第13話 こんな感じで

「みかみーん! だいじょぶかー!」


 早弥さんはそう言って三上さんの懐に飛び込む。

 だが、運悪くお腹にダイレクトアタックされた為、呻き声をあげて倒れ伏してしまった。


「みかみーんーーー! くっ、くそぉ……、誰だぁ! 我が友をこんな目に遭わせたやつは! 許さんぞぉーーー!」

「……早弥、うるさい」

「朝からよく騒ぐね。嬉しいのは分かるけど、あんまり痛くしたら、三上さんまた病院行っちゃうかもよ?」

「う……。 起きろ、フレンド! 親衛隊が心配してるぞー!」


 朝、私達五人しかいない教室で、コントが繰り広げられていた。

 ゆいちーと須藤さんはまだ来ていないが、きっとびっくりするだろう。一ヶ月弱も連絡の無かった友人がいるのだから。

 席について携帯を見る。現在、時刻は七時三十分。だいぶ早い方だ。でも、この時間に来たのには理由があった。

 教室の後ろにあるドアを見る。何かアクションがあるかと思って待っていると、右手がスッと入って来て、私に手招きをしていた。その右手に導かれるように、教室を出て行った。


「わざわざありがとう、こんな所まで」

「いえ、このくらいの距離は大した距離じゃないんで」


 手招きしていたのは霧崎さんだった。生徒会室に案内された私は、霧崎さんに三上さんが退院した事を伝えた。


「良かったね、大切な友達を失わないで。 ……ま、あなたなら当然だよね」

「はい……。 本当に良かったです。表情とかには出さなかったんですけど、心配しました」

「そう。 ……ねえ、四宮さん。三十分だけお話しない?」

「お話、ですか?」

「ええ、暇なの。誰とも話してないから」


 霧崎さんは私の話をちゃんと聞くために、机とお腹がぶつかりそうになる位の所まで椅子を動かしてきた。


「あの、そうまでしなくても……」

「いいえ、暇な人ほどやる事なの」

「そうなんですか……?」

「霧崎流格言その4。


 何だか、すごく無責任に感じるが……。

 先輩だという事もあり、折れる他無いと思った私は、三十分付き合う事に決めた。





 授業を終えた放課後、古那三姉妹は先に帰って行ったようだ。三上さんも手術の経過を見てもらう日だという事もあり、帰って行った。

 だから今日は、ゆいちーと須藤さんの三人で帰る事になった。


「いももち」

「ちりとり」

「りんご」

「ごま」

「漫画」

「ガムテープ」

「プリン」


 二人がこちらを見る。これで四度目だ。

 暇だからしりとりをしようと提案した須藤さん。私の意地悪癖が出てしまったのか、私の番で強制的に終了させるように、最初に言う事にしたのだ。


「四宮様……、何故……?」


 戸惑う様子の須藤さん。


「あはは……」


 苦笑いをするゆいちー。

 からかうにはこの程度が丁度良いと思っていたので、良かったと思う。逆襲に遭うのではと、内心びくびくしていたが、そんな事なくて安心した。


「もう一回やろうよ」

「え……、なんか嫌です」

「どうして? しりとり楽しいよ?」

「だって四宮様が強制的に終わりにするからですよ。しかも二周ですよ、二周。こんなに短いしりとりなんて、たまったもんじゃありません!」


 須藤さんが激しく抗議してきた。


「貴奈、わがままはいけないよ。四宮さん困ってる」

「ゆいちーも庇うんだな! いーもん、しりとりくらい一人で出来るもん!」


 ゆいちーが注意するが、須藤さんは関係ないといった様子で一人しりとりを始める。


「えーと、ジャム、ムクゲ、げんこつ、積み木、機械、居間、マントヒヒ、ヒール、ルッコラ、ラッパ――――――」

「パン」

「うわああああああ、邪魔されたぁーーー!」


 私は須藤さんの一人しりとりに割り込み、またも強制的に終わらせた。余程堪えたのか、須藤さんはそっぽを向いてしまった。


「やりすぎですよ、四宮さん。もっとこう、節度があるじゃないですか」

「節目で止めてます」

「嘘つきだぁーーー!」


 あぁ……、楽しいなぁ……。

 こんな時間がいつまでも続けばいいのに。そう思ってしまうのだった。





「ただいま」


 家についた途端、その言葉が出てしまう。癖だろうか。誰もおかえり、なんて言ってくれないのに、つい言ってしまう。

 まずは、宿題があるかの確認、次は夕飯を作って……ああ、洗剤も確認しないと……。

 忙しい。お母さんはずっと一人でやって来たんだな。そう思うと、お母さんには感謝しなければならない。

 居間には仏壇がある。その仏壇の前まで行き、手を合わせる。


「お父さん、お母さん。心配しなくても、ちゃんとやってるよ」


 写真の中の二人は微笑んでいる。正直に言うと、この写真の時の笑顔が一番だったと思う。


「……」


 しばしの沈黙の後、私は夕飯作りに取り掛かるのだった。






 ベットに飛び込む。


「はぁ……」


 少し息を吐く。これまでいろんな事があった。でも、今が一番楽しいと思う。

 分かってはいるんだ。


「私は……、いいのかな。ここにいても……」


 そんなつぶやきが漏れる。

 そうだ、なら――――――


「聞いてみようかな……」


 ウトウトとしてきたので、毛布を被る。そのまま私は眠りにつくのだった。


































 暗い、暗い。どこを見ても暗い。

 深海のような、闇のような、そんな空間に私はいた。

 私は、を見つけるために、その中を歩き回った。

 時間なんてわからない。だが、根気よく探し続けたお陰でを見つけられた。


「ねえ、ちょっといいかな?」


 に話しかける。


「私は……、ここにいていいのかな?」

「……」


 少しの沈黙の後、が口を開く。


「自分で決めて……」

「……そう」


 これ以上話すのは無理があった。ただ、自分の意思で何かが出来る、そんな人間に憧れていたのかもしれない。


「わかった。 ……頑張ってみる」


 夢かどうかは曖昧だが、ただ一つ分かったのは……。








































           は本当にいる事が分かった。

 


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