第12話 友達気取り

「いらっしゃい、二人共。ささ、こちらに」


 そう言って私達は、立派な和室に案内された。


「相変わらず広いなぁ……。 ここで色々したなぁ……」


 しみじみと思い出に浸る三上さんをよそに、私は隣の巫女さんに話しかける。


「そう言えば、名前聞いてませんでしたよね?」

「ああ、私は天空寺美咲てんくうじみさき。ただの高校生です」

「巫女さんやってる時点で普通ではないと思うのですが……」


 ツッコミを入れる。


「私もそう思うなぁ……」


 納得した。


「雷花ちゃんが待ってるよ。行きましょ?」

「ああ……うん」


 でも、まだ引っかかる。なんで舞ちゃん、なんて呼んだのだろう。

 そんな事を思いながら、私は天空寺さんの後に続くのだった。




「ここのお茶はうまいですなぁ……。 実家に帰って来たかのような感じがする」

「……たしかに」

「満足して頂けたようで何よりです」


 天空寺さんはそんな私達を見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「お菓子もありますよ。さあ、どうぞ」


 お盆に乗った大量のお菓子を、まるでカーリングのストーンのように投げる。それは、三上さんの目の前で止まった。


「わーい、お菓子だー」

「……いただきます」


 満足げな顔でお菓子を食べる三上さん。でも、私は中々手を付けられなかった。


「美咲ちゃん、こたつ、あったかい!」

「雷花ちゃん、幼稚になってる」

「あはは……、面目ない」


 頭をポリポリと掻く三上さんを見ても、私はずっと気になってた。


「ねえ、三上さん。話したい事って何?」

「ん?」


 食べかすが付いた顔でこちらを見てきた。


「はぁ……」


 仕方ない。そう思って、食べかすを手で拭った。そして、その食べかすを三上さんの唇につけた。

 驚いた顔をする三上さん。友達に見られて恥ずかしい思いをしたのか、俯いてしまう。


「可愛い所ありますよね、雷花ちゃん」

「そうですね……」


 しばらくすると、私の手をつねって来た。ちょっと痛かったが、大丈夫だった。


「話して。三上さん」

「んー、……わかった」


 意地悪されたのが悔しかったのか、少しムスッとしながら本題に入った。


「弟がいる事は話したけど、それ以外にもあるんだ」


 前置きをした上で話を進めていく。


「中学に入ってからかな……、なんかね、ポワワーンってわかるんだ、人の事が。心に何か抱えてそうな人に、こう……ビビッて反応するセンサー? みたいのがあって、絶対に異能的な奴だこれ、って思ったの」


 本人も上手く説明出来てなさそうだ。


「それで、私を?」

「うん。四宮さんは、初めて見たときからすごく反応してた。って思ったくらいには」


 助ける……?


「どういう事? 私は私だけど?」

「うん、まあ、信用してくれないとは思うんだけどね。 ……言った方がいいかな……?」


 三上さんは確認を取るように天空寺さんの方を見る。

 天空寺さんは頷き、いいよ、と言っているようにも見えた。


「あのね、四宮さんは……、気づいてるとは思うんだけど……」



































           「?」






























「あの……言ってる意味がちょっと……」

「分からないのも当然だよ。なんたって、


 特定の状況……?


「待って。例えば、どういう時にとか、こんな事になったら、とかあるよね」

「うん、そうだよ」

「そうだよって……。 ちゃんと話してよ」

「舞ちゃん、落ち着いて」

「っ……」


 自分を落ち着かせるように、深呼吸した。

 その上で、また話に戻る。

「私を助けてくれた時、四宮さん、誰かに絡まれてたよね? 多分、会長の手下かな?」

「手下って……。 部下の方がかっこいいと思うんだけど」

「それはいいの! でね、その時に出てきたと思うの。 ……自覚、あるよね?」

「……」


 胸に手を当てて考える。確かに、自覚はあった。またやってしまったのだと。

 けれど―――――


「そんな事、話してもいないのに分かるの」

「ふっふっふっ、動揺した悪役はボロが出るものだな。デス・カーニバル!」


 少し強めに言ったのがカギになった。まさか、あの三上さんに一本取られるとは。


「――――――――」

「雷花ちゃん、めっ!」

「あわわ、やられちゃった……」


 今はそんな可愛らしい会話も耳に入らない。それくらい、私は動揺していた。

 私の中にがいる事は分かっていた。こうして普通に生活が送れて居るのにも、何か理由があるはずだと。


「天空寺さんも知ってたんですか?」

「うん」


 そう言うと、天空寺さんはマスクを外す。


「わかるんだ、伊達に巫女やってるわけじゃないから。でも、雷花ちゃんからの電話で知ったの、舞ちゃんの事」


 ああ、そうか……。

 納得する。心のどこかでは、ずっと引っかかっていた。いずなちゃんが生きてるんじゃないかって。でも、再認識させられる。って事を。


「あの、もう、いいですか?」

「帰りますか?」

「いえ、そうじゃなくて……」


 言いにくいが……、言うしかなさそうだ。


「空いたコップに有無を言わせずお茶を注ぐの……」

「それな!」

「引っ込んでて」


 これじゃあまるで芸人だ。


「……ふふっ」


 そんな私達を見て、天空寺さんは少し笑うのだった。






「今日はありがとうございました」

「いえいえこちらこそ。二人の友人と会えて良かったです」

「ここなのに、天空だって。あっはっはっはっはっは」


 よくわからなかった。戸惑う私に、天空寺さんが小声で耳打ちする。


「ここは神社ですけど、私の名前に寺がありますから。だから、矛盾してるって事ですよ」


 そうか……。よくわかった。


「夜道は気を付けて。後これ、折り紙で作ってみたんですけど、お守り代わりの式神です。よければ……」


 差し出されたそれを何の疑いもなく受け取る。


「ご利益あると思いますよ。頑張って」

「ありがとう、天空寺さん」

「もう四時だね。帰ろう」

「うん」

「お気を付けて」

「うん、バイバーイ!」


 私達は天空寺さんの神社を離れ、家に帰るのだった。






道中、沈んでゆく夕陽を見ながら問いかける。


「ねえ三上さん」

「何?」

「友達、続けてくれるんだね」

「え、当たり前でしょ?」


 そう言うと突然、三上さんは私の頬にキスをした。


「み、三上さん! なんてこと……!」

「んっふっふー。友達のあ・か・し!」


 三上さんはにっこりと笑った。

 この笑顔は、いつまで守れるんだろう……。

 私はそう思いながら、三上さんといちゃついたまま、歩を進めていった。

 


 

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