第14話 一緒でも
「四宮さんって、部活入ってるの?」
「え……ああ、入ってないよ」
三上さんからのいきなりの質問にドキッとする。
学校に入学してから二か月、部活の事なんて頭の片隅にも無かった。
「じゃあ、読書部入ろうよ!」
「読書部?」
「うん、読書部!」
読書部。聞いた事の無い部活名だ。
「読書部ってどんな事をするの?」
「部員は、唯ちゃんと彩さん。部長はね、霧崎さんなんだって!」
まさかの霧崎さん。探偵に憧れて、と言ってはいたが、どういう事なのかいまいち把握出来なかった部分もあった。
もしかして―――
「読書部での推理小説の読みすぎ……しかも探偵の……」
「四宮さん?」
「え、あ、ううん、何でもない」
生徒会室にあるドアは入口と出口が兼用だ。なのに、もう一つドアがあるのはおかしいと思っていた。
「ねえ三上さん。部室って……」
「生徒会室の隣だよ」
私の予想は当たっていた。この部活に入れば、色々問題が起きたとしても大丈夫だろう。
そう考えた私は、三上さんにある提案をする。
「三上さんも部活入ってないの?」
「入ってないよ。どうせなら四宮さんと入りたいって思ってたから。 ……あんな事もあったしねぇ……」
三上さんがそう言ってくれるのは、素直に嬉しかった。
でも、自分が死にかけた事をネタに変える程の度胸は私には無い。
「じゃあ、申請届出しておくね」
「うん、よろしく」
三上さんは天然っぽいけど、やる事はちゃんとやっている。
一ヶ月来ていないにも関わらず、テストで平均より上の点数を取ったのは尊敬する。本人も、私達の見ないところで頑張っている証拠だ。
「……すごいなぁ、やっぱ」
私の口からは、そんな小さい声が漏れた。
「よろしくー!」
「お邪魔しまーす……」
「えっ、三上さん、四宮さん、なんで!」
ゆいちーが驚いている。それもそうだと思った。
入部の申請届は、部長に出す事になっている。それに、ゆいちーにも彩さんにも言ってすらいないのだから、当然知ってるはずがない。
つまり、私たちの読書部への入部は完全なサプライズと言っても良かった。
「ふふん、今日からここに入部します。以後、お見知りおきを……」
「威張らなくていいの」
そう言って右肩に弱めのチョップを加える。
「あいたっ!」
「彩さんは?」
「彩さんはお休み。色々立て込んでて、今日はどうしてもって」
「そうなんだ」
三上さんの事を無視して話を進める。
話の輪に入り損なった三上さんは、あたふたしていた。
「えっと、その、んー……霧崎さんはどこに」
「ここよ」
「ぎゃあああああああっ!!!」
そこまで驚くか、というリアクションで三上さんが驚いた。
倒れる拍子に机や椅子も巻き添えにしていて、物凄い音が響いた。
「み、三上さん!」
慌てた様子でゆいちーが駆け寄る。
「大丈夫? しっかり!」
「う、うう……そこまで心配してもらわなくても……」
ふらふらと立ち上がった三上さんは、ゆいちーに大丈夫だと伝える。
「あの子が三上さん?」
霧崎さんが私に尋ねる。
「はい、そうです」
「ふーん……貴女が親で、あの子は娘。そんな感じがするの」
「はあ……親子の関係、ですか?」
「気にしないで。こんなのは私の妄想に過ぎないから。ところで、いいのあなた達?」
「何がですか?」
「昼休み、もうすぐ終わるけど」
時計を見る。時刻は十二時三十分をとっくに過ぎていた。
淡々と、それでいて喜々とした様子で私達を焦らせようとしていた霧崎さんの思惑に気づいた私は、未だにふらふらしている三上さんと、三上さんの手を握っていたゆいちーを連れて、部室を後にするのだった。
「遅れるよ、二人とも。早く!」
「待って四宮さん、三上さんがまだ―――」
「気にしない!行くよ!」
「ふえ~~~~~~っ」
放課後、暇なので部室に行く事にしようと思った。
顔合わせは昼休みの時に済ませたようなものだ。だから気兼ねなく、と思っていたのだが……。
「ちーすっ。読書部ってここすかー?」
「……」
人が良さそうな男子と、恥ずかしそうにしている女子が一緒に入って来た。
「あら、いらっしゃい。入部希望者の二人?」
「そうっす。な?」
「(こくり)」
既に霧崎さんは知っていたのか、二人を笑顔で出迎える。
「四宮さん、先に紹介しておくわ。背の高い方が
兄弟……? 一瞬、不思議に思った。
「あの、兄弟って本当ですか?兄妹の間違いでは?」
そう聞くと、終夜さんが答える。
「ああ、ウチの弟だ。妹じゃない。そこは覚えとけよ」
終夜さんが私に対してそう言った。
こうなると、三上さんの反応が気になる所だが―――
「お、お、男の―――――」
「おいお前、それ以上言うんじゃねぇ!」
終夜さんは慌てて三上さんの口を押える。
「んー、ん、んんっ、んーーーっ!」
「わかってる、わかってる、言いたい気持ちは十分にわかる! でも言うなよ!」
そう念を押して、三上さんの口を押えていた手を離した。
「ぷはっ、おと―――」
「おい!」
また口を押えられた。まるで漫才を見ているかのようだ。
早弥さんと組めばトリオになる。終夜さんのツッコミと、二人の中二病ボケが合わされば……と、そんな事を考えてしまった。
「お二人さん、ちょっといい?」
霧崎さんが私達を呼ぶ。
「ここの部の説明をしてなかったから、今でもいい?」
「いいですよ」
「(こくこく)」
了承の返事をする。
「やる事は単純。本を読んだり、会話するだけ。いつでも来てくれていいから。まあ、私は部長の割に何もしていないのだけれど」
クスクスと笑う。
後ろを振り返ると、あの二人はまだ取っ組み合っているようで、いつの間にか来ていたゆいちーが頑張って止めに入っていた。
「今日はお開きにしましょう。早く帰って休みたいでしょ?」
霧崎さんは私に向けて、ウインクしながら言った。
「そうですけど……」
「じゃあ、家に寄ってくか?」
「(ブンブン)」
終夜さんの言葉に合わせ、陸翔くんも首を縦に思い切り振る。
「え、いいんですか。お邪魔しちゃって……」
「おう、大丈夫だ!」
終夜さんは眩しい笑顔を見せながら言った。
その直後、まだ取っ組み合っていると勘違いしたゆいちーが、終夜さんの頬を思い切り叩いた事で、二人は床に倒れてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます