第24話 パーティー
まだ気持ち悪いが、吐いたらだいぶ良くなった。心配しているであろう三人の元へ行こうとしたが、しのさんが部屋で横になっていた方がいいと言ったので、そうさせて貰う事にした。
「お三方、待たせてすみません。こっちです」
しのさんが三人を案内している内に、指定された場所まで行く事にした。
「四宮さん、こっち……」
前を見ると、陸翔くんが小さく手を振っていた。返事は出来るものの、話したくなかった私は、速足で部屋の前に行った。
陸翔くんはすぐに引き戸を開けて私を通すと、ベッドに寝かせ、薄いブランケットをかけた。
「ありがとう、ごめんね。誘ってもらったのに、こんな事になって……」
申し訳ない気持ちで一杯になり、謝罪の言葉を口にする。
「いいですよ、別に……お兄ちゃんも由香さんも頑張ってるから。僕は……こんな事しか出来ないから……」
お礼をしただけなのに、なんか気落ちされた。
「ううん、出来る事を一つ一つやればいい。全部やれなくてもいいんだよ」
「四宮さん……ありがとう。 ……僕、嬉しいよ」
陸翔くんはほんのりと頬を赤くして私にお礼を言う。仕草もそうだが、声も、対応も、可愛さも完璧なものだ。
鼻血級と言っても過言じゃない。それだけ洗練されている。尊さを感じながら、私はそのまま眠りに落ちた。
「こちらへどうぞ」
案内されたのは、真ん中に丸くて大きいプールがある場所だった。
余りのすごさに言葉を失ってしまう。
「終夜、出番」
「はいはい」
めんどくさそうに返事をした後、終夜さんが前に出て来た。
「ようこそ我が家へ。俺は藤宮終夜。こっちが専属メイドの篠ノ井由香」
メイド服を着た女性、由香さんがお辞儀をする。
「で、弟の陸翔。今は舞の看病でいねぇけど、もうじき来るはずだ」
「今日集まってもらったのは、皆で楽しい事をしようと思ったからです」
由香さんが言う。
「はい! 何しますか!」
私は待ちきれずに、どういった事をするのか聞いた。
「ちょっと三上さん、早いってば」
「いいえ、いいんですよ。車の中で騒いでいたので沈めて―――口が滑りました」
今、とんでもない事を言いかけたような気が……
「き、気にすんな、おい由香そんな事より―――」
由香さんは振り向くと、終夜さんのお腹にアッパーをかます。
「うっ」
「黙ってて」
終夜さんはそのまま気絶してしまった。
私は思った。由香さんは肉体派メイドなのではないか、と。
口すらはさめない私達に振り向くと、由香さんは笑顔でこう言った。
「水着を用意しました。私が見張っているので、安心して着替えて下さい」
「ん……んぅ……」
だいぶ寝てしまったようだ。
「お、おはようございます……」
「お、おはよう……」
多分、お昼だと思うんだけど……まあ、いいや。
ベッドから体を起こした私は、部屋の外から聞こえる声が気になった。
「皆、何してるの?」
「えっと……その……ぼ、僕は……恥ずかしくて、そんなに、見てない……から」
気になった私は、窓からそっと顔を出して覗いてみた。
そこには、水着姿ではしゃいでいる四人の姿があった。だが、終夜さんは場違いだと思ってしまう。女の子をストーカーしている変態にしか見えないからだ。
「水着で、遊んでる……」
「は、恥ずかしくて、僕があそこにいるって考えると……しかも、水着ってなると……」
「うん、しょうがないよね……可愛いもん……」
「かっ、かわっ!」
つい思ったことを言ってしまったが、後悔はしていない。陸翔くんはまんざらでもなさそうだったから。
「私に見せてよ水着姿」
「あ、あのっ、そんな事言われてもっ、僕―――」
嫌がる陸翔くんに覆い被さるようにして抑え込む。
「つーかまえたっ!」
「う、うわあっ! だ、だめです~」
私は別に水着を着たいとは思わない。陸翔くんの水着姿を見たいのだ。それだけで私はここに来た意味がある。夏休み最初にして最後であろう陸翔くんの水着姿を見たいが為に、どんな手も使ってやろう。
「ぐ、ぐへへっ、陸翔く~ん」
「き、気持ち悪いですよ、四宮さん。手も変な動きしてて……!」
胸を揉み解すような手の動きをしながら陸翔くんに飛び掛かろうとした―――
瞬間、ドアがバンッ!と音を立てて開いた。
「りっくん! 焼肉の用意、を……」
目が合った。合ってしまった―――
「四宮さん? ……この状況、説明してください」
慌てた私は、そのままの状態で説明してしまう。
「い、いえ、悪気は無いんです。私は陸翔くんの水着姿を見たいだけであって―――はっ!」
「白状しましたね、四宮さん」
体が震えている。こんな事になるなんて……失念していた。
私はこのメイドの存在を、すっかり忘れてしまっていた……!
「……し・の・み・や・さ・ん」
「はっ、はい!」
恐ろしい程の罰が下るのではと思い、つい真面目に返事してしまう。そんな私に、しのさんがかけた言葉は―――
「……元気になったんですね。では、りっくんの水着姿で許してあげましょう」
「………………えっ?」
戸惑う私をよそに、陸翔くんの前でしゃがんでこう言った。
「大丈夫。ここには野蛮な男はいないから、好きに着替えていいよ」
もしかして、考えている事は同じだったのだろうか―――
「四宮さん、そこのクローゼットに水着がありますから。ひらがなで『りくと』って書いてあるやつです」
言われた通りのものを取り出す。
「これ、小学校のやつ?」
私がそう聞いても、陸翔くんは顔を真っ赤にして答えてくれなかった。
「そうです。りっくんのスク水ですよ、四宮さん!」
しのさんが目をキラキラさせながら答えた。
「じゃあ、これにしよう!」
「賛成! 気が合いますね私達!」
世間的にヤバい奴のように見られそうだが、気にしない。今の私達は誰にも止められないから……!
「ふふっ、りっくん、お着換えの時間ですよ~」
「ぬぎぬぎしようか~」
「あ、あの、ま、まっ―――」
慌ててその場を離れようとしている陸翔くんを捕まえ、可愛らしくする為に脱衣所まで連行するのだった。
夕食も兼ねてお昼にしようと言い、由香が場所を離れてから一時間くらいは経っていた。
「喉乾いたな」
「あ~つ~い~よぉ~~~~~」
「貴奈。ぎゅーはやめて、暑いから」
「二人を一緒にぎゅ~~~」
「……蚊帳の外だな、俺は」
三人の美少女がイチャイチャしている姿を間近で見せられては、俺の理性も吹き飛ぶというもの。
襲う、なんてしたら……いやいやいや、俺は健全な男子高校生。警察まっしぐらなんて事ゴメンだ。
そんな理性と葛藤する事数分、ようやく本人達が現れたのだが―――
「……………………は?」
先にいる三人に負けず劣らずの可愛い水着を着ていた。一人は由香、一人は舞、もう一人はまさか―――――
「り、くと。 …………お前―――――」
「は、恥ずかしいから…………見ないで……」
「グハアッ!!!」
やられた。もう理性は無くなった。そこにいるのは、ただ負けを認めた一人の男だった。
「お前ら……かわい、すぎ…………だろ……」
俺はガクッとうなだれる。完膚なきまでの敗北だ。それぞれの個性を十分に引き立たせた水着、抜群のプロポーション。男として、俺は何かが崩れた。
俺が轟沈している中、六人は焼肉の準備を始めるのだった。
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