで決めたけど、後悔している。恥ずかしい。

 余りにも恥ずかしくて、体育座りで顔を伏せる。

「ううううう~~~~」

「お待たせしましたぁ~………どうしたんですか」

 やっと来てくれた由香さんが、私に気づいて声をかける。

「お肉だけ下さい……」

「だめです」

 即却下された。由香さんも意地悪だ。


「皆さーん、始めますよー」

 しのさんの声が聞こえたので振り向いた。

 その時、抱え上げていた終夜さんを落としそうになり、慌てて支えた。

「今行きまーす」

 陸翔くんと一緒に終夜さんをプールサイドに上げ、私達はプールから上がり、そのまましのさんの方に向かって走る。終夜さんは置いて行った。

「どうしますか? 野菜からにしますか?」

「お肉を先に」

「そう言う悪い子にはソーセージをあげましょう」

 三上さんの余計な一言でソーセージから食べる事に決まった。

「三上さんはもう出禁で」

「四宮さんひどい!」

「隊長はクズです」

「ふえっ!」

「野菜は体を健康にしてくれる食材です。それを後からなんて……失望しました三上さん」

「集団リンチだよぉ~~~~!」

 私含めた三人からの心無い言葉を浴びせられた三上さんは、涙目になりながらそう言った。

「げほっ、ごほっ、おい、残しとけよ俺の分」

「這って来ないでよ虫じゃないんだから」

「舞……お前毒舌だな、意外と……」

「終夜、口開けい」

「あ? んぐっ!!!」

 這ってここまで来た終夜さんに対して、しのさんは焼きたてのソーセージを無理矢理入れた。

「んんんんんんんん!!!!!!!」

 余りの熱さに終夜さんは飛び上がり、プールに落っこちた。

「お、お兄ちゃん……!」

「陸翔くん、無理するな」

 助けに行こうとした陸翔くんをわざと止める。私としては、これもからかいの一種だ。 ……他の人から見ればちょっとやり過ぎだと思うけど。

「さ、食べましょう」

「はーい! 一本もーらい!」

「あ、ずるい! 私も!」

「貴奈、私にも」

「ぷはっ、おい! 今行くからな、待ってろよソーセージ!」

「……おいしい」

「私の分ある?」

「ありますよ、いっぱい食べて下さいね」

 ソーセージが焼けたのを皮切りに、焼肉パーティーが始まった。

 空いたスペースに今度は豚肉が並ぶ。その横にシイタケ、輪切りにした人参、半分にしたピーマンが並べられる。

「野菜嫌い」

「「「!?」」」

 三上さんの言葉に、私も、須藤さんも、ゆいちーも驚愕する。私は少しキレながら言った。

「……焼肉なめてんの?」

「お肉だけでいいです」

 須藤さんも続く。

「隊長もう出禁で」

「お肉」

 ゆいちーも続いた。

「プールで溺れてて下さい。焼肉をバカにした罪は重いですよ」

 ゆいちーの強い圧に、三上さんは―――――

「……野菜好き」

「見事な手のひら返しだな」

 不服そうな顔でそう言った。終夜さんのツッコミも綺麗に決まった。

「……おいしい」

「もっと食べてね」

 一方、しのさんは陸翔くんのお皿が空くとすぐに、焼けた豚肉や野菜を載せていた。

「他にないの? やっぱ―――」

「エビ! イカ! タコ!」

「魚介類もありますよ」

「わーい!」

 きっと、一番楽しんでるのは三上さんだ。

 そんな事を思っている内にエビとイカが出てきて、網の上に載せられる。

「なあ、舞」

「ん?」

「俺が見た中で、一番いい顔してるぜ」

「~~~~~~~ッ!」

 突然そんな事を言われても……! 頭がパニックになって上手く言葉を返せない。

「ほほう? 恋愛沙汰か~?」

「う、うるさい! 三上さん出禁!」

「うっ……そりゃあ確かに変な事言ったかもしれんけど、恋人みたいだったから、つい……」

「あっ、えっと……」

 お互いに顔を真っ赤にしてしまう。

「どうしたんですか? 食べちゃいますよ~?」

「「食べないで!!!!」」

 しのさんの挑発に乗ってしまった私達は、同じ事を口にした。

 その後も、皆でからかい合いながらの焼肉パーティーは、日が沈みかけるまで続いた。

 




 



 

 

 

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